第40話 魔女の弟子を自称する魔女見習い
「今、この中から聞こえたよな……」
聞き違えでなければ、女性の助けを求める悲鳴がしたような。
扉の方を押してみる。だいぶ重たいが、鍵はかかっておらず強く力を入れると開いてくれた。
扉を開けて中をのぞくと、内部には螺旋階段が。おそらく中の幹をくりぬいて改装したのだろう。上へと続く階段の途中途中に、内部を照らすランプが吊るされていた。
『……!?? ……!!』
『――!!』
騒ぎ声はなおも続いている。声の主は――上のほうか。
――ガシャン! ガラガラガラ!!
「騒がしいな……まあ、とりあえず様子を見に行ってみるか」
無断侵入だが、助けを求めている状況で許可云々は言っていられない。
可愛い外見ながら、本来は討伐ランクAに分類される『危険な魔獣』であるライルを勝手に持ち去った魔女が、自分の住処で悲鳴を上げている――なんとなく、どういうことになっているかは想像はつくが。
螺旋階段を上っていき、特に騒がしい音を立てている一室へ近づくと、予想通りの光景が俺の目に飛び込んできた。
「シャアアアアッ!!」
「ひ、ひいいいいいいっ!?? す、すいませんすいませんんんん!! 戻します、女の子たちのところに戻しますからっ、これ以上魔法撃たないでえええ!?」
バラバラに切り刻まれて散乱した書物、薬液の瓶などで床が埋め尽くされた小さな部屋の奥に、耳と尻尾をピンピンに逆立てて牙をむく戦闘状態のライルと、ローブをかぶってライルの飛ばす魔法から必死に身を守っている魔女の姿が。
ライル……かなり怒ってるな。それに、狩りの時よりも、全身から流れる魔力が多くなっているような。
・ライル(怒り状態 レア度:A)
体力:19→38
腕力:4→8
魔力:202→404
精神力:51→102
器用さ:3→6
知力:56→112
運:39→78
(特殊技能) 激怒(発動中)
(固有魔法) デストロイスラッシャー
なるほど、特殊技能の効果でステータスが単純に二倍になっているのかな。それに魔法が一種類になったかわりに、威力が多分パワーアップしている。
さすがはライルというべきなのか。いくら魔女とはいえ、こうなってしまうと太刀打ちできないと。
「ライル! やめろ!」
「キシャ――……」
俺の声に一瞬牙をむいたライルだったが、主の顔が瞳に映った瞬間、
「……ナー」
と、逆立てていた毛を元に戻して、俺の肩にぴょんと飛び乗った。
・ライル(鎮静)
体力:19→9
腕力:4→2
魔力:202→101
精神力:51→25
器用さ:3→1
知力:56→28
運:39→19
(特殊技能) なし
(固有魔法) なし
そして怒りが収まると、逆にステータスが元の二分の一に弱体化し、何もできなくなる、と。頭を撫でてやると、嫌そうな顔をしつつもゴロゴロと喉を鳴らしている。安心してくれたようだ。
「ひ、ひええ、た、助かった~これはもう死ぬかと――はっ!? そ、そういえばなんなんですかアナタは!! 私の家に勝手に入って……ここは、い、茨の魔女の住処なんですよ!?」
「俺はこの子の『一応』飼い主をしている者です。……アナタこそ、勝手にウチのライルを持ち去って、その言い草はないんじゃないんですか?」
「そ、それはその……ちゃ、ちゃんと一通り愛でたら返すつもりでしたしぃ……?」
「……ライル」
「うひっ……!? その子をけしかけるのは止めてくださいよ! この鬼、悪魔、えっと、それからそれから……!」
先ほどの話には聞いていたが、かなり幼い容姿だ。魔法である程度容姿を変えたりできるのだろうか。
ステータスが気になる。
「ところで、アナタの名前は? もちろん、本当の名前のほうで」
「はっ!? 誰がアナタなんかに私の情報なんかを」
「……ライル」
「!? う~……い、言いますよう。言いますからそれもうやめて……」
・ルクク(ダークエルフ) age:212
職業:魔女見習い
得意属性:土
体力:9
腕力:9
魔力:143
精神力:30
器用さ:250
知力:61
運:1
(特殊技能) 精霊の加護LV4 臆病
「! ダークエルフ……」
「よ、よくわかりましたね。私、肌がほぼ真っ白なのでよく『反対』のほうに間違えられるのですが」
「あ、いや……耳の先が若干褐色だったのでもしかしたらと」
存在は認知していたが、まさかこんなところで会うとは思わなかった。
まあ、種族云々はとりあえず置いておくとして、問題は職業欄の『魔女見習い』。
彼女が茨の魔女でないことはわかっていたが、まさか、魔女ですらなかったとは。
「あの……も、もういいですよね? ライルビットはお返ししますし、私も部屋はしっちゃかめっちゃかで十分罰は受けたので……んぎゃっ!?」
「そういうわけにはいきませんよ」
俺はルククの小さい頭を鷲掴みにして逃走を阻止する。
すでに反省はしているようだが、子供たちへの謝罪がまだだ。
悪いことをしたら誰であっても謝る。大人として当然のことだ。
「そういうことで、今から仲間のところに連行しますので。……大丈夫ですよ、ちゃんと反省して全部白状すれば悪いようにはしませんから」
「ひ、ひぃ~っ……!?」
すっかり縮こまった自称『茨の魔女』を連れ、俺は子供たちのもつ塔の根っこへと戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます