第11話 授業開始
自分の住処を見つけるまでの仮住まいと生徒二人を手に入れた俺は、さっそくその他の準備に取り掛かることにした。
まず初めに。
なによりも真っ先にやらなければならないのは勉強だ。
勉強と言っても、ジンとアリサの分ではない。あくまで自分の分の勉強だ。
「神の書、まずはこの世界の地理全体を教えてくれ」
前で神で世界に転移してきた俺は、この異世界のことを何もしらない。どれくらいの広さなのか、地域による気候の違い、国や都市の数。それぞれの国の歴史や言語。そのほか、魔法を教える時の基礎知識など。
人にものを教えるのだから、せめて必要最低限の知識はしっかりと叩き込んでおかなければならない。
生徒の質問に答えられないのは、先生としてはやはりできるだけ避けたいところだから。
幸い、おじいさん神からもらった器の知能が高いおかげで、神の書から教えられた情報は、知識としてしっかりと刻み込まれた。
それだけでたっぷり二週間ほどかかってしまい、準備期間としてもらった10日を随分とオーバーしてしまったのが心苦しかったが、ジンも、それから、俺を居候させてくれたジンのご両親も、快く俺を受け入れてくれた。
もちろん、その恩は巨大な獲物を狩ることで返させてもらった。
おかげで、魔法の操作の感覚をあらかた掴むこともできた。
これなら魔法についても、問題なく教えられるだろう。
「ジン、アリサ。お前たち、共通語の読み書きはどれくらいできる?」
この世界にはこの世界で、独自の言語がある。俺の場合は、神の加護とやらのおかげで最初からコミュニケーションは出来たが、人に教える場合は、感覚でなく、文字や文法を理論的に学ぶ必要がある。
といっても、文字はアルファベットを反転させたような形で覚えやすかったし、文法は英語にかなり近いので、理解にそれほど時間はかからなかった。
ちなみに、俺は英語教師だ。
「父さんにちょっとだけ教えてもらったから、多少の読み書きとか、計算はできるけど……」
「うん。魔法書とかは、難しすぎてちょっとわからない感じです」
魔法の詠唱は、今俺たちが話しているような共通語とは違い、魔法専用の文字や文法が存在している。
この世界の人間には、エルフやドワーフなど、種族によって程度の違いはあるが、基本的に魔法の素質はあるらしい。
だが、簡単な魔法ならともかく、レベルが上がるにつれて段違いに難解になってくるため、魔法を極めていくなら、さらに専門の機関――例えば魔法学校などに進まなければならない。
学習面や経済面の障壁があって、そのおかげでまともに魔法を扱えるものは希少な存在なのだ。
そういった事情があるからこそ、ジンは俺にしつこくせがんだのもあるだろう。
加えて、彼らが属しているのはハーフエルフのコミュニティ……毎日の生活に必死で、教育にまでなかなか手が回らないはずだ。
「では、魔法を教える前に、まずは文法をしっかりするところから始めよう。ああ、もちろん、簡単な魔法については平行して教えるから心配しないように」
「「はい」」
うん。とてもいい返事だ。しっかりと俺の教えを学ぼうとしてくれている。
……これだ。まだ理想には遠いが、これこそ、俺が求めていた教師生活。
本来勉強していた分野ではないが、それでも俺は、今までにない幸せをかみしめている。
異世界転移の教師が教える魔法教室……うん、悪くないと思う。
今はまだ二人だし、ジンの寝室を借りているだけで学び舎には程遠いが、いずれはもう少し生徒を増やして、きちんとした教育ができる校舎を作っていきたいものだ。
それだと教師というより校長になってしまうか……まあ、校長だって、新人のころは等しくいち教師なのだ。あまり細かいことは気にしないようにしよう。
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