第37話 間章:アイシャ班
※
『子供たちと遠足をする予定なのですが、ちょっと危ない場所なので引率を手伝ってくれないでしょうか?』
普段、契約社員として働いているギルドに最近登録した『魔法先生』のカオルさんの指名で、私はこの仕事を引き受けた。
魔法先生、とは私たちギルド職員の間で呼ばれているカオルさんのあだ名みたいなもので、名付け親は私、アイシャである。最近はさらに省略して『先生』で伝わるように。
もちろん、バカにしている意味ではなく、本当にその実力を認めての『先生』だ。
初めにカオルさんを見たときは、『なんだか冴えない男の人だな~』と思っていたが、カオルさんの担当として仕事の紹介を始めてからは、色々と考えるのをやめた。
まず、どんな仕事でもまず失敗しない。フォックスのほうで依頼が来る仕事の内、どんな冒険者でも必ず1回か2回は、失敗することがある。予期せぬ邪魔が入ったとか、アクシデントで撤退を余儀なくされるとか。
私は兼業でやっているが、冒険者の立場から言えば、これは仕方のないこと。高難度の仕事ならなおさらだ。冒険者なんて、一歩間違うだけであっという間に命を落とす危険な職業。
仕事は湯水のようにわくが、命はたった一つ。なので、無理はしない。この仕事の鉄則だ。
だが、カオルさんは、今までどんな仕事でもミスなく一発でこなしてきた。
うちのギルドにもたまに『これはちょっと無理なんじゃないか』という依頼が舞い込むことがある。狩りの対象があまりにも強かったり、また、周囲の環境が危険すぎて命の危険があったり。
そう言う時に、カオルさんの出番だ。
『あのですね……こういう仕事なんですけど……あと、ちょっと……いや、だいぶ、とっても危ないんですけど、大丈夫ですか?』
「はい、わかりました」
この二つ返事。もちろん、お金のほうはいつもより多めに支払う必要はあるが、それであっさり仕事を終えて、詳細な報告書も出してくれて、涼しい顔をして帰っていく。
カオルさんの書く報告書は、他の冒険者と違って、びっしりと、それでいて要点をまとめつつ詳しく書かれている。字もきれいだし、几帳面で、一応は現役の事務職の私なんかよりもよほどしっかりしている。
もともとそういう前職でもやっていたのだろうか。次に同じような仕事があった時のために、周囲の気候や地形、注意すべき魔獣の攻撃、または弱点など……私たちが把握している以上の情報もあって、カオルさんの報告書は、重要書類としてギルド長室の金庫に大切に保管されている。
まあ、そんなこんなで、頼りにはなるが色々と謎の多い人だ。
そんなカオルさんから依頼が来たのだから、それはもう受けなければならないだろう。いつもお世話になっているお礼もあるし、あと、それなりにカオルさんの本来の仕事についても興味があったので。
で、ここまで三人の子供たちを引率した感想だが――やっぱり、先生の教え子なんだな、と納得した。
「――ミ、ミルミちゃん、そっち……!」
「わかった。ライルお願い、やっちゃって!」
「ナ」
まず、アリサちゃん、ミルミちゃんの女の子二人組。アリサちゃんが光魔法のシングルレイの軌道を発射後にぎゅんぎゅん曲げるという技術で魔獣を追い回しておびき出して、遮蔽物がなくなったところで、先生のペット(!?)らしいライルビットが、風の刃で一撃。
お昼ご飯用に木の実や果物を採取している際に襲ってきた魔獣も、まさかこんな子供にやられるとは思わなかっただろう。私も思わなかった。
「いてて……くそ、油断して一発もらっちまった」
女の子たちは無傷だったが、それはマルス君がとっさの土魔法で壁を作り、突如突進してきた魔獣の体当たりを防いだためだ。頭にたんこぶが出来ているが、それは衝撃を防ぎきれずに転んでしまったからで、大した怪我ではない。
「マルス、ありがと。はい、おでこ出して」
「……ん。あ~あ、俺も早くアリサみたいな攻撃魔法打ちたいな~」
「アンタはまず土壌魔法をしっかり学んでからでしょ。先生の畑で特別に教えてもらってるくせに、文句言わないの。……女神様よ、戦士の傷をどうかお癒しください」
ミルミちゃんがヒールを使っている。この子たち、確かまだ11歳とか12歳だったはず――魔法学校だと、まだ魔法を使う前段階だったような。
アリサちゃんはハーフエルフらしいからわかるとして……フォックスでついこの間まで孤児をやっていたマルス君とミルミちゃんまでそんな才能があるなんて。
多分カオルさんのほうについていった男の子二人も似たような感じだろうし……あの人、いったい子供たちに何を教えているのだろう。
場所が場所なら、この子たち、わりと『天才』ともてはやされるはずだ。本人たちは世間知らずなのか気づいていないみたいだけど。
「さてと、先生たちの分も確保したし、早いとこ目的の場所にいきましょうか。先生たちよりも早くハシの泉についてやるんだから。ほら、行こ、アリサ」
「う、うん。えと、じゃあマルス君も……」
「あいよ。……アイシャさん、すいません。ミルミのやつ、女のくせに騒がしくて」
「え? え、ええ。でも、あんまり慌てないようにね~……」
魔法を使った後も元気いっぱいの三人と一匹の後を追いながら、私は思う。
子どもたちの引率って……これ、私の存在いるだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます