第28話 自宅の完成と畑


 先日よりアリサのご両親にお願いをしていた俺の自宅が完成したとのことで、俺は生徒たちと一緒に見に行くことに。


 新居用に色々と家具を揃えるつもりのため、引っ越しはまた後日の予定。今後はここから里のほうに通うことになる。といっても、徒歩10分ほどなので、それほど遠いわけではないが。


「へえ、ここが先生の新居か~、しっかりしてんじゃん」


「アリサのお父さんと、それからアリサのおかげだよ」


 ぽんぽん、とジンとは逆側にいたアリサの頭を撫でる。


「え? いや、私は別に大したことは何も……子供だから家を建てるお手伝いとかはできませんでしたし」


「そんなことないさ。アリサ、お父さんたちと一緒に家の設計とか手伝ってくれたんだろ? お母さんから聞いたよ」


 授業中、いつも真面目なアリサがうたた寝をすることがあったので、それとなく事情を聞いたときにご両親が教えてくれたのだ。


 家の建設に関しては素人もいい所だったので、ほぼすべて丸投げのような形だったのだが、家の間取りなどは、全てアリサが考えたものだという。


 先生にはお世話になってるから、ということで、それは先生としてとても嬉しいのだが、毎日の勉強はしっかりこなしつつ、それと並行して両親の仕事の手伝いということで、子供の体にはかなり大変だったはずだ。


「ありがとな、アリサ。家、大事に使わせてもらうから」


「あ、はい……あの、そう言ってもらえると嬉しい、です」


 俺が改めてお礼を言うと、顔を真っ赤にさせて俯いた。アリサは控えめな性格だが、一度決めたらやり遂げる芯の強さがある。教師としては、そんな彼女の良さをさらに伸ばしていけたらと思う。


「ジン、そんな不機嫌そうな顔しなくてもだから、安心しろって」


「んなっ!? お、俺は別にそんな顔してねーし!」


 ジンがアリサと同じように赤面する。非常にわかりやすい性格をしていて助かる。


 他の三人に話を聞く限り、俺が冒険者の仕事で里にいないときなどは、二人は常にべったりで『正直、間に入り込む余地がない』らしい。


 まあ、幼馴染の男女が仲がいいのは結構なことだ。このまま仲違いせずゴールインしてくれると嬉しい。


 クラス内での痴情のもつれ……前担当したクラスでもあったなあ。あの時は女の子のほうが刃物とか持ち出して大変だった。


「……どうしたの、先生」


「いや、別に」


 俺の視線に気づいたミルミが怪訝そうな顔を浮かべている。


 ジンやアリサはともかく三人はどうなのだろう、と一瞬思っただけだが、まあ、そこらへんをいろいろと詮索するのは無粋か。


「へえ、中は結構広いじゃん。これなら女の一人や二人連れ込んでも大丈夫だな。な、先生さんよ?」


「バカ言え、マルス。広くしたのはお前たちがいつ遊びに来てもいいようにするためで、そんな目的これっぽちもないよ」


 というか、そんな甲斐性があれば、とっくに彼女の一人や二人できている。


 一応、仕事の付き合いでジャハナムさんと一緒にフォックスの夜の街に繰り出すことが数回あり、そこで女性を紹介されたことはあるが、大抵コミュ障を発揮するだけで終わった。


 ん? 神の書がまた不審な動きをしている。パラパラとめくられたページの方に目をやると、

 

【現在の渋木薫に対する好感度 ※異性、表示は昇順】

 

・アイシャ(ギルド職員 age:19)

 好感度:15

・エイナ(魔法学校職員 age:25)

 好感度:10

・メリノ(酒場店員 age:21)

 好感度:2

・ア――――


 すぱぁん。


 すぐさま閉じた。こいつ、いい加減してほしい。ご丁寧に顔写真までつけて――そういうのを『いらぬお節介』というのだが、知っているか。


「先生どうしたの? 顔怖いけど」


「……いや、別に」


 まあ、その話はともかくとして、今は家のことだ。


 自宅については、こういう家がいいということでイメージだけオーダーし、それをもとに設計図を作ってもらって、そこから微調整して必要な材料などを揃えた。


 材料は、里の周辺の木材が中心。木材だが、耐火に優れ、夏は涼しく冬は暖かく、外からの衝撃にも強い。住居の素材としては理想ではないだろうか。


 後は、庭について。


 土地は広めに整地したのだが、それは自分専用の畑を作ろうと思っていたからだ。


 これはこちらの世界に転生する前からのささやかな野望だったが、庭付き一軒家が欲しいとずっと思っていたのだ。休みの日に家庭菜園でプチトマトやキュウリなどを育て、ゆっくりと一日を過ごす。傍らに猫ちゃんか犬がいるとなお良し。


 このままだと種を植えても土が適していないのでダメだが、そこで魔法の出番。

土魔法の鍛錬もかねてマルスと一緒に畑を耕す予定だ。今のところはマルス一人が個別での鍛錬となるが、いずれは他の四人も考えていかなければ。


「先生、火の準備ができました」


「ありがとうジョルジュ。じゃあ、今日は新居完成ってことでお祝いでもしようか」


「「「「「おおー!」」」」」 


 その後は、里長様や、新居を作ってくれた人たちを交えて、ささやかな宴会をすることとなった。


 住居が新しくなっただけで特にやることは変わらないが……ここにいる子供たちやお世話になった里の皆には、これからも変わらず過ごしてほしいものだ。

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