第50話 旗揚げゲーム


 そこから数日ほど様子を見ていたが、ご褒美という言葉が効いたのか、思った以上の集中力を発揮してくれた。


「ん……右腕!」


 マルスが右腕を上げると同時に、ゴーレムが、その動きをトレースするようにして右腕をあげる。つい先日まではぬいぐるみサイズのゴーレムだったが、今は自分と同じくらいの背丈の大きさまで、形を維持できるようになっている。


「左腕! 左足!」


 今度は腕と足同時で片足立ちのような体勢。ゴーレムに平衡感覚など存在しないので姿勢の維持が大変だが、これもしっかりキープ出来ている。


 何度か繰り返しさせても、結果は同じだった。


 よし、これなら例のゲームに進んでもいいだろう。


「ん、いいぞ。よく頑張ったな。じゃあ、いよいよご褒美をかけたテストと行こうか」


「おう、どんと来やがれ先生! 俺とイチゴウの練習の成果、これからとくと見てもらおうじゃないか!」


「? イチゴウ?」


 そんな子、俺は聞いたことないが。


「ゴーレムの名前だって。なんか練習しているうちに愛着が湧いちゃったらしいよ」


 ジョルジュが教えてくれた。もちろん、その他の子供たちも全員見学にきている。


「まあ、本人が動かしやすいんだったら、それでいいさ。じゃ、今からゲーム始めるから、ゴーレムにこれを持たせてくれ」


「? なんだこれ……赤と白の旗?」


「そう。これからみんなには旗揚げゲームをやってもらう」


 ゴーレムの操作テストのために俺が思いついたのは、旗揚げだった。赤あげて、白あげて、というやつ。


 指示通りに上げ下げすればいいと思うことなかれ、やり方次第では結構面白いことになる。


「へえ、なんか面白そうじゃん」


「僕はテスト関係ないけど、やってみたいかも」


「先生、私たちもまざっていい?」


 この世界ではこういうゲームはなかったのか、マルスに一通りやり方を説明していると、他の子供たちも混ざってきた。もちろん、全員分用意しているので問題ない。


 あと、ジンが闇魔法で白旗を黒く染めようとしている。別にやってもいいが、それだと混乱しないだろうか。


「それじゃあまずはレベル1から」


 まずは小手調べでゆっくり行く。


「赤あげて」


 ばっ。


「白あげて」


 ばばっ。


「白さげて」


「赤さげて」


「赤あげないで、白あげて」


 ばっ。


「うん。いい感じだな」


 飛び入り参加の子供たちは当然として、マルスもゴーレムも淀みなく動いている。


「よし、じゃあ次はレベル2だ。ちょっとスピード早くするからな~。指示も紛らわしくするから、みんなよく聞くように。ミス二回でやりなおし。マルスはゴーレムが崩れたらやり直し」


 ということで、ここからがテスト本番だ。


「赤あげない」


 ぐっ。初手から引っかけだが、ここは大丈夫なようだ。だが、子供たちのうち二人、三人は体がピクリと反応したのを俺は見逃さない。

 

 あとマルスのイチゴウも。


「白あげて」


 ばっ。


「白あげないで、赤あげないで、赤さげない」


「!? あ――」


 マルスが声を上げた瞬間、イチゴウの体がガラガラと崩れた。


「はい。マルス失格」


「くっそ~、先生卑怯だぞっ」


「ややこしくするって言ったろ。で、再挑戦は?」


「やるっ」


 そうこないとな。とりあえず今日はマルスの魔力が尽きるまではやるつもりだが、さて、どこまでもつかな。


「……先生、たのしそうですね?」


 アリサにはバレバレのようだ。だが、こうして子供たちのことをからかうのも結構楽しんでいる自分がいる。俺もまだまだガキだ。


「よし、じゃあ次はレベル3。次は両足もいれるぞ~」


「……先生のオニ……」


 その後なんとかレベル2をクリアしたマルスだったが、今でそんなんじゃ先が思いやられるぞ。


 この旗揚げゲーム、レベル10まであるからな。


 ※


 そこから、さらに数日後。


「――赤あげて、白あげないで白さげないで赤さげない。白あげて、赤あげて、右足さげないで赤あげないで、白さげて。全部そのままで右足だけあげないで白あげないで赤下げない」


「おりゃ~っ!!」


 ばばばばばばっ!


「よし! マルス、レベル10クリア」


 そこそこ意地悪に設定していた指示を全てこなして、マルスはゴーレムのイチゴウとともにテストをクリアした。


 イチゴウのほうも、しっかりと正確な動きで、体が崩れることもない。


「ぜえぜえ……どうだ、見たかお前らっ!」


「うん、すごいよマルス。ゴーレムなしの僕たちだって、クリアするの割と面倒だったのに」


 じっくりと体に感覚に覚え込ませたおかげで、魔力操作に関しては、マルスが五人の中で抜きんでている。ゴーレムに関しても、今は自分が体を動かさなくても、頭の中できちんと操作できるようになったようだし、とりあえず、これで第一関門はOKというところか。


「オーケー、じゃあ、次は二体に増やして別々の動きを――って、冗談、冗談だよマルス。ご褒美もちゃんと叶えてやるからさ」


 戦闘でゴーレムを使えるレベルにはまだ遠いので、そちらについては、またおいおい学ばせていくとして。


「ところで、俺に叶えて欲しいこと、決まったか? 授業中もずっと考えてたみたいだけど」


「あ~……そのことなんだけどさ。ちょっと保留にしてもらっていい?」


 頭をぽりぽりとかいて、マルスが言う。ジンやジョルジュに話を聞く限り『もう決まってる』そうだが。


「それならそれで俺も面倒がなくていいけど……本当に今言わなくていいのか?」


「ああ、うん。俺がもうちょっと成長した時に、お願いしてみようかなって」


「??」


 マルスにしては珍しいが……まあ、本人の希望なら保留にしてあげよう。


「で、なんでマルス以外はそんなにニヤニヤしてるんだ?」


「「「「いや、別に」」」」


 仲良しなのはいいことだが、俺を仲間外れにしないでほしいところである。


 マルスのヤツ、本当は何をして欲しかったんだろう。


 

 ※ ステータス更新(前回確認分より)


・マルス(ヒューマン)

職業:渋木薫の生徒

得意属性:土

腕力:14→24(+10)

体力:17→30(+12)

魔力:9→52(+43)

精神力:16→48(+32)

器用さ:11→36(+25)

知力:9→30(+21)

運:3→3(+0)

(特殊技能)集中LV1→LV3 反射反応LV0(※新規)


俺による雑記:手を抜かずに頑張った証拠だ。えらいぞ。

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