第30話 ライルの能力


 突然俺のもとにやってきた謎の白猫(に似た魔獣)は、種族名からとって『ライル』と名付けられた。


 おそらく元の飼い主から別の名前を付けられているはずなので、気に入ってくれるか心配だったものの、ミルミから『あなたは今日からライルね』と言われると、


「ナ~」


 と、まさしく猫なで声で応じてくれた。


 俺が呼んでもわりと塩対応だったくせに……まあ、五人の内の誰かに懐いてくれるだけマシか。ミルミ、悪いがその子の躾は頼んだ。


 ミルミに飼わせても良かったが、居候先の里長様にも迷惑が掛かるだろうし、今回はやはり俺の家ということで。


 そして、ライルが俺の家の新しい住人として加わったことで、子供たちのメインの遊び場が里の広場から俺の庭となった。


 出来ればもう少し静かな環境で自分の勉強や教材づくりをしたかったが……賑やかなのはいいが、結局学校とそう変わらなくなってしまったな。


 だが、ライルを飼って、決してマイナスなことばかりではない。



「? ライル、そのウサギ……」


「ナ」


 ある日のこと、家の外で焚火の準備をしていると、日中どこかに出かけていたライルが、小さな野ウサギを口にくわえて戻ってきた。


 食材としてはかなり貴重なもの――フォックスでも仕入れることはできるが、かなり高級なお肉だったはずだ。


「プレゼントってことか?」


 ライルは焚火のそばに獲物を置くと、欠伸をしながら俺の家の中に戻っていく。


 ウサギのほうは、ライルによって完璧に仕留められていた。皮一枚を残して、首の骨が鋭利な刃物のような何かで綺麗に切断されているが、これはライルがやったのだろう。


 ライルビットは、風の魔法を扱うことができることは以前に知っていた通り。


・ライル(№107 ライルビット レア度:B)

職業:渋木薫の従魔

得意属性:風

体力:19

腕力:4

魔力:202

精神力:51

器用さ:3

知力:56

運:39

(特殊技能) 激怒

(固有魔法) ウインドスラッシャー フェアリーヒール エアスクリーン


※ 従魔コンプリート率  1/217



 魔力がかなり高く、それだけなら魔法教師のエイナさんを超える。魔獣が使える魔法は固有のもので、これ以外のものは使えないようだが、攻撃に、回復に、それから防御……一匹で全部賄うのだから、これで十分だろう。


 それからまた変な項目が増えている。レア度はまあ、アイシャさんの冒険者ランクのことなどもあるからいいとして、ナンバーやら、コンプリート率やら……まあ、俺も元の世界ではゲーマーのはしくれだったので、なんとなく意味はわかるが。


 職業欄で○○の従魔と出れば、そこから元の飼い主が追えるかもと期待していたものの、そこまでは無理と。


「しかし、渋木薫の従魔……ね」


 ミルミにばかり甘えた態度をとるライルだったが、一応、俺のことは主人として認めているらしい。


 態度からはまったくそんな感じはしないのだが……まあ、わかっているのならいい。仲良くやろう。


 とりあえず、ライルが初めて狩ってくれたこのウサギを捌くことに。


 こちらでの生活にも慣れたもので、このぐらいの小型の動物の処理なら割とお手の物である。


 ちなみにこのウサギは後ろ足やお腹の部分に程よく脂がのっていておいしい。胸や前足のほうはやや硬いものの、高たんぱく低脂肪。内臓もほぼすべて食べることができ、骨もいいダシが出る。つまり捨てるところがない。


 今は調理器具や調味料が揃っていないから、肉は焚火に直で焼いて塩をふり、後は骨を煮込んで簡単なスープぐらいだが、いずれは手の込んだ料理も作りたいものだ。


「おーい、ライル。そろそろメシにするから、寝てないでお前もこっちにおいで」


「…………」


 ライルは無言のまま首だけこちらを向け、そして、そのまま元の体勢に戻って再び寝息を立て始める。


 起きたら勝手に食うから用意してろと……こいつめ。


 まあ、飼い主だから、そりゃ用意はしてやるが。ライルビットは基本的に雑食らしいのだが、こいつに限って言えば、なぜか肉と、あとは甘い果物しか食べない。


 程よく脂ののった肉に、果物の糖質……狩りで動いて運動すれば問題ないが、栄養の偏りは良くないから、野菜もきちんと食べさせなければ。


「となると、野菜を細かく刻んでハンバーグにして誤魔化して食べさせ――」


「ナー」


 いつの間にか起きて、べしべしと俺の足を叩いてくるライル。


 さっきまで寝てたはずなのに、こいつめ。


「……はいはい、そのまま食べたいのね。わかったよ」


 こいつが嫌がらないような野菜の栽培が急務である。

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