第54話 手合わせ


 「いやいや、手合わせっていきなりそんなこと言われましても」


 ミルミ……いや、この時点では女神だろうか。


 ミルミとラーマ様を引き合わせようとしたのは、確かに俺が考えたことだ。


 自分には才能がないと思い詰めるミルミの悩みを解決するために、それなら加護してくれている女神様と直接対話でもさせてやって、それで才能を証明してもらおうと。


 途中までは上手くいっているような感じだったのだが、どうしてこんな夜中に女神と戦うことなんかに。


・ミルミ(憑依状態 ラーマ)

得意属性:神聖 第二属性:光 第三属性:水 第四属性:風 第五属性:雷

腕力:2057

体力:3164

魔力:8199

精神力:5006

器用さ:982

知力:500

運:※※※(測定不能)

(特殊能力)無詠唱 マルチタスク 剛腕 自動回復LV9(体力・魔力) 鋼の心

【憑依状態解除まで 3:00】


 いやいや、この能力値は……おかしいだろう。


 女神が憑依しているし、時間が限定されているとはいえ、こんなのめちゃくちゃだ。これまで三桁ですごいなあと思っていたのに、急にインフレがやばいことになっている。これで力のほんの片鱗らしい……冗談じゃない。


 一瞬、幻覚でも見たのかと思って目をこすってみる。数値はもちろん変わらない。


 どうやら現実のようだが、とりあえず、土下座でもすれば許してくれるのだろうか。


「ミルミ、お前の方からもラーマ様に言ってやってくれ。まともにやったら俺死んじゃうよ……」


【心配しなくても、もし死んだら私がちゃんと生き返らせてあげるよ。女神の言うことを信じられないのかい?】


「――だそうだから、先生、ごめんね?」


 意識のほうは二人で共有しているようで、ミルミから、ミルミ本人のものとラーマ様の声で喋っている。


 ラーマ本人は癒しの女神らしいが、ミルミに憑依したその姿はまるで戦乙女のようにも見える。


「とりあえず死ぬことは前提なんだな……」


 こうなった以上、仕方がない。


「あの、一応聞いておきますが。三分間全力で逃げ切るというのは……」


「先生、それは格好悪いと思うな?」


 立ち向かってこい、と。


 バトル展開は、わりと苦手なんだけどな。


「……わかりましたよ。じゃあミルミ、胸を借りるつもりで俺も全力を出すから、お前も女神様の力を借りて存分にぶつかってこい」


「うん。ありがと、先生!」


 ミルミが構えをとった瞬間、俺に向けて突風のような風が吹き荒れる。おそらく実際は風など吹いておらず、ただ気合を俺へ飛ばしただけなのだろうが、足を踏ん張っていないとそれだけで彼方まで吹き飛ばされそうだ。


【三十秒待ってあげるから、それでできるだけ準備おし。後悔のないよう、全力でね】


「ありがとうございます。では――」


 俺はすぐさま神の書を呼び出して、できるだけ最上位の強化魔法をガンガン積むことに。今の俺のステータスがどんなものかはわからないが、おじいさん神からもらった器は、出来るだけ死守したい。


「その光る本……もしかして、それが先生の能力ちから?」


「! ミルミ、もしかしてこれが見えているのか?」


「あ、うん。女神様の目を通してるからかな――大丈夫、どんなものかは訊かないし、誰にも言ったりしないから。絶対に」


「……頼んだ」


 ミルミには色々知られてしまったが、ジンあたりならともかく、彼女だったら約束はきっちり守ってくれるだろう。


 まあ、子供たちには、大人になれば話す機会が出てくるかもしれないが。


 言われた通りに、強化をガン積みにし、ミルミ(に憑依したラーマ様)と対峙する。


【じゃあ、おいで】


「……いきます」


 すう、と息を吸って、俺は全力で地面を蹴って突進し――



 ※※



【ほれ、どうだい気分は?】


「……正直に言っていいなら、まあ最悪ですよね」


【まったく、情けないねえ】


 女神様のヒールによって、俺は目を覚ました。


 手合わせの結果は――わかりきっているが、もちろんきっちりと叩きのめされた。ミルミを不安にさせたお仕置きらしいが、それでぶっ飛ばされてはたまったものではない。


 強化魔法を限界まで積んでいたのと、ちょうど最後の一発をもらう寸前で時間切れになったので、さすがに死ぬことはなかったが、それでも、全身の関節と筋肉が悲鳴を上げている。


 憑依が解けた後、その反動もあってかミルミはそのまま寝てしまっている。


 体を思い切り動かして、その上で俺まで吹っ飛ばしてすっきりしたのか、とても幸せそうな寝顔だった。


【いやあ、すまんねえ。媒介になったアンタの魔力が思いのほか体に馴染んだから、つい張り切っちまったよ。ジジイのやつ、なかなかいい器を用意したじゃないか】


 今回憑依後のミルミの能力値があれだけのインフレを見せたのは、ラーマ様を召喚した俺の魔力による影響が強かったらしく、もしミルミ一人の力で憑依させても、せいぜい10分の1ぐらいにしかならないという。


 能力値の伸びも、ラーマ様によれば、しばらくは今と変わらずのんびり成長していくようだ。


「せんせえ……わたし、もうだいじょぶ、だから……むにゃ」


 これからも、しばらくの間は他の四人に先を行かれてしまうだろうが、焦ることはない。ゆっくり成長していけばいいし、俺もミルミが一人前になるまでは、ずっと見守るつもりだ。


 誰もが見惚れるような女性になることは、俺が、そして女神様が保証しているのだから。


【それじゃあ、私はそろそろお暇するよ。渋木薫、くれぐれもミルミのこと、よろしく頼んだよ。もしあの子がまた泣くようなことしたら、次はジジイもろともお説教だからね】


「……肝に銘じておきます」


 そう言い残して、ラーマ様は光の粒子を残し、その場から姿を消した。


 とりあえず、おじいさん神には今のうちにごめんなさいと言っておこう。



・ミルミ(ヒューマン) ※前回確認時より

職業:渋木薫の生徒 聖女の卵(※新規)

得意属性:神聖

腕力:10→10(+0)

体力;10→10(+0)

魔力:20→20(+0)

精神力:25→50(+25)

器用さ:20→20(+0)

知力:30→30(+0)

運:3→50(+47)

(特殊技能)女神の祝福LV1→LV2 女神の寵愛(※新規)



・俺による雑記  

ミルミへ:女神様を降ろすのはしばらく遠慮してもらえると助かります。

ラーマ様へ:ミルミに自分のことを『ママ』と呼ばせないでください。

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