第19話 大人の仕事 2
借用書に改ざんを発見したのは、念のため鑑定の魔法にもかけたときのことだ。
老夫婦のサインは本物で、本来は良心的な利子だった。
しかし、何らかの理由で債権書がこいつらの手に入り、そこで法外な利子率に改ざんされたのだろう。
マルスたちに話を聞く限り、孤児院に借金取りが来たのは老夫婦が亡くなってからだ。当事者が死んだあとに訪問すれば、借用書に改ざんがあるかどうかなんて子供たちにはわからないし、突き止めるお金も力もない。
なので、その後は改ざんした借用書を盾にやりたいようにやるだけだ。借金の取り立てが出来ずとも、診療所の土地の価格もそれなりなので、それを奪って売ってしまえば余裕で元手を回収できる。
おそらく、今回のケースに限らず、他でもそういう卑怯なことをやっているはずだ。
「てめえ……どこの回しモンだ」
「俺はただの通りすがりのお人よしで、診療所の借金を返しに来ただけだよ。別にどこかにチクってやろうとか考えているわけじゃない」
それはそれで別のところがこいつらをひっ捕らえればいい話。俺はこの借金を返して、あの三人を確保できればそれで構わない。
「ちっ、んの野郎……」
今も大男が力いっぱい俺の肩を握りつぶそうとしているが、魔法で身体や服の強度を上げているので、ダメージはない。
「ということで、どうする? このまま全額返済を受けるか、それともさっきと同じようにすっとぼけるか。だが、すっとぼけるのなら……」
その瞬間、店内の手下らしき男たちが一斉に席を立つ。
「……待て」
だが、すぐさま大男がそれを制止する。
「お前らじゃ勝てる相手じゃねえ。……これに応じればいいんだな?」
「ああ」
「……ちっ」
どうやら頭の中の金勘定を終えたようだ。余計なことに気をとられるより、ここは引いたほういいという判断だろう。そもそも借金が踏み倒されるわけでもない。
……と、いうことで。
※※
それから、およそ二週間ほど。
勉強の休憩時間を使って遊んでいる五人の生徒たちを、俺は眺めていた。
「つっ……ジン、てめえまたやりやがったな!」
「へっ、お前が避けないのが悪いんだよ。ザコ」
「ぬぬっ……おい、ジョルジュ! ぼさっとしてないでこっちにボール回せ、こいつぶっ殺す!」
「たかが遊びになにマジになってんだよ二人ともさ……」
「まったく男子ってこれだから……私たちは私たちで勉強でもしてましょ、アリサ」
「うん、ミルミちゃん」
借金を返した後、三人を保護した俺はエルフたちの里へ彼らを連れ帰った。
孤児院の建物や土地は残るといっても、衣食住は相変わらずだし、建物の老朽化でいつ崩れるかもわからないので、こちらで生活をさせることにしたのだ。受け入れ先は里長様の家だが、いずれは彼らの住居も用意するつもりだ。
街から離れてまったく違う土地での生活だったが、彼らは初日からすぐに生活に馴染んだし、ジンやアリサともすぐに打ち解けた。
マルスとジンはあんな感じでいつもやり合っているが、まあ、本気で嫌っているわけでもないだろう。そこはジョルジュに任せる。
「おーい、お前たち。そろそろ休憩時間終わりだから、自分の席に戻れー」
「「「「「は~い」」」」」
俺の呼びかけに応じて、五人はすぐさま机に座って教科書を広げる。
ちょうど今日、人数分揃った。魔法の教科書が揃えば、そちらのほうの授業も始められるだろう。
木の机と椅子。そして、森の隙間から差す穏やかな陽光。
学校というか、青空教室といった感じだが、こちらもこれから徐々に必要なものや建物を建設していけばいいだろう。
「じゃあ、次は計算の問題な――」
こうして、ジンにアリサ、そしてマルス、ジョルジュ、ミルミの孤児三人を加えた五人の生徒で、俺の教師生活のスタートが本格的に幕を開けるのだった。
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