第52話 女神様
今日の夜、ライルが寝静まったころを見計らって、俺は家の外にでて、儀式の準備を始める。
準備、といっても予め調べておいた魔法陣を描いて祈りをささげるだけなのだが。
「――先生、こんばんは」
火を焚いてゆっくりしていると、ミルミが小走りで俺の元にやってきた。
他の四人に内緒で夜抜け出してくるよう、里長様を通じて伝えていたのだ。
「こんばんは、ミルミ。よく来たな」
「本当よ。夜になったら一人で来てくれだなんていきなり言うんだから、びっくりしちゃった。もしかして、夜のお誘い? 私が柄にもなくあんなこと言ったから、慰めてくれるの?」
冗談交じりにませたことを言うミルミだが、それは緊張を隠しているためだろう。
呼び出したものの、まだ何をやるかは伝えていないので当然と言えば当然だが。
「ん~? まあ、似たようなもんかな。それで元気が出るかどうかはお前次第って感じだけど」
「……それってどういうこと?」
「まあ、それはやってみてのお楽しみってことで」
畑で獲れた薬草を使ったお茶を飲ませて気持ちを落ち着かせてから、俺はミルミと一緒に魔法陣の中心に立って、祈りをささげるようにして膝をついた。ミルミにも同じようにやらせる。
「本当はミルミ一人でやってもらう『儀式』なんだけどな。まだ魔力不足だから、今日は先生と一緒にな」
「先生、儀式って何のこと? 何かを召喚でもするつもり?」
「呼び出すっていうか、来てもらうようお願いするって感じだな。……ミルミを加護してくれている『女神様』に」
「それどういうこと?」
俺は祈りを捧げつつ、ミルミに神聖属性について詳しく教えることにした。
神聖属性は癒しと浄化の魔法を扱うわけだが、他の属性と決定的に違うところがあり、実は、魔法を扱うためには、術者を加護してくれる女神の許可が必要なのだ。
・神聖魔法の発動プロセス(例:ヒール)
1、術者が呪文を唱える(癒しの女神よこの者の傷を癒したたまえ――等)
2、呪文は女神に対しての『お願い』のようなもので、『お願い』が聞き入れられれば発動する。聞き入れられなければ発動はしない。(※『お願い』に使った魔力は戻らない)
その他、術の種類によっては複雑なプロセスを辿る場合もあるが、大まかな流れはこんな感じである。
なので、ミルミが普段使っている初歩のヒールも、実はちゃんと女神様がOKを出していたりするのだ。
そして、この女神様について。
この世界には女神様が複数存在している。神さまによって、癒しに特化していたり、アンデッドに対する浄化に特化していたりと、術の種類が異なるのだ。
どの女神様が加護してくれているかは、産まれた時点ですでに決まっている。つまり、神聖属性を持って産まれたミルミにも、ちゃんと彼女の成長を見守っている女神様がいるわけだ。
今回は、その女神様を降ろして、あることを確かめるつもりでいた。
もちろん俺も初めて会うのだが、きちんと呼び出しに応じてくれるだろうか。
「魔力は俺が補助するから、ミルミは女神さまにお願いするんだ。言葉は気にしなくていい。自分の言葉でお願いすれば、話ぐらいは聞いてくれるさ」
「うん、わかった。……女神さま、お願いします。私とお話、してくれませんか?」
ミルミが空に向かってそう呟くと、
【――ああ、いいよ。でも、今手が離せないからちょっとだけ待ってておくれ】
と、俺たちに直接問いかけるようにして、女性の声が響いた。
「! 先生、今――」
「うん。成功したみたいだな」
五分ほどだろうか、女神の言う通りにしばらく待っていると、俺が捧げた魔力を媒介にして、一人の女神が俺とミルミの前に舞い降りた。
女神……にしてはかなり恰幅のいいオバサンにしか見えないが、間違いなく彼女がミルミを加護する女神で間違いない。
・女神ラーマ(癒しと浄化の上位女神)
(※神のため、各能力値測定不能)
もしかしたら能力をのぞけるかなと思っていたが、神同士のプライバシーはしっかりしているようだ。
【あらあら、どうしたんだいミルミ。かわいそうに、そんな浮かない顔をして】
「! 女神様、私の名前……」
【ずっと見守ってたんだから、知ってて当然じゃないか。こうして会うのはまだまだ先の話かと思ったんだけど……アンタの差し金かい?】
「すいません。この子が自分の才能に悩んでいたので、無理を承知でお願いさせていただきました。応じていただき、感謝しています」
【礼儀はしっかりしているようだね。……まあ、まわりの環境が環境だからねえ。私も出来ればこの子とはお話したいと思っていたし、アンタへの興味がなかったわけではないからね】
「俺、ですか?」
【『ジジイ』とは昔からの知り合いでね。渋木薫、アンタのことも話を聞いていたんだ】
ジジイ……なるほど、おじいさん神のことか。どうやらそれもあって特別に応じてくれたらしい。
「先生……」
「さ、ミルミ。ラーマ様のところへ……悩みを全部受け止めてもらえ」
「う、うん」
【さあ、おいで。安心できるように抱きしめてあげましょうね】
ミルミを女神様のほうへやって、俺は召喚時間延長のための魔法陣維持につとめる。すでに体力はかなり消耗しているが、途中でへばると女神に怒られそうなので頑張る。
ところで、本人はまったく気付いていないが、実はこの時点で、ミルミにはすごい才能――というか体質をもっていることが判明しているのだが、ラーマ様にミルミにどうそれを教えるつもりなのだろう。
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