第34話 伝承と現実


 まず、俺が引率をするカオル班が向かうのは、剣の岩という場所。


 その名の通り、剣の刀身のような形をしている巨大な岩で、ざっと数千年以上前の遥か昔から、風化なども一切なく、まるで新品の剣のような光沢を残している神秘的な場所とのこと。


 里長様から聞いたエルフ族の古い伝承によれば、


【魔の眷属たちにより世界が闇覆われし時、闇の勢力と誇り高く戦い続けた我らエルフ族の願いに応えた精霊神が、魔を滅すために天空より振り下ろした神の剣の一振り】


 らしいのだが、神の書によると、


【剣の岩】

 創造神の一人が、住処に沸いた黒甲虫を駆除するために製作されたが、虫に対する憎しみのあまり思った以上に破壊力が出てしまい、結局使用を断念。処理に困って下界に廃棄したが、ちょうど魔族との戦争下にあった下界にて誤作動が起こり、その際、偶然にも空を占領していた一帯の魔族を全て滅ぼしたため、エルフ族を中心に神聖なものとして伝承が広がっていった。


 となっている。


 ちなみに記述に出てくる黒甲虫というのは天界に生息するゴキブリのようなものらしく、つまり、わかりやすく言ってしまうと、


『ゴキブリ憎しで武器を作ったのはいいけど、ヤバいのが出来上がったのでゴミ処理に困って下界に捨てたらなぜか崇められてたんだが』


 という、なんともくだらない話である。


 まあ、真相のほうは俺の胸の内に置いておくとして、伝承と実際の情報に食い違いがあっても、神が作ったものであることは間違いないし、一度この目で見てみるのも悪くないと思う。


「先生、さっきから何ぶつぶつ言ってんの? ぼーっとしてると置いてっちゃうよ」


「っと、悪い悪い。今行くよ」


 久々の遠出に張り切っているのか、ジンはジョルジュを伴ってどんどん先へ先へと進んでいっている。


 一応、魔獣たちとはできるだけ遭遇しないよう、道中のルートは慎重に選定したつもりだが、こちらには俺一人しかいないので、しっかりと監視しておかなければ。


 ちょっと目を離した隙に、まるで神隠しにでもあったように忽然と姿を消す――この世界でも、そう言う話は珍しくないようだし。


 少し、対策しておくか。


「遅いよ、先生。こんなペースじゃアリサたちに負けちゃう――ん?」


 すぐさま二人に追い付いた俺は、すぐさま彼らの頭に手を置いてぽんぽんと頭を撫でた。


「? どうかしましたか先生」


「いや、やっぱりお前たちはかわいいなと思ってさ」


「はあ……」


 俺の意味不明な行動にジンもジョルジュも首をかしげているが、とりあえず二人に関してはこれで大丈夫だろう。


 こうなるとアイシャさんのほうにもかけておくべきだったか――まあ、あちらのルートのほうは前日に『ロケハン』済みなので、問題はないだろうが。


 その後、俺たちは順調に剣の岩へ向けて進んでいく。


 道中、昼食で食べる用の狩りをする予定だったので、そちらをジンとジョルジュにも手伝ってもらうことに。獲物は、この前ライルが狩ってくれたきてくれたものと同種のウサギ。


 仕留めるのは難しいが、素早いだけで攻撃は弱いので、怪我のリスク少なく経験を積むことができる。


 これまでの魔法訓練によって、初歩の魔法ならどちらも使えるようになっているから、二人でまず出来る限りやってもらい、ダメそうなら俺が協力するという手筈になっている。


「ふふふふ……さあ、見てろよ先生。この俺の闇魔法で、どんなヤツだって一撃で闇に葬ってやるから」


「普通に狩ってくれ」


 ということでまずはジンからだが、ジンのやつ、なんと風の基礎攻撃魔法を覚える前に、闇属性のほうを覚えてしまったのである。


 ・ジン

 新規取得項目 『第二属性:闇』


 勉強は頑張っていたし、そのために深夜まで付きっ切りで教えることもあったが、まさか、こんなにも早く芽が出るとは思わなかった。


 第二属性以降の取得は、魔法学校の教師であるエイナさんですら取得にはかなり時間がかかったのだという。


 ジンにもその手の才能が眠っていたということだろうか。


「PI――!?」


「げっ、俺渾身のダークショットが外れただと……!」


「ジン、あとはこっちに任せて」


 二人がかりのでの狩りは続いており、お次はジョルジュ。


 ジョルジュの無属性魔法は補助が中心なので、基本は体術、もしくは武器を使っての戦闘となる。ジョルジュは剣を使うのが好きなようなので、里長様に協力してもらって個別に剣の稽古をしてもらっている。


 彼もまたのみ込みが早いと、里長様が褒めていた。


「――あっ、やばっ……」


 身体強化によってスピードを上げたジョルジュの一振りだったが、間一髪のところで空を切ってしまう。惜しい……が、彼も彼ですごい成長だ。


 ということで、ジンもジョルジュも、少し前とはまるで別人である。


(一応、詳しく確認してみるか)


・ジン(ハーフエルフ)  age:12

 得意属性:風 第二属性:闇

 腕力:8→9(+1)

 体力;9→9(+0)

 魔力:19→35(+16)

 精神力:25→30(+5)

 器用さ:16→17(+1)

 知力;10→15(+5)

 運:10→10(+0)

 ※(特殊技能)精霊の加護LV2


 ・ジョルジュ(ヒューマン) age:12

 得意属性:無

 腕力:11→20(+9)

 体力:11→20(+9)

 魔力:7→8(+1)

 精神力:16→19(+3)

 器用さ:17→24(+7)

 知力:10→17(+7)

 運:3→3(+0)

 ※(特殊技能)体術センスLV0→LV2


 ステータスが劇的な伸びを見せている。


 昨日まではこれといった変化はなかったはずだが、これが若さというやつか。子供が日々成長しているのはわかっているつもりだったが、きっかけ一つでこうも成長するとは。


「先生、ごめんなさい。あとお願いします!」


「! ああ、はいはい」


 結局最後にいいところを持っていったのは俺だったが……この分だと、あとひと月もすれば二人だけで狩りが出来るようになるだろう。


 素直で、俺の言うことをちゃんと聞いてくれるだけでも最高なのに、その上素質もあるとは、なんといい子たちなのだろう。


 残りの三人も含め、これからも楽しみな教え子たちである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る