第3話 拠点探し 1


 異世界での教師生活を選択した後、俺はすぐさま神の力によってそちらへと飛ばされることになった。


『元通りとはいかないが、生前のお主の容姿にできるだけ近い器を用意した。色々と仕様の違う体で申し訳ないが、徐々に魂と融合してくれるはずじゃ』


 転移の光に包まれている間に、俺は神様から転移先の世界について『授業』を受ける。


 俺がこれから行く世界は、科学よりも魔法がより発達している世界だという。いわゆるファンタジー世界ということだ。


 他にもあれやこれやと説明を受けたが……あまりにも突飛すぎて、情報を頭に叩きこむのに苦労した。


 他の神がどうとか、転移者の管理がどうとか。


 まあ、そこらへんはおじいさん神(と俺が勝手に呼んでいる)が調整したとのことだから、俺は、変わらず自分の夢をかなえるべく行動すればいい。


『それじゃあ、達者での。渋木薫よ』


「ありがとう神様。……っと、そうだ。この世界で俺が夢をかなえたらどうなるんだ? またあなたの世話になるのか?」


 つまり、ここで天寿を全うした時だ。


『まあ、基本はこの異世界を管理する神のもとに行くのじゃが……一人ぐらいなら大丈夫じゃろう。まあ、果たしてそんなことがあるかという問題もあるが」


「……どういうことだ?」


『その答えは、この世界で暮らしていれば、自ずと知ることになるじゃろ。ほれ、着いたぞ。……では、また死んだ時に』


「あ、おい……!」


 そう言って、転移の光とともに、おじいさん神は空の彼方の星となって消えた。


「気まぐれとはいえ、面倒を見るなら最後まで打ち明けてからにしてほしかったが……」


 まあ、転移させてくれただけでも感謝しかないか。


 おじいさん神も、俺をただ異世界に放り出したわけではないし。


「この場所は……森かな」


 鼻にのこる濃い緑の香り、背が高く幹の太い大樹。遠くからは鳥……いや、虫かもしれない、そんな鳴き声のようなものが遠くから響いている。水のせせらぎ……はない。水場からは距離があるのだろう。


 初めての異世界で、ぽつんと独りぼっちのサバイバル環境だが、俺が慌てることはない。


 これは、事前におじいさん神から聞かされていたことだ。



 穏やかな教師生活を送りたいと願ったので、始めからそのような地位を用意してくれるものと思っていた。住まい、勤め先の学校など。神だし余裕だろう、と。

 

 だが、実態は非常に面倒らしい。本来いないはずの人間である俺を、なんの違和感もなくこの世界の元からあるコミュニティに属させる――そのためには、因果律の調整といった細かい作業が必要となるそうだ。


 もちろん、異世界を管理する神からは難色を示された。『転移させるのは自由だが、やるならそっちで勝手にやって、こっちの手を煩わせないでほしい』と。至極真っ当な意見だ。


 ということで、俺がこの世界でまずすべきことは――。


「えっと、確かこう呼べば――『降りてこい、神の書』」


 俺がそう呟いた瞬間、手のひらに分厚い一冊の本が出現する。


 タイトルもなにもない、中身も真っ白な古びた辞書のようなもの。


「空を飛びたい」


 だが、俺がそう言うと、該当ページはここだと言わんばかりに辞書のページがめくれ、そしてそのための方法がいくつか浮かび上がった。


 イメージとしては、情報検索に近い気がする。


「飛行魔法、龍などを調教テイム……」


 まあ、飛行魔法だろう。中には『自分の体に天使の羽を移植』なんて物騒なものもあったが、そんなことまでこの世界はできるのだろうか。

 

 飛行魔法の該当ページをめくって、呪文を確認。その通りに詠唱する。


 瞬間、俺の両足がゆっくりと重力から解き放たれた。


「うおおっ……ほ、本当に浮かんでいる……!」


 体の操作は頭の中でやるようだ。上昇しろと念じれば高度が上がっていくし、前へと念じれば進んでいく。


 おじいさん神の好意で、この世界における汎用魔法ならなんでも使えるよう器を用意してもらったが……さすがに始めてなので体の操作が難しい。


 しばらくは練習あるのみだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る