第4話 拠点探し 2
一時間ほどだろうか。飛行魔法の操作に慣れてから、俺はその場からゆっくりと高度を上げ始めた。
まだたまに操作を間違えるが、別に空中戦闘をやろうってわけではないから、これでいい。
空を分厚く覆い隠していた木々の葉をかき分けて、そのまま外へ。
「……おお」
空高く舞い上がった俺の眼下に広がっていたのは、一面、緑の絨毯で覆われた世界だった。
かなり遠くまで見通せるところまで上昇したが、それでも地平線の彼方まで森は続いている。山などもない。ただひたすらに広かった。
『遠くまで正確に見通したい』
俺の視力は悪い。普段は眼鏡をかけているのだが、おじいさん神もそこまでは手が回らなかったようだ。
俺のその言葉に反応して、神の書がペラペラとめくれていく。
竜の角膜を自身の目に移植……人体改造系はとりあえず検索しなくてもいい。魔法を検索する。
千里眼の魔法を試してみることにした。
ところでこの神の書、うまく条件づけて検索できないだろうか。先ほどのような余計な情報まで引っ張ってこないよう設定出来ればいい。
まあ、それは後で試すことにする。
呪文を唱えると、それまでぼやけていた視界がクリアになり、どんなに遠くでも、微細な動きを捉えられるようになっている。
もちろん、その分だけ視野が狭くなるが、一点に集中すれば、その森で暮らす鳥たちが囀る様子や、縄張りを飛び回っている虫たちなどもウォッチング可能だ。
まさしく双眼鏡要らず。
「……人が住んでる感じはないな」
どこかに小さくても集落の一つや二つあると思ったが、見る限り、一部分でも森が拓かれたような場所はない。
もし近くに村があれば、そのあたりにひっそりと家でも作って……と思ったが、そう順調にいくものではないらしい。
もう少し遠くを飛ぼうかと思ったが……その瞬間、俺の視界がわずかにぐにゃりと歪んだ。
立ち眩みだろうか。
千里眼の魔法も同時に解除される。
「神の書、この症状は?」
おじいさん神によると、この書は俺の魂と直結しているので、こういう体調管理のような使い方もできるという。これは便利だ。
訊くと、魔力欠乏の初期症状だとの回答が。
そういえば、結構な時間、飛行魔法の練習をしていた。器と魂が馴染んでいないことも関係しているだろうし、無理は禁物か。
このまま気を失って首から墜落なんてしたくないので、速やかに転移直後の場所へ。
魔力のほうは、魔法さえ使用していなければ少しづつ回復していくとのこと。
なら、休憩がてら、しばらくは歩いて森の探索をしてみよう。
神の書のアシストがあるとはいえ、腹は減るし、喉は渇く。
まずは水の湧いているところだ。次に食べ物。
場所のほうは、さきほど集落を探索した時に、ついでに見つけている。ここから北へ10キロあたりのところだろうか、小さいが川が流れていた。そこを目指す。
「しかし……本当に来たんだな、異世界ってやつに」
おじいさん神にしつこいぐらいにレクチャーを受けていたので、心の準備はできていたが。
周囲を見渡してみる。何かがいる気配が……と思ったら、花が歩いていた。
「…………」
ほんの少し、呆ける。
花だ、植物の花。間違いない。太い根っこを器用に動かして、自ら餌である羽虫を捕食しにいっている。蔓を器用に操って、虫の不規則な動きを予測して……ぱくり。
俺の中で常識ががらがらと音を立てて崩れていく。まあ、魔法が普通に使える時点でおかしいのだが。
とにかく、得体のしれない場所に来たことには間違いない。注意しておこう。
神の書にお願いして、今後のためも考えて攻撃魔法をいくつかチョイスしてもらう。教師生活を始める前に生活拠点の確保だが、食べ物も必要だ。作物を育てるのはいくらなんでも気が長すぎるから、今あるものをいただく。
「
なんだか字面だけで一帯が焼け野原になりそうなイメージなのだが、普通に放って大丈夫なレベルなのだろうか。
襲われるのならともなく、そんな大物を狩るつもりはないので、小動物を狙撃する系統のものにした。また、足元にある果実やキノコなどが体に合わない可能性もあるので、浄化魔法なども。
さあ、頑張っていこう。
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