第26話 お誘い
その後、エイナさんが見守る中、俺は淡々と仕事をこなしていった。
採取依頼だったわけだが、素材的にそう難しいものではなかった。ほとんどは里の周辺に自生しているものだし、魔獣の狩りはそれなりに危険だったが、エイナさんが協力してくれたこともあり、特に問題なく済んだ。
「すいません、わざわざ協力していただいて」
「構いませんよ。同行したいとわがままを言ったのは私ですから、このぐらいは」
研究が専門だと言うエイナさんだが、俺が見る限り、戦闘においても優秀だった。
的確な攻撃と、危険な敵を前にしても冷静で淀みない詠唱。
正直、俺がやらなくてもこの人一人でやればいいんじゃないかと思うほどだ。
「それより、カオル先生ですよ。魔獣を一撃で仕留めたあのライトニング……威力もそうですが、無詠唱でしたよね? どこで魔法を学ばれたのですか?」
「師匠が物好きな人で……人里離れたところで孤児の俺を引き取って二人きりで暮らしていたんですよ。筋がよかったとかで、鍛えられました」
便利だからとついいつものクセで無詠唱ライトニングを放ってしまったわけだが、これがまずかった。
エイナさんですらLV3の高速詠唱だから、その完全上位互換。興味を持つなというのが無理がある。
ちなみに、俺のステータスだが、
・渋木薫(異世界人)
得意属性:なし
腕力:&%&’W
体力:+‘>KO)=
魔力:’&&%
精神力:___?>???
器用さ:&%%$&%%
知力:0%$$00
運:”””!4??
(※特殊技能) あああ ああああ ああああ ああ
正直言うと実はこんな感じで、表示がめちゃくちゃにバグっているし、しかも常に文字や記号が絶えず変動しているのだ。
得意属性は『なし』になっているが、たいていの属性を扱えるので得意がどうという次元の話ではないのだろう。
それ以外は……訳がわからない。
本当のことを話すわけにもいかないので、適当に誤魔化しつつ話を打ち切り、残りの素材を集める作業へ戻った。
「残りは……バニシングモンクですか」
「ええ。こちらは至急必要というわけではないのですが、常に見つかるわけでもないので」
別名『透明猿』と呼ばれる魔獣で、実際に身体を透過するわけではないが、周囲の環境に応じて自由自在に毛皮の色を変えることができ、ステルス性能が非常高く、また戦闘能力も高いので、他と比べて討伐難易度も高く設定されている。
今回の仕事で、もっとも面倒な相手だ。
生息地の方はエイナさんも把握しているとのことで、案内してもらいながら、周辺を警戒しつつ進む。
バニシングモンクはかなり好戦的で、縄張りに近付いていなくても、獲物を見つけたらすぐさま近づいて、敵が油断しているところに背後から必殺の一撃を見舞うというスタイルだ。動きも的確で、非常に素早い。
魔法だと間に合わないこともあるので、一応、予めジンから借りたナイフも準備しておく。
「……まずは私の魔法であぶりだしてみますので、位置がわかったら狙撃をお願いします」
「わかりました」
俺がうなずくと、エイナさんがすぐさま周囲に霧を発生させる。
しかもこれは……時折青い電流がパチパチと音を立てているから、おそらく水と雷の魔法を複合させたものか。
試しに手を伸ばして触れてみる。バチっと、指先に鋭い痛みが走った。
「……あの、危ないので」
「すいません、つい」
大人しく背後で動きがあるのをじっと待っていると、
「GI――!」
そんな鳴き声とともに、風景の一部が突如そこだけ切り取ったかのように動きだしたのだ。
「カオル先生」
「ええ」
動きは素早く、木の陰に上手く身を隠しながらこちらへ反撃してやろうともくろんでいるようだが。
「エイナさん、少しだけ目をつぶっていてください」
「え?」
「直接見ると、しばらく目がつぶれてしまうかもしれないので」
そう言って、俺はいつもより力を込めたライトニングを放った。
障害物で狙撃には向かない場所、向かないように仕向ける敵がいるのであれば。
少々、いや、かなりのパワープレイだが、その障害物ごと貫けばいいだけの話だ。
『G――』
木の幹に野球ボール大ほどの穴をあけた後、俺のライトニングが標的の頭部を焼き、その瞬間、バニシングモンク本来の茶色の体毛が姿を現した。
「……すごいですね」
「まあ、それなりに鍛えた感じですから。さあ、早いところ目的のものをいただいて帰りましょう」
「え、あ……そ、そうですね」
各部位の素材分けはギルドに戻ってからやるということで、一旦仕留めた魔獣ごと持って帰ることに。
ちなみに、毛皮以外の素材についてはギルドで引き取って報酬に上乗せする形となっているので、ありがたく頂戴しておく。
「あの、カオル先生」
「? はい」
「ギルドに戻ったあと、少しお話をさせていただきたいのですが――」
全ての仕事を完了し、後は納品のためにフォックスの街へと戻る道すがら、エイナさんから声をかけられる。
「それは構いませんが……ちなみにどんな話でしょう?」
「……魔法学校での教職に興味はないか、という話なのですが」
「……」
やはり来たか、という感じだった。
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