第33話 遠足当日
そして、遠足当日。
まず初めに、俺と一緒に子供たちの引率をしてくれる方の紹介をすることに。
ジンにはずっと彼女でもないし親しい関係でもなく仕事上の付き合いだけだと説明しているのに、
『先生、今日仲の良い女の人連れてくるんだってさ』
と言ってしまったため、遠足をやることを伝えてから今日まで、子供たち皆から色々聞かれる羽目になってしまったのだ。
「え~……こちらはアイシャさん。俺が登録している冒険者ギルドの職員さんで、同時に冒険者としても活動しています」
「「「「「おー……」」」」」
だからなぜ皆して『この人が先生の……』みたいな眼差しを向けるのか。
「すいません……こいつら、俺が女性を連れてくるのが珍しいみたいで……」
「あはは……でも、私もこういう風に子供と接するのなんて久しぶりですから。新鮮な気分になれて嬉しいです」
ということで、俺が同行を依頼したのは、冒険者ギルドで俺にとってはお馴染みのアイシャさん。案の定、苦笑いをされている。
そりゃそうだ、と思う。子供たち以外の異性の中でもっともまともに喋れるのがアイシャさんだが、それでも好感度は15しかない(※しかも神の書による好感度数値の最大値は別に100でもない)。
俺も彼女も互いに『仕事上のお知り合い』ということだ。
「でも、まさか指名依頼が来るとは思いませんでしたよ。カオルさんには、私が冒険者をしていること、言ってませんでしたよね?」
「デスクワークがメインの仕事にしては妙に鍛えられているなあ、と思いまして。それでジャハナムさんに訊いてみたんですよ」
本当は現在のランクまで全て把握しているが、それだと怪しまれてしまうため、一応、ジャハナムさんと話をした次第。
アイシャさんに依頼した理由は、アリサやミルミともフレンドリーに接してくれるだろうと思ったためだ。実際、受付の様子そのままで明るく社交的だし、女の子二人はすでに馴染みつつある。
「あの……」
「あ、マルスくん、だったよね? 今日はよろしくね。はい、お近づきの握手!」
「! ど、ども、です……」
おお、マルスがちょっと恥ずかしそうにしている。いつもなら誰でも分け隔てなく接しているので、わりと意外な反応だった。
まあ、アイシャさんはその外見から冒険者の中ではアイドル的存在のように扱われるという話だし、緊張することもあるか。
「……なあ、ジョルジュ」
「うん。これはいい弱みを握った」
そんな様子を見て、ジンとジョルジュが二人して悪そうな笑顔を浮かべている。こっちは問題なさそうだな。
なんだかマルスにばかり負担をかけているようで申し訳ないが……まあ、後で少しはひいきしてあげるか。
「ナー」
「お、やっとお目覚めかライル。今日はミルミと一緒にいてやってくれ」
ミルミも気づいて、ライルに向かって手招きする。
「おいで、ライル」
「ナ~!」
すぐさま俺の鞄から飛び出したライルが、ミルミの胸に飛び込んだ。現状、ライルはこの中では俺の次に強い。なので、ちょっとした魔獣ぐらいなら先回りでやってくれるだろう。
わがままだが、やる時はやる男。それがライルである。
子どもたちもそんな彼を頼っているのだが、そのライルをぎょっとした顔で見つめる人物が。
アイシャさんだ。
「ミ、ミルミちゃんそれって……ら、ら、ら……!?」
「? はい、ライルビットですけど……それがどうかしましたか?」
「え、あ、いや……危なくないんだったら全然いいんだけど……………あの、カオルさん、」
アイシャさんが俺のほうをジトっとした目で『これはいったいなんなんですか? 説明してください!』と言わんばかりの圧をかけてきた。
……そう言えば、ライルの存在を彼女に言うのを忘れていた。
ギルドにおけるライルビットのランクについて。
ライルビットはかなり危険な魔獣として認定されており、討伐難度は上から二番目の『A』難度に認定されている。単純な一対一だと、アイシャさんの冒険者ランク的にあっさり力負けするだろう。
「その子は大人しいですから、心配いりませんよ。ただ、耳の毛がぴんと逆立った時だけ離れるようにしてください。攻撃魔法を使う兆候ですので」
「ナ~」
予想通り、アイシャさんのことも好みのようだ。さすが女好き。
「あ、あはは……本当、大丈夫かな」
引きつった笑顔を見せつつ、アイシャさんたちの班が先に出発していく。
今日は回るのは三か所だが、俺たちの班は『剣の岩』、『螺子と茨の塔』の順で、アイシャさんたちは逆に『螺子と茨の塔』、『剣の岩』、そして最後に『ハシの泉』で集まって昼食という予定にしている。
「よし、じゃあ俺たちもそろそろ別ルートで……ん?」
と、ここで、カシャカシャ、という音をさせて、神の書がなにやら情報のアップデート作業をしている。このタイミングで更新する情報……一応、確認はしてみるが、
・渋木薫に対する好感度(異性)
アイシャ 15→12(-3)
なぜか好感度が下がった。
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