第56話 魔法学校へ

エイナさんに連絡を取ると、およそ10日ほどで返事が戻ってきた。


 フォックスから王都まで片道でおおよそ一週間はかかると言われていたので、エイナさんはすぐに返信をしたことになる。

 

 俺たちは部外者なので、見学のための許可だけでも一か月、それで却下される可能性もあるわけだから、ありがたいことだ。


『了解しました。カオル先生にフェネル様、それに子供たち5人、見学という形で許可を取りましたので、お待ちしています』


 本来は俺と里長様の二人で王都へ行く予定だったのだが、子供たちも行きたいとせがんだため、無理を承知でエイナさんにお願いだけしてみたのだが。


 まあ、王都に行って帰ってくるだけでかなりの日数になるし、その間授業もできなくなるので、一緒についてくるのも悪い案ではない。それに、実際の魔法学校の授業なんかを見ておくのもいい経験になるはずだ。


 魔法学校の生徒たちとの交流は――さすがにできないだろうが。


「へへっ、温室育ちのお坊ちゃんなんか、まとめて全員俺の黒の闇で――てっ」


「言っておくけど、あちらさんに迷惑かけたら手刀じゃすまないぞ」


「わ、わかってるよ……ただ、あっちから吹っ掛けられる可能性はあるかもしれないだろ? 先生が舐められないように、俺たちがちゃんとしておかないと。なあみんな?」


 ジンの言葉に、他の四人が一様に頷いた。だが、別に王都の魔法学校に乗り込むわけじゃないので、妙に張り切るのは遠慮してほしい。


 フォックスまでは俺と里長様の飛行魔法で子供たちを運び、フォックスからはレンタルした走竜で移動することに。長旅になりそうだ。


 借りた走竜は二頭で、赤い鱗のほうに俺、ジン、アリサ。緑の鱗のほうには里長様とマルス、ジョルジュ、ミルミの四人が乗るような形だ。


「カオル先生、走竜の扱いがお上手ですね。わりと普段から訓練していないと乗りこなせないものなんですが、昔からそういう経験がおありで?」


「ええ、まあ。色々と当てもなく放浪してましたから、その時に少々かじってたというか」


 簡単に乗りこなせているのは、俺の器の影響だろう。あとは、今回たまたまあてがわれた走竜との相性がいいというのもある。


 初めにコイツがあてがわれた時、ジャハナムさんからは気性がかなり荒く気分屋なので注意してくださいと言われたのだが、俺と目を合わせた瞬間、ライル並みに懐いた態度を見せてくれた。


・バイモン(走竜 赤 性別:オス)

職業:渋木薫の従魔


 バイモンって名前なのだな……って、いや、懐いてくれるのは嬉しいが、ライルといいお前といい、勝手に従魔になるのはやめてほしいのだが。特にバイモンは別の主人がちゃんと管理して飼育しているのに、何が不満なのだろう。


 また俺に引き取れというのか……走竜、買おうと思ったらいくらするのだろう。


 ライルの時もそうだが、もしかしたら、この器、かなりの特殊能力が備わっているのかもしれない。自分の能力なんだから、別に開示してくれてもいいと思うのだが。


「フーッ!」


 俺の懐に入っているライル(一応連れてきた)がバイモンに威嚇するものの、バイモンはそんな彼を一笑に付すようにして、スン、と鼻息を鳴らす。


「ナ……」


「フンッ」


 最低でも二週間以上はこれから一緒に過ごすのだから、仲良くしてほしいものだ。


 ※


 走竜の体力と脚力はすさまじく、予定していた一週間の予定を五日で走り抜け、俺たちは王都へとたどり着いた。


 途中、かなり険しい道でもビュンビュン飛ばしていたので、俺は振り落とされやしないかと内心怖かったが、俺の背中の子供たちや、里長様以下は後ろで楽しそうにはしゃいでいた。改めて、俺の生徒たちは逞しい。


「お久しぶりです。カオル先生」


「お久しぶりです。すいません、急なお願いにもかかわらず」


「いえ。私のほうからもいくつか条件は出させていただきましたから、貸し借りはなしですよ。……どうします? ちょっと早い到着ですから、観光でもしていかれますか?」


「そうですね。ではお願いします」


 見学の日時は決まっているとのことで、お言葉に甘えることにした。


「私は通常業務で手が離せませんので、案内は私の研究室の助手のハミエが。ハミエ、皆さんにご挨拶を」


「どうも、魔法学校上級科一年のハミエです。短い間になるかと思いますが、よろしくお願いします」


 すっ、とエイナさんの一歩前にでた制服姿の女生徒が頭を下げる。きりっとした目鼻立ちと表情で、とても真面目そうな子だ。


・ハミエ=ロガルガ(ヒューマン) age:15

職業:魔法学校上級科1年 魔法剣士見習い

得意属性:土

腕力:56

体力:68

魔力:100

精神力:98

器用さ:78

知力:50

運:7

(特殊能力) 体術センスLV2


「…………」


「あの、私の顔になにか?」


「っと、申し訳ない。魔法学校の生徒さんと会うのは初めてなものですから、つい」


「そうですか? 特に大したものではないと思いますが……」


 ステータス、思ったよりも低いかもしれない。得意属性で比較するとマルスだが、現時点でおおよそ二倍の差はあるものの、今の能力の伸びなら一年もあれば追い越してしまうだろう。


 まあ、能力については数学のグラフのようにはいかないから途中で伸び悩む可能性もあるが……今のところ俺の指導で問題なさそうだ。

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