第27話 エイナの事情


 私はエイナ。国立魔法学校で教師をしているにじゅ――いや、女性教師だ。


 教師生活を始めて5年、このたび上級クラス担当の主任講師に任命されたわけだが、正直、面倒な仕事が回ってきたと、内心うんざりしていた。


 というのも、主任講師となると、普段の生徒たちの授業のほかに、ある一つの仕事が追加されることとなる。


 それは、新しく魔法学校で働いてくれる優秀な人材の確保……つまり採用活動だが、これが面倒でしょうがない。


 新しい教員の採用だって、元は専門の人がいた。だが、近年の不景気もあって、予算削減を国から迫られ、その結果として、初等クラス、上級クラスのそれぞれの主任講師がその仕事を兼務することになってしまったというわけだ。


 給料は……当然上がるわけもない。というか、採用活動の費用すら一部しか負担してくれない。


 年度ごとに毎年一人の採用ノルマがあるため、給料を減らされないために私も頑張っているのだが、その際の費用を負担してくれる上限額が決まっており、10万かかっても、20万かかっても、上限の1万しか負担してくれない。


 ……これなら給料下がったほうがまだマシかもしれない、というのは禁句だ。


 魔法学校の仕事に誇りを持っているのなら出来るはずだ――そう上司から伝えられる度、心の中で幾度となく『このハゲ野郎』と舌打ちしたものだ。


『教員としての経験があり、なおかつ別のところでも一定の実績がある三十歳以下の男女』だなんてすごい選り好みしてるくせに、自分たちが出せるのは私たち以下の月給とか、本当、バカにするのもいい加減にしろといいたい。


 子供に何かを教えるのは好きだし、学校の施設を使って研究できるからということで選んだ仕事だったが。


 そう愚痴りつつ、いつものように冒険者ギルドの掲示板に求人情報をのせてもらおうと、たまたまフォックスの街を訪れたとき――ある一人の人物が、私の目に留まった。


 ×××

 

「それで、私の力を見るために、こうして一緒に採取に同行したと」


「そういうことです。まあ、素材の補充が必要だったのは本当ですし、そのついでに噂の人物の実力を確かめてやろうと――申し訳ありませんでした」


「いや、大丈夫ですよ。別に怒ってないですから」


 愚痴をいろいろ聞かされてしまった以上、なんとなく文句は言いづらい。そこまで計算していたら大した人だが……まあ、そこは本心だと思っておこう。


 俺も昔のことをいろいろ思い出して、同情してしまったのも事実だ。


「で、私の評価のほうはどうでしたか?」


「あのライトニングだけですが、採用に値するレベルだと思います。……あの、ここだけの話でいいんですが、雷魔法だけではないですよね?」


「それは……まあ、もちろん」


「やっぱり……私はあの雷霧サンダーミストからもわかる通り、第二属性までですが、カオル先生は?」


「……秘密にしていただけるなら」


 エイナさんにだけ聞こえるように、小声で耳打ちした。


 まさか信じてくれるとは思わなかったが……顔がどんどん青ざめているところを見る限りは、信じてくれているようだ。


「全……あの、マジですか?」


「ここで証拠はお見せできませんが」


「…………」


 見せて、とエイナさんの顔が訴えているが、俺はすぐさま首を振った。そこだけは勘弁してほしい。


「それと、申し訳ないですが、その話を受けることはできません。色々と苦労はありますが、なんだかんだ充実していますし、それに今の生徒たちも大好きですから」


 少なくとも、里にいる子供たちがしっかり大人になるまでは、あそこで教師をやるつもりでいる。先生の傍ら冒険者をしてお金を稼ぎつつ、自分でも足りない部分を勉強する。


 大変だが、誰かの下で働くよりはマシだ。それに、このままエイナさんの話に乗ったところで、なんとなく以前と同じ末路を辿りそうな気もする。


「……わかりました。あ、でも、これからもたまにお仕事をお願いすると思うので、その時はまたよろしくお願いします。あ、念のため、私の連絡先もお渡ししておきます」


「では、私のほうも」


 それぞれの連絡先を渡して、今日のところはいったんお開きとなった。


 ちなみに参考ということで、最後に、魔法学校に実際に就職した時の報酬を確認させてもらったが――俺の元居た世界の基準で、およそ年収1000万を超えていた。しかも手取り。


 研究費がかさむので私は毎月赤字ですよ、とエイナさんは苦笑していたが……高いところならその二倍三倍は狙えるとのことで、ちょっとだけ気持ちが揺らいでしまったのはここだけの話。

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