第38話 行方不明?
剣の岩を後にした俺たちは、早速次の目的地である『螺子と茨の塔』へ。
・螺子と茨の塔
樹齢数千年からなる樹木の集合体。螺旋のように枝葉が絡みつき、塔のような姿を模した円柱のように伸びている(現在も成長を続けている)ことから名付けられ、周辺国・地域の民より霊樹とされているが、樹木それ自体にはこれといった魔力などは存在していない。
元は『螺子樹の塔』という名称だったものの、後にその内部を住処としていた魔女(すでに死亡)によって侵入者を防ぐための茨が巻きつけられ、そこから現在の名称へと徐々に変化していった。
茨には現在も魔女の魔力が残留しており、害意を察知すると防衛機能が発動するため、触れる際には注意が必要である。
つまり、イタズラ半分で何かしようとすると危ないということだ。まあ、これについては出発前日にも子供たちに言っているので、心配はないだろうが――。
「ん~……」
「どうした、ジン?」
「先生。いや、なんかこう退屈だなって思ってさ」
「退屈?」
「うん……ここらへんってさ、本当はもっと騒がしいのが普通なんだよね。先生が俺たちのこと助けてくれた時もそうだけど、静かに見えて、陰では激しくやり合ってるっていうか」
アイシャ班のほうはわからないが、少なくとも俺たちの班はまったく、といっていいほど魔獣たちには遭遇していない。さきほど食材にした魔獣についても、偶然鉢合わせたわけではなく、俺たちで探して狩ったものだ。
生息しているのが夜行性の魔獣がメインということもあるのだろうが、それにしても遠くから鳥や虫の鳴き声がわずかに響いてくるだけで、それ以外は静寂そのものである。
平和に越したことないが、平和過ぎるのも考えものというか。
原因は……多分、俺なのだろう。
俺『渋木薫』のステータス欄は、相変わらずバグったままで、解読不能な文字列でデータが更新され続けている。
詳しい中身はわからないが、おそらく飛びぬけて強いステータスであることは、なんとなくわかる。賢い魔獣は本能的に『自分より力が上か下か』を判断できるから、それで結果的に危険(ジンやジョルジュにとっての)を遠ざけているのだろう。
「なあ、二人とも……俺って怖い人に見える?」
「「……」」
それとなく訊いてみると、微妙な顔をされた。
「冗談だって。普通に優しいし、頼りになると思うよ。けど……なあ?」
「まあ、たまに滅茶苦茶怖い時はありますけど。……ジンとかマルスが算数の宿題を忘れた時とか」
それは二人が魔法の修行ばっかりで教養をおろそかにしているからだ。魔法の実力があっても、常識がない人間にはしたくない。
「わかった。じゃあ、これからは怒るんじゃなくて、明確な罰を設定するよ。宿題を忘れたら里の周りを走って百周ってことで。うん、そっちのほうが俺もみんなもわかりやすくていいな」
「「今のままでいいです」」
ということで、現状維持となった。まあ、今まで通りの笑顔で根気よく諭していけば、みんな真面目にやってくれるはずだ。それに、殴ったりとか、連帯責任で罰とかっていうのは、俺の常識にはそぐわない。
こちらの世界ではまだまだ罰を与えるのが一般的らしいが、それもいずれは変わっていけばいいなと思う。少なくとも自分の目の届く範囲ではそうしたい。
――おい、ジョルジュが余計なこと言ったから、先生気にしちゃっただろ。斬新なお仕置きが発明されたらどうすんだよ。
――ジンが僕に話振ったからでしょ。っていうか、それなら初めから宿題やってきなよ。いくら闇魔法が使えても、先生には敵わないんだから。
……ひそひそ話、聞こえているぞ。
あと、斬新なお仕置きについては、ジンの希望通り考えておくことにする。
その後も何事もなく森の中を進み、二つ目の目的地へ。螺子と茨の塔――名前の通りの姿で俺たちを出迎えてくれたわけだが、そこで俺たちはアイシャ班と合流することに。
計算ならすでにアイシャ班も剣の岩にたどり着いているころだと思ったが……途中の道でなにかあったのだろうか。
「! 先生、それにみんなも」
俺たちの姿を見つけたアリサとミルミがこちらへ駆け寄ってきた。
少し慌てた表情をしているが、何かあったのか。
「どうした、二人とも? マルスとアイシャさんの姿が見えないけど」
あとは、ライルもか。まあ、こいつは大丈夫だと思うが――。
「二人は大丈夫。ちょっと周りを探してもらっているだけだから」
「……ん?」
ミルミの言葉に、俺は首を傾げた。
今この場にいないのは二人と一匹。そして、マルスとアイシャさんは無事。
ということは――。
「ライルがさらわれちゃったんです――あの、自分のことを『茨の魔女』だっていう女の人に」
「――話、詳しく聞かせてくれ」
どうやら少々厄介なヤツが現れたらしい。
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