第51話 ミルミの悩み


 畑の作物とマルス、どちらもすくすくと育ってくれていることに安堵したが、もちろん他の子供たちのことについても気にかけていかなければならない。


 実は一人、他の子たちと較べて能力の伸びに差が出始めていたのだ。


「ふふ、ライル、こっちおいで。だっこしてあげる」


「ナ~」


 そう、ミルミだ。


 勉強の方はもちろん問題ない。教えたことを誰よりも早く理解して、他の子供たちに教えてくれている。魔法の方も、基礎練習までは同様だった。


 差が出始めたのは、個別授業含めた得意属性の練習に入り始めてから。


・ミルミ(ヒューマン) ※前回確認時より

職業:渋木薫の生徒

得意属性:神聖

腕力:9→10(+1)

体力;9→10(+1)

魔力:11→20(+9)

精神力:20→25(+5)

器用さ:11→20(+9)

知力:14→30(+16)

運:3→3(+0)

(特殊技能)女神の祝福LV1


 成長はしているが、マルスに較べて伸びが若干緩やかである。それ以外の子たちもすでにマルスと同等、もしくはそれ以上の成長を見せている子がいるので、数字だけみると、わりとのんびりな感じ。


 もちろん、他の子たちの成長がおかしい、ということもあるのだろうが。


 そして、ある自由時間のこと。


「なあミルミ~、さっきマルスたちと遊んでたら膝すりむいちゃってさ、ヒールしてくれよ」


「ジン、あんたねえ……人を救急箱かなんかと勘違いしてない?」


「まあまあいいじゃん、減るもんじゃねえし」


「魔力が減るって言ってんの!」


「いって!? 膝を叩くなよ膝を~!」


 と言いつつも、ミルミはジンにヒールをかけてやっている。傷口の消毒+傷自体の治療――うん、ちょっとした擦り傷なら完璧にできている。


「おお、さっすがミルミ。ありがとな」


「感謝するぐらいなら、もうガキみたいなことやめてよね……って、こら話聞いてんの~ッ!?」


 再びマルスたちとの輪の中に加わっていったジンに呆れつつ、ミルミは大人しく自分の勉強に戻るのだが。


「ミルミ」


「? なに、先生」


「大丈夫か?」


「……キツイです、かなり」


 俺には隠せないと思ったのか、大きく息を吐いて答える。覚えた魔法に対して、体力その他の成長が追い付いていない感じだ。


 すぐにミルミに回復薬を飲ませて、一息つかせる。畑には食べるものだけを栽培する予定だったが、思った以上に土壌が良く、それを見た里長様から薬の材料も栽培してほしいと頼まれていたのだ。これはその試作品で、俺が調合したものだ。


「ねえ、先生」


「ん?」


「私、みんなから遅れ始めてますよね?」


「! え~、っと。それはだな……」


「やっぱり。先生ウソが下手だなあ」


 ミルミはよく出来た子だけに、客観的に自分のことを判断することができる。他の子のことも、そして、それ以上に自分のことも。


 授業が終わってから、俺はミルミの話を聞くことに。


「最初の内は他の子たちと違った珍しい属性だから、特別だからって、自分に言い聞かせてたんですけどね。でも、さすがにあれだけ皆から置いて行かれてると思うと……」


「まあ、アイツらって目に見えて成長してるからな」


 闇魔法に傾倒し、得意属性よりうまく操り始めているジン。四人のなかでもっとも成長が早く、おそらく『天才』だろうと思われるアリサ。俺との特訓で才能が開花しつつあるマルスに、あの里長様から『素質あり』と特別に稽古をつけてもらっているジョルジュ。


 もしここに大きな学校があり、たくさんの生徒たちがいて、もっと大きな集団の中の平均を見ることが出来ればいいのだろうが、ここにはたった五人しかいない。


 俺の教えでどんどん伸びていく四人と、離されていく自分。


 気にしないようにふるまっていても、どこかで劣等感を感じてしまう――ミルミの心の内としては、そんなところだろうか。


「まあ、元々フォックスで泥水すすってた孤児の私に魔法の才能があるとは思ってなかったからね。幸い勉強のほうはまだ私が一番だし、魔法の方は期待しないで違うほうで頑張れればと思うかなって。だからそんなに気にはしてないよ」


 そう言って笑って見せるミルミだったが、どこか寂しげな雰囲気が漂っているのは、果たして俺の気のせいだろうか。


「じゃあ、私も帰るね。……ありがとね、先生。吐き出せて、ちょっとすっきりした」


 ライルにもお別れを言って、ミルミは遠くで遊んでいる四人の輪の中に入っていった。


 遊んでいる五人を見ていると、やはり断然ミルミがまとめ役にふさわしいと思う。ミルミは必要以上に引け目を感じているようだが、他の四人は相変わらず何かあればミルミに相談する。アリサなんかは特にそうで、最近はジンよりもミルミの隣にいることが多い。


 ……それが逆に劣等感を刺激している可能性もあるが。


 ただ、俺の考えとしては、まだ自分の才能を見限るには早いと思っている。確かにアリサのように早いうちからその片鱗を見せ始めることも多いが、きっかけ一つでくすぶっている才能が覚醒するのもまた人間のいいところだ。


 特にミルミは神聖属性。他の属性と違って、癒しと浄化の魔法を得意としているので、体質も他の子と較べてかなり特殊だったりするのだ。


「まだ早いかなと思うけど……降ろしてみるか」


 もう少し魔力精神力が充実してからミルミには『彼女』と対面させようかと思っていたが、このままだと、彼女の劣等感がやる気に影響し始めるかもしれない。


 言葉だけで説得するよりも、事実を示してやったほう手っ取り早い。


「なあ神の書、これから『女神様』と話したいんだが、儀式のほうはどう……」


 パラパラパラ、とすぐに該当ページが開いた。最近反応が早くて助かる。

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