第55話 校舎づくり
女神様がしっかりと加護してくれていると知ってから、ミルミの授業態度に変化があった。
以前よりちょっとだけ不真面目になった。
もちろん、不真面目といっても、宿題を忘れたりだとか、授業を真面目に聞かなくなったとういわけではない。以前までは、他の子たちに引き離されないよう、勉強でも魔法でも、みんなより人一倍頑張っていたのを、無理のないよう自分のペースにしっかり戻しただけのことだ。
「あれ? ミルミちゃん、今日はもう帰っちゃうの?」
「うん。というか、実は私、今までみんなに合わせようとし過ぎて無理しちゃってたから、そういうのもうやめようって決めたの。私は私。みんなはみんな。そんなわけで、私は帰ってお昼寝でもするわ。おやすみ」
どれだけ頑張っても能力が伸びないことはあるし、そう言う時は別のことをやったり、焦らずのんびり待つことも重要だと思う。
まあ、たまにのんびりし過ぎて居眠りし始めることもあるので、その時はやんわり注意してやるぐらいか。
「……なんかミルミのやつ、少し前ぐらいから雰囲気変わったような……ねえ先生、なんか知らない?」
「さあ? ミルミも年頃だし、ちょっとずつ大人になってきたんじゃないか?」
「大人……大人か……」
「なんだよ、ジン。急に考え込んで」
「ん? いやさ、大人になれ大人になれって、よく父さんとか母さんにも言われるんだけどさ……俺はまだ子供だけど、大人って、どうなったら大人になるんだろうって。先生はどう思う?」
「また答えにくい質問を」
ジンはたまにこういうことを言うから面白い。純粋というか、実に子供らしい疑問を口にしてくれる。
15歳や18歳、20歳など、それぞれの世界で一定の年齢に達すれば普通は『成人』として認められるだろう。成長し、体が大きくなれば、勝手に大人と認定される。
だが、果たしてそれで本当に『子供』から『大人』なのだろうか。
俺の以前いた職場を思い出す。ただの子供、大人になるのを嫌がる子供、年齢だけ重ねて大人になった気分の子供……まともな大人なんて数えるほどしかいなかった気がする。
その大人も、結局は自分の保身ばかりだったような。
よくよく考えてみると、そんな場所でよく仕事を頑張っていたと思う。
「……先生、顔怖い」
「っ、ああ、ごめんごめん、つい昔の嫌な記憶を思い出してな」
「先生も色々あったんだね。ご愁傷様だ」
「どうも」
とりあえず、話を戻して。
「まあ、俺のことはともかく……大人ってのは、多分なろうとしてなれるもんじゃないと思うな。気づいたら勝手になってるもの、っていうのかな。いつの間にか大人の世界に放り出されて、その中でがむしゃらに頑張っているうちに、気づいたら『子供』じゃなくなってた……と思う」
大学を出て、就職して。たったそれだけのはずだったはずなのに、いつの間にか街ゆく子供たちに説教じみたことを言うようになって。
……それは、果たして大人なのだろうか。
「ふ~ん……なんか難しいね。大人って」
「そんなもんだよ、結局。まあ、ジンにもいずれそう感じる時が来ると思うから、今は頑張って勉強しておくんだな」
「わかった! いつ大人になってもいいように、これからも闇魔法の道を突き進んでいくよ!」
すまんが、それはちょっと違うと思う。魔法もいいけど、ちゃんと普通の勉強もやっていこうな。
「――ん?」
話が終わったところで、俺の前髪に、ぽたりと滴が落ちてくる。
雨だ――そう思った瞬間、だーっと滝のような雨が急に降りだしてきた。
この辺の森は一年中気候が安定して快適なものの、天候の変化はこんな感じでわりと激しい。
もちろん、雨が降っている間は授業は中断する。だいたい30分ぐらい待っていれば雨足は去っていくのだが、たまに長く振り続けることがあって、そういう時が大変だったりする。
雨が降りそうだったり、途中で雨が降り出した場合は俺の家や里長様の家で勉強をするのだが、五人同じ部屋に一緒に入るのには少々狭い。
「なあ先生、ずっと思ってたんだけどさ、そろそろ勉強するための小屋とか作ってみない?」
「小屋……学校みたいな感じか?」
「うん。そこまで大袈裟な感じじゃなくて、雨の時でも気にせず勉強できるようなさ」
魔法の訓練などはさすがに外だろうが、校舎を作るのはありだ。座学ならともなく、最近は子供たちの魔法の習熟が早く、それ専用の場所を作る必要を感じていたのだ。
普通の勉強をするための教室と、魔法の訓練場。広めの土地を用意する必要はあるし、時間はかなりかかるが、作っておいて困ることはない。今の子供たちが大人になっても、里には他にも小さな子供たちはいる。ジンたちが卒業した後は、その子供たちに使ってもらえばいいか。
「わかった。じゃあ、まずは里長様や他の人たちに相談にいこう」
まあ、里長様からは二つ返事でOKをもらったのだが。
ただ、学校のようなものを作る、といっても俺はこの世界の学校、とくに魔法学校というものをまだ良くは知らない。
現時点でどういう設備が必要で、また、今後より子供たちがさらに勉強に集中できるよう、どんな環境を用意してやる必要があるのか。
まずは、その調査が必要のようだ。
「魔法学校といえば、俺にはあの人しかいないか」
学校のことを聞くなら、学校の人に訊くのが一番。
ということで、俺は早速フォックス経由で魔法学校に勤めるエイナさんにコンタクトをとるのだった。
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