第13話 空中にて
里長様やジン、アリサたちに見送られつつ、俺はここからもっとも近い街だというフォックスへと向かった。
すぐに向かうのなら転移魔法だが、神の書によれば、転移は一度行った場所でないと使えないという。術者の記憶を参照するとかなんとか。
なので、途中までは飛行魔法を使い、整備された街道を見つけ次第歩いていくことに。
通常ルートで行くと、エルフたちの里からフォックスまでは大きな山を二つ三つ越えなければならず、また馬車が使えるほど平坦な道でもないので、片道だけでも数日はかかるらしく、また道中は魔獣などの危険も多いという。
そう考えれば、数時間の飛行魔法で疲れたなどと甘えたことは言っていられない。行きだけ頑張れば、帰りは転移魔法でいけるのだから。
「神の書、フォックスまではあとどのくらいだ?」
目的地までのナビは、神の書にまかせている。このまままっすぐ(飛んでいるので当然だが)約五十キロほど……自転車ほどの速度で今は飛んでいるから、あと二、三時間もあれば周辺に着くだろうか――。
こちらの世界に来て初めての街。予めフォックスという場所についての知識は頭に入れているものの、若干の不安はある。
ギルドの登録はどのようにすればいいのか、滞在できる場所は。治安のいいところ、悪いところ。
「っと、そろそろ警戒区域に入るみたいだな」
色々と考えているうちに、神の書からの警告が頭の中に響く。
そう、一見して楽そうに見える空の道程だが、エルフの里周辺の地域は、山はもとより、その空についても、獰猛な怪鳥や、翼竜など、空を飛ぶ魔獣が縄張りをもっている。
回り道をしようにもその回り道のほうにも別の魔獣たちがいるので、結局突っ切ったほうがいいと言う判断だ。
森であれば植物の陰や穴など、姿を消してやり過ごすこともできるが、空にはそれがない。遮蔽物や囮が何もないので、隠蔽や認識阻害の魔法の効果もほとんど意味がなくなる。
正直、余計な戦いはしたくないので、一応遭遇しないよう祈っておくことに――
「GYAAAAAAA!!」
「……」
早速か。祈りは一瞬で無駄に終わった。上空、白い雲の隙間から、明らかにこちらへ向かって急降下してくる物体がある。
それは、燃え盛る炎のような羽をもった怪鳥だった。いや、よく見ると、実際に羽が燃えているか。
魔獣名、ブレイズヘイズ。
翼にある排出口から揮発性の液体ガスを霧状にして噴出し、嘴を打ち鳴らして発火させた炎によって獲物を捕獲、捕食している。大きく見えるが、そのほとんどは発生させた炎による幻であり、体長はおよそ100センチほど。弱点は水か。ありがとう、神の書。
水が苦手なのは見たまんまだが、生半可な水や氷では本体に届く前に蒸発してしまいそうだ。
それに、的が意外に小さいうえ、陽炎のせいで狙いがつけにくいのも厄介。
飛行しながらの攻撃魔法の行使はできないこともないが、その道のプロというほどでもないので、敵に攻撃を当てられるかどうか。
倒せる魔法は……神の書からいくつか挙げられたが、
とりあえず、上手く敵だけピンポイントで狙撃できる方法を考えなければ。
狙撃はひとまずライトニングを使えばいいだろう。殺すことまではしなくていい。
あとは、狙いをきっちりとつけるための時間を作れれば。
動きを一時的に止めることまで考える必要はない。ただ、相手が予想通りに動いてくれれば――。
……とりあえず、あの手を使ってみるか。
「GIIIEEE!」
敵がさらに大きな炎をはばたかせて、こちらへと向かってくる。
どうやら体当たりで俺のことを塵にするようだ。
そこで『俺』はとっさに氷の盾を張って防御しようとするものの、予想外に超高温だったようで、氷は一瞬にして蒸発。
そのまま『俺』は炎に巻かれて、あっという間にボロボロの燃えカスとなって消えていった。
なんとあっけないだろうか――風にさらわれて跡形もなく消え去った獲物の最期を見届けて、敵は得意げな表情で嘴をカチカチとならしている。
が、次の瞬間、
「ライトニング」
「――!?!?」
幻影の『俺』を囮にして、認識阻害魔法で姿を隠していた俺の放った電撃が、ブレイズヘイズの首元に直撃する。
「敵の陽炎をヒントにして試してみたが……上手くいってよかった」
「K―――……」
油断していたところへの狙撃で体の自由を奪われたブレイズヘイズは、炎を消失させて真っ逆さまに落下していく。
遭遇した時はどうなるかと思ったが、無事退治することができてよかった。帰りは絶対に転移を使うようにしよう。
そのまま縄張りを通り過ぎようとしたところで、ブレイズヘイズが記されているページの下部にとある文言を発見した。
『※ ブレイズヘイズの羽と嘴は高値で取引されている』
……とりあえず、今回の敵はしっかりと狩っておくことにしよう。そっちが狩ろうとするのならこちらも、だ。大自然の掟ということで。
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