第17話 孤児院の子供たち
彼らの住んでいる建物は、以前、老夫婦が小さな治療院を開いていたところだという。
モック診療所、兼孤児院。
孤児院にはマルスたち三人のほか、経済的な理由で育てることができなかったり、または理由もわからず棄てられた子供たち数人が身を寄せ合って生活をしていた。
貧しいながらもなんとか平穏に過ごしていた彼らだったが、老夫婦が流行り病によって亡くなってから、状況は一変する。
老夫婦には多くの借金が残っていた。診療所を維持するための借金、そして、孤児院を運営するための借金。
老夫婦が亡くなってすぐ、急に訪れた借金取りの男たちが現れたのだ。
もちろん、残った子供たちはそんなことなど知らず、払えるはずもない。
幼い子供たちや子供たちの中でも
ともかく、孤児院には三人だけが残った。
「……あいつらが言うには、借金はまだ残ってるらしくて、この診療所も借金のカタにとられるらしいんです」
「残してほしいなら、金を返せ、と」
「はい」
期日を訊くと、もう一週間も残っていなかった。
ということは、そのまま放っておくと、彼らは身を寄せ合う場所すらなくなって、路頭に迷ってしまう……か。
それとなく神の書に確認してみる。
彼らを受け入れてくれるような場所……やはり孤児院などだが、やはり人が多く集まり、経済的にも潤っている都市のみのようだ。そして、もちろん子供三人で行ける距離ではない。
道中、越えなければならない危険な場所が沢山ある。行商人たちも、冒険者など警護を雇って通るような道だ。
俺が連れていくか? いや、連れて行って頼み込んだところで引き受けてくれるかどうかは賭けだ。どこの馬の骨ともわからないヤツが『子供を預けてくれ』といって、いいですよとなるはずもない。
そうなると、まだ可能性が高いとすれば――
「ジョルジュ、確認するが、孤児院に残っている借金の額はわかるか?」
「はい。一応、借用書の写しがあります」
見せてもらう。ところどころ字がかすれて読みにくいが、きっちりサインなどされているし、見た感じ本物のようだ。
額は……うん、正直かなりある。
元金だけなら俺の手持ち+あと少し上乗せというところで返せるが、とにかく利子分が高い。老夫婦もどうしようもなかったのだろうか、高利貸しなど、厄介なところからも借りたのかも。
「……なるほどな」
「わかったら、もう俺たちのことは放っておいてくれよ。中途半端に同情されたって迷惑だ」
マルスがしかめっ面でそう吐き捨てる。
日々の生活と、家を守るための借金。
たとえ純粋な子供だったとしても、こんな状況が続けば心も荒むというもの。
「そうだな。まあ、俺は金を取り返せたわけだし、これ以上面倒事に首を突っ込むのはゴメンだ」
「へっ、そうしろそうしろ。俺らも俺らでこれからも勝手にやらせてもらうから」
「そうか。じゃあ、俺はこれで失礼するよ――」
バインドを解いた俺は、そのまま彼らの前から、
「――なんて言うと思ったか?」
「は? お前なに――いでっ!?」
立ち去ることはせず、俺はそのままマルスの頭に拳骨を見舞った。軽くしたつもりだったが、結構痛がっている。おじいさん神からもらった体だが、華奢な体型のわりに意外と強靭なので、加減が難しい。
「な、なにすんだよっ……!」
「なに、ちょっと気が変わっただけだ」
最初はお説教だけして終わるつもりだったが、こうして彼らの話や生活ぶりを目の当たりにすると、そうあっさりと去ることはできない。
中途半端に関わるのがダメだというのなら、とことんまで付き合ってやるまでだ。
相当なお節介だというのは、わかっている。だが、俺は非正規雇用でも教師だった。子供が好きで、この仕事を志した。
その子供たちが苦しんでいるのなら、出来るだけ手を差し伸べてやりたい。
ここにいる三人、そして、ジンにアリサ。少なくとも、俺の目の前にいる子供たちには、未来を見て希望に満ちた笑いを見せてほしいものだ。
「マルス、もし俺がここの借金を全部返すって言ったら、どうする?」
「その時はアンタの言うことに従ってやるよ。アンタの子分にでも、なんでもなってやる。なあ?」
「もし、そんなことができるのなら」
「……うん」
マルスの言葉に、ジョルジュとミルミも遠慮がちに頷いた。
「交渉成立だな」
これで言質はとった。書面も何もない口約束だが、それでも約束は約束。
それが果たされた時は、黙って俺の言うことに従ってもらうことにしよう。
「一週間後、またここに来る。いつでも動けるように、身の回りの準備だけはしておくように」
俺の心の中はすでに決まっている。
この子たちは、俺が責任をとって面倒を見る。
そのためにお金が必要だというのなら、大変でもやるしかないというものだろう。
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