第36話 神器の適合者


【 ――適合者 を 感知・確認 しました。 鍵を 解除 できます 】


 どういうことだろう。


 なおも聞こえてくる声に俺は一人首をかしげる。


 ジンとジョルジュはいつの間にか俺の足にすりよって気持ちよさそうに寝息を立てている。ということで、もちろん彼らではない。


 しかも、この声妙におかしな抑揚である。まるでそれぞれの音声を組み合わせているような……そう、ちょうど機械音声のような。


「ここにいるのは、俺と子供たちだから、ということは残りは……」


 剣の岩しかない。


 そういえば、これって創造神の一人がつくった対害虫用の兵器だったか。さすがにその機能は失われているだろうと思いきや。


 適合者、と俺のことを剣の岩は判断しているようだが……もしかして、おじいさん神からもらったこの体、神界の素材か何かで構成されているということか。


 まあ、ステータスの数値がバグってたり、色々と謎の多い器なので、わからなくもないが。

 

【 四桁 の セキュリティコード を 入力 してください 】


「まるでATMみたいだな……」


 適合者とはいえ、俺は本来の持ち主じゃないので、そんな暗号を訊かれてもわかるはずもないが――。


「……神の書、わかる?」


・剣の岩 セキュリティコード 4649(ヨロシク)


「おいおい……」


 わかるようだ。そして、なんてベタな数列だろう。はっきり言って、セキュリティコードの意味がない。


 創造神にはまともな情報リテラシーが備わっていないと見える。


「4649、ねえ……」


 ブウウウン、とかすかな低い音を出しながら、剣の岩が起動を待っている。


 解除コードについては、俺の目の前に浮かび上がっている数字のディスプレイにタッチすればいいようだ。


「…………」


 俺はそのまま指を伸ばして、数字をタップしていく。


 ――1、1、1、1、と。


【 コードエラー です。 もう一度 入力 してください 】


 ――1、1、1、1、と。


【 コードエラー です。 もう一度 入力 してください 】

 

「はいはい」


 そうして俺は再び1を四連打した。


 正解のコードは入力しない。というか、絶対に入力などしてやらない。


【 コードエラー です。 三回失敗 の ため 起動 を ロック しました 。スリープモード へ 移行 いたします 】


 そう言って、剣の岩はもとのどでかい静かな岩へと戻った。


「起動なんて誰がするかよ、冗談じゃない」


 神の作った兵器……興味深いのは確かだが、この剣の岩は誤作動を起こして魔族を大量殺戮した危険な兵器である。興味本位で起動して、また何をやらかすか分かったものではない。


 どう考えても余計なことしかやらかす気しかしない……なので、このまま二度と起きてこないことを祈るばかりだ。


「ん……先生、なにしてんの? 岩にむかってぶつぶつ……」


「……それ、やっぱり珍しいものなんですか?」


 剣の岩が大人しくなったと同時に、二人が目を覚ました。まだ出発まで時間はあるが、俺が剣の岩とあれこれやったせいで起こしてしまったらしい。


「う~ん……いや、俺にとってはただのデカい岩かな。神聖な力は宿ってそうだけど。……さて、ちょうど起きたことだし、そろそろ出発しようか。さっさと次行って、先にハシの泉で水遊びでもしてマルスたちを待っていよう」


 次は『螺子と茨の塔』だが、


「お、それいい考え」


「僕も構いませんけど……ジン、着替えは? ちゃんと持ってきたの?」


「いや。ってか、別に濡れてもいいだろ」


「そんなんじゃ風邪ひくって……俺持ってきてるから、それ着なよ」


「へえ、気が利くじゃん」


「今回だけだよ。俺はアリサちゃんみたいに世話焼きじゃないからね」


「! ジョルジュ、お前まで……!」


 再び元気を取り戻しぎゃあぎゃあ騒ぎ始めた二人を微笑ましく見つつ、俺は剣の岩を後にする。


 さようなら、剣の岩。多分来年は別のところに行くから、もう来ることはないだろう。


【 所…… の ……棄 を …… しました。 暫定…… と…… ……………ル を ……… ……者 として …… ………… 】


 去り際、剣の岩から何か聞こえた気がする。


 なぜか嫌な予感しかしないので、やはり定期的に様子を見に行ったほうがいいかもしれない。

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