第32話 遠足準備
授業後、俺は、家庭訪問と称してジンの家を訪れた。
目的はもちろん、次の授業休みの日に行う予定の打ち合わせについて。
久しぶりに訪れたジンの部屋は、俺が居候をしていた時よりも随分片付いていて、それに新たに学習机が追加されていた。机の上には教科書や俺の作った教材などがあり、親御さんに話を聞くと、毎日しっかりと勉強しているようだ。
ジンが個人で学んでいるのは、初級の闇属性魔法。どうやらよほど俺の暗黒波動を使えるようになりたいとのことで、別で魔法書を仕入れてあげていたのだ。
俺としてはまず風属性がきっちり使えるようになってから、と思ったのだが、そっちもちゃんとやるからとジンが言うので、第二属性も並行して学ばせている。
まあ、そちらのほうはまた後で見るとして。
「里からそこそこ遠いところで、道中が危なくなくて有名な場所かあ……あるにはあるけど、でもなんで?」
「ああ、近々遠足でもしようかと思ってさ。先生の俺が言うのもなんだけどずっと勉強ばっかりだったし、五人の親睦を深めるためにもいい機会かなと」
「ふうん……まあ、俺はどっちでもいいけど」
マルスたち孤児院組の三人と、それから里のジンとアリサの二人組にはまだ微妙に壁がある。その点をマルスも肌で感じているのか、特に反論はしてこなかった。
「里の近く……っていっても、結構歩くけどね。場所はいくつかあるよ」
授業用に使うということで里長様から借りた地図を見つつ、ジンが該当の箇所を指差していく。
神の書でも調べることはできるが、道中の危険があるかどうか、あったとして出来るだけ楽なルートがあるかなどは、地元の人間に訊いたほうがいい。
「ここからだと『ハシの泉』、『剣の岩』、『螺子と茨の塔』あたりなら近いし、ヤバい魔獣ともごくたまにしか遭遇しないからいいんじゃない?」
ハシの泉については、里長様や他の若い衆たちがそこの湧き水を汲みにたまに出かけているので、知っている。そこからさらに足を延ばしていけば残りの二か所にはたどり着く。往復でも一日で歩いて帰ってこれる距離だし、遠足にも適したコースであるといえる。
俺個人で言うと、そこのコースとは真反対の方角にある『地獄渓谷』や『煤の森』、『亡人の階段』などに興味があるものの、ここは名前の通り危険な魔獣の住処らしいので、力や経験のある里の人たちでも、滅多に近づかないらしい。
ただ、景色は絶景とのことなので、ここは時間ができたら一人で行ってみることにしよう。冒険者としての仕事で行く機会があるかもしれないし、経験を積むという意味で。
「あ、そうだ。一応言っとくけど、ハシの泉はエルフの人たちなら誰でも知ってるから、時間によっては国のヤツとも遭遇することがあるかもね」
国のヤツ、つまりはハイエルフの国から来た人たちのことだ。国に引きこもりがちだといっても、中には冒険者などをしている者もいるだろうから、できるだけ無用な接触は避けたいところだ。
俺の目からはエルフもハーフエルフも容姿はそう変わらないが、ジンによると『人間の血も引いている分匂いがまったく違う』とのことで、仮に純血を装ってもすぐにばれてしまうらしい。
まあ、その辺は対策を考えておくとして。
「あとは組み分けかな……ジン、当日は二組に分かれて行こうと思ってるんだけど、誰か組みたいヤツはいるか? アリサ以外で」
「俺は先生と一緒なら他は誰でもいいよ。マルスのヤローはむかつくけど、まあ、我慢できないこともないし」
「わかった。じゃあ、俺の組はジンとジョルジュにして、残りはマルス、ミルミ、アリサの三人しよう」
「……先生、俺の話聞いてた?」
この遠足は普段あまり積極的に話さない同士で行動してもらいたいので、少なくともジンとアリサは分ける。ミルミとアリサが一緒なのは、まあ仕方がない。女の子二人だが、マルスのほうは大丈夫だろう。
「ところでさ、二組に分けるのはいいとして、アリサのほうの組は誰が引率すんの? はっ、まさか先生が二人になる……なんてことは……」
できないよね? という目で見つつも、ちょっと期待した眼差しを俺へと向けるジン。
結論から言うと、分身魔法になるだろうが、できないこともない。ただ、身代わりだけならともかく、そこからある程度操作とするとなると、色々な魔法を同時にこなす必要があって、今の俺には訓練が足りない。
「三人組にはライルをつけるのと、あと、よそからもう一人護衛の人を引率に頼もうかなって思ってる。部外者だけど、まあ、信頼できる人だよ」
お願いに行くのはこれからだが、一応スケジュールは空いているはずなので、あの人なら受けてくれるはずだ。
「信頼できる……あ、もしかして先生のカノジョとか?」
……違う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます