第14話 ギルドへ

 

 神の書からの情報を参考にしつつ、俺はブレイズヘイズを余すことなく素材にした。


 比較的小型であり、かつ肉体自体は熱には強いが、打撃や斬撃など物理攻撃にはめっぽう弱い体だけあって、解体はわりとすんなりと進んだ。


 炎熱に耐える羽、火を起こす嘴、体内にあるガス袋などは魔道具や武具の素材になり、肉は栄養満点で美味とのこと。


 よし、素材は売れるようであれば売って、肉のほうは後でジンやアリサ、里長様にもっていって美味しくいただくとしよう。里の人たちも喜んでくれるはずだ。


「――お、あそこかな」


 危険空域を抜けて、そこから山を下っていると、山の麓に大きな街並みが広がっていた。


 西端の街、フォックス。ダンジョンや遺跡などが数多く点在する西大陸における、冒険者たちの休息地として発展を遂げる。別名『冒険者の街』。


 この世界に来て初めての街。色々見て回りたい欲もあるが、まずは用事を済ませてからにしよう。


 街の入り口にある案内板を確認し、俺はそのまま冒険者ギルドへと向かう。


 道の途中、何組かの冒険者と思われる連中とすれ違ったが、一人なのが珍しいのか、わりとじろじろと見られた気がする。まあ、確かに風貌はみすぼらしいし、魔法使いらしい格好も特にしていないので、この街では浮いた存在なのかも。


「! あ、いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょうか?」


 ギルドの玄関を開けると、すぐ前のカウンターに立っていた女性が応対してくれた。犬耳と尻尾がついている……もしかして亜人というやつか。あまりにもふわふわな毛並みなので、ついつい手を伸ばしたい衝動に駆られる。


 動物は、犬も猫も大好きな俺である。


「あの……なにか?」


「いえ、なんでも」

 

 まあ、実際に触ったらただの迷惑なので絶対にしないが。


「素材の売却に来たのですが……その前に、冒険者登録は可能でしょうか」


「ええ。ギルドに登録さえ済ませてしまえば、当日でも素材についてはお引き取りさせていただきますよ。ちなみに、どのようなものでしょうか?」


「ええと……これなのですが」


 そう言って、俺は袋から今しがた解体したばかりのブレイズヘイズの羽や嘴をカウンターに置く。初心者なので、嘴や羽に血液が付着しているが、品質的には問題ないだろう。


「……こ、これって」


「? ブレイズヘイズ、ですが」


「……」


 素材を見せた瞬間、受付の職員さんの顔がみるみるうちに曇っていく。


 特に問題はないはずだが、何かいけないことをしただろうか?


 それとなく神の書に訊いてみる。マナーについては……うん、やはり問題なく、失礼な言動もないことを確認した。


「お客様、あの、素材のほうを鑑定させていただいてもよろしいでしょうか? これだけ立派なものですから、一応、詳しいものに確認をとろうと思いまして」


「? ええ、どうぞ。それは構いませんが」


 ブレイズヘイズの素材は高値で取引されているというから、それも当然だろう。こちらとしてもそのほうがありがたい。


 鑑定をしている間、俺はギルドへの登録申請書を記入することにした。


 慣れないビジネス異世界言語……勉強は続けているが、神の書の翻訳機能が無ければそこで挫折しているところだ。間違いがあってはいけないので、何度も確認しながら、本人記入欄をもれなく埋めていく。


「――お待たせしました、お客様。鑑定が終わりましたので、今から別室にご案内いたします。そこで冒険者登録の続きと、素材の代金をお渡しします」


 少し待たされたのち、犬耳の職員さんの案内で二階へ。


 ギルド長室、と案内されたドアには書かれているが……なぜ、わざわざこんなところに。


「はじめまして、お客様。私はここのギルド長をしておりますジャハナムと言います。……ええと、失礼ですがお名前のほうは」


「カオルといいます。ここからさらに西にあるエルフたちの集落に住んでいる……えっと、教師、です。あ、推薦状もあります」


「見せていただいても?」


「ええ」


 この世界ではまだ教師と呼ばれるほどの実績は何もないが、それでも一応ジンとアリサの先生には違いないので、そう言っておく。


 推薦状に目を通しているジャハナムさんの眉がピクリ、と動いた。


 疑われてしまっただろうか。


「なるほど、どうやら本物のようですね。では冒険者登録のほうはこれで終了ということで、後は先ほどの素材についてですが……」


「はい」


「その前に、まず一つ謝罪させてください。職員が『鑑定をする』と説明しましたが、はあれは真実ではありません。もちろん値付けはしましたが」


「??」


 値付けはしたが、真実ではない? 

 

 どういうことだろうか。持ち込まれた素材に対して素材が本物か偽物か、その場合の値段はいくらか、それはきちんとやってもらっているのに。


「どういうことでしょう?」


「実は鑑定の前に、素材が盗品か否かを問い合わせしていたのです。高値で取引されているものだと、そう言ったことがよく起こりまして。その……非常に申し上げにくいのですが」


「ああ、なるほど。まだ冒険者登録もしていない私が一人で素材を持ってきたことを不審に思ったのですね?」


 ええ、とジャハナムさんは頷く。


「ブレイズヘイズは討伐難度Aの魔獣……本来なら手練れの冒険者が三、四人で協力してやっとですからね」


 神の書によると、ギルドごとに魔獣の討伐難度を設定しているらしい。討伐難度はS~Eまでで、Aは上から二番目にあたる。


 一応難なく倒してしまったが、どうやら割ととんでもないことをしてしまったらしい。

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