第23話 生活基盤のもろもろ
さて、生徒たち五人となって新たにスタートした俺の青空教室だが、それはそれとして、授業のほかに、やらなければならないことはたくさんある。
まず、俺の住居に関して。
現在、俺の住まいは未だジンの家で、ジンと一緒に寝泊まりをしている。つまりは居候だが、まずはこの状況を脱したいと思っている。
ジンやその家族は皆優しいが、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
なので、自分の家を作る。それがまず一つ。
里長様に確認したところ、自分で建てるのであれば勝手にやってくれて構わないという。結界のほうだけ先生のほうでなんとかしてください、とのことだ。
魔獣除けの結界なら、問題なく使える。なので、あとはよさそうな土地を見つけて整地すればいい。
家のほうは……俺は大工ではないので、里の人にお金を払って頼むことにした。材料さえ用意してくれれば、あとは指示通りにやってくれる、とのこと。
ということで、お言葉に甘えることにした。
「……別に俺は先生とずっと一緒でもいいんだけど。魔法教えてくれるし」
「まあ、そう言ってくれるのは嬉しいが、さすがに手狭になってきたからな」
土地探しについてきたジンの頭を、ぽんぽんと撫でる。
それに、俺も一人でゆっくり集中できる空間が欲しいというのもある。次の日の授業をどのように教えるか考えたり、教材を作ったり、もしくは神の書を使って、この世界の学問を勉強したり。
また、冒険者稼業も並行してやっているので、そのための道具などを置くスペースなどもいるわけで――ということで、自分の拠点を作るのは急務だったりする。
「あ、先生。あのあたりいいんじゃないですか? ちょうど太陽の光を遮るものも少ないですし、ここなら小さい畑とかも作れそう」
ジンについてきたアリサが少し先を指差すと、鬱蒼と茂る森のなか、一か所だけ陽光が差す場所が。
「……おお。確かに、ここなら目的にも合致してるか」
基本的にエルフの里は森の奥深くにあることもあって、木や植物たちに日光を遮られて昼でも薄暗い。なので、里にそれほど離れていない場所でこういうのは珍しい。
ちなみにダークブラストをぶっ放した場所だが、そこは焼け野原になってしまったのでしばらくは却下だ。……まあ、植物魔法などでちょっとずつ元に戻していこう。
その件はひとまず置いておくとして。
家を建てるだけならただ単純に、里の空いてる土地や、里に隣接するよう作ればいいのだが、そうしないのは俺にもう一つの目的がある。
それは、食の問題。
エルフの里は、基本的に狩りをして暮らしている。水はこういった小川や泉から汲んできて、森に自生している木の実や果物、そして魔獣の肉を食糧を普段の食事としている。
もちろん、それに文句を言うつもりはないが……やはりどうしても、元居た世界の食が恋しかったりする。
新鮮な野菜、果物、白いご飯、その他いろいろ。
なので、研究もかねて、元居た世界の食物を再現するための畑を作ろうと――そう考えたのである。
神の書によると、一応、元の世界と似たような作物はあるそうだが、やはり、微妙に味の違いはある。それはフォックスの屋台で色々仕入れたときにわかっていたことだ。
「えっと、まずは土地をならすところからですけど……先生、本当に一人でいいんですか?」
「ああ。魔法を使うだけだから、そんなに時間はかからないしな。家に使う木材も」
俺の体は、おじいさん神のおかげか全属性百パーセントを操れるようになっている。もちろん、いわくつきの理術も。ただ、こちらは神の書を引いても呪文は出てこなかった。それだけまだ未開発な属性らしい。
「土の方はまた後でやるとして、とりあえずまずは木材の調達か。……二人とも、危ないから俺の後ろに」
ジンとアリサが俺の腰に引っ付いたところで、俺は風の魔法を発生させ、鋭い刃にして飛ばす。攻撃魔法としてはオーソドックスなウインドカッターと呼ばれる魔法だが、魔力を込めれば込めるほど、刃は大きくなり、切れ味も上がっていく。
「……なあ、アリサ」
「うん。相変わらず、先生って……」
手ごろなサイズの木材を根元から切り落とすと、後ろの二人がそんなことを言っている。
魔法使いなら、このぐらいはやらなければならないはずだが……と思ったら、材料がそろったことを里長様に話すと、
『……この森の木は鋼ぐらいの強度はあるものなんですが』
と言っていた。エルフの大人たちが数人がかりでやっと切り倒せるほどのだという。
……また化物みたいな目で見られたが、里の人たちにはそれで通していくことにしよう。今更変にとぼけてもしょうがない。
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