第31話「戦い終わって恋のバトル!?」

 光が収まると、そこはいつもの河川敷。

 のどかな川の流れ、遠くで野球をしている子どもたちの声、車が橋を通る音――。


 いつもの、日常の、風景だった。


「……むっ? なんだ、もう終わりなのか? もっと暴れないと欲求不満を解消できないではないか」


 猿谷が首をコキコキッと鳴らしながら、そんなことを言う。


『……これで一件落着といったところだろう。もし、あの閉鎖世界内で君たちが鬼王に敗れていたら、いよいよ鬼たちは現代に復活し、街に甚大な被害が出ていたことだろう』


 相変わらず偉そうな桃切の言葉を聞きながら、あらためて皆のことを見る。


 猿谷、犬子ちゃん、雉乃、伊呂波、そして……由芽――。

 全員、無事に戻ってこられて、ホッとしていた。


「はぁ……本当に、よかったな。これですべて解決だな」

「あら、まだまだ全国各地に鬼に関する伝説は残っているんじゃないかしら? きっと日本には鬼が封じられている閉鎖空間がたくさんあると思うわ。アメリカで調べただけでも、鬼に関わる話は膨大にありましたし」


 まぁ、雉乃の言うとおり、有名無名含めて、いくらでも鬼の出てくる昔話はあるだろう。そうなると、またそいつらが出てきて街で悪さをするかもしれない。

 世の中の未解決殺人事件のうち、鬼が関わるものもあるのかもしれない。


「どうなんだ、由芽……?」

「あっ。うん……たぶん、閉鎖空間は、全国各地にはあると思うよ。偉いお坊さんや陰陽師の人が封じたのとか……それが綻びて、鬼が出てくることはあると思う……」

「おおっ! それは朗報だ! つまり、俺の性的なストレス発散はまだまだできるということかっ!」

「だから猿谷。お前は、その性的なってのをどうにかしろ!」


「なんだとっ! 桃ノ瀬のナチュラルハーレムっぷりをこんな間近で見せつけられて我慢し続けろというのか! おっと、そうだ! 四人とも、おっぱいを六十回づつ揉ませてくれっ!」

「じゅ、十回増えてますー!」

「そんな約束した覚えはないわ」

「死ね」

「あはは……私のおっぱいは、たろーちゃん専用だから」


 四者四様の反応がかえってくる。犬子ちゃんはいつものように犬歯を露わにし、雉乃はさらりとかわし、伊呂波は容赦なく斬切り捨て、由芽は過激発言だった。


「ともかく!」


 そこで伊呂波が大声を上げる。


「私の使命は鬼を…………わ、悪い鬼を退治することっ! だから、これからも討伐は続けるからっ!」


 鬼と言ってから、あえて『悪い鬼』と言い直した。


 どうやら、伊呂波の心境にも変化が起こったようだ。

 これで、由芽と争うこともなくなるのなら兄としても喜ばしい。


「伊呂波も少しは成長してくれたか……」

「なによっ! あんたが煮えきらないから、由芽姉ちゃんが苦しんだんでしょうっ!?あんたが最初からしっかりしてれば、由芽姉ちゃんだって、完全な鬼化はしなかったかもしれないのにっ!」

「い、いや……だ、だってなぁ……お前のことを考えると由芽のことをハッキリ好きだって言うわけには……」

「な、なによ……! どういう意味よ!?」


 伊呂波の顔は赤かった。ていうか、こいつ……本当に俺のこと好き……なんだよな? いまだに信じられないのだが。しかも、義妹だったなんて。


「た、たろーちゃん、伊呂波ちゃん、落ち着いて」

「もうっ! やっぱり、まだ由芽姉ちゃんにお兄ちゃんは渡せないんだから!」

「ちょっ、ちょっと待て、それどういう意味だ!?」

「うるさいっ!」


 そう言うと、伊呂波はぷいっと横を向いてしまう。なんか、そんな姿が、ちょっとかわいく見えてしまった……って、いかんいかん。義妹とは言え、妹だぞ!?


『もともとお前たちはひとつだったものが、ふたつに分かれてしまったのだからな。本来、ひとつになるのが正しい姿なのだ。桃がふたつに分かれてしまったようなものなのだから。せいぜい、苦労するがいい』


 だから、お前が原因でふたつに別れちゃったのになのに偉そうにするなよ桃切!  俺にとっては、すごい悩みの種なんだぞ!? 妹とひとつになれるわけないだろっ!?


「まったく……人前で堂々といちゃつくとは……僕にもお裾分けしろよぉおおっ……」

「……ほんと、もっと節操を持ってほしいところですわね」

「その……犬子も見ていて、とても恥ずかしいですっ」


 すっかり俺は仲間たちから、嘆かれ、白けられ、呆れられてしまっていた。

 なんだか俺の立場がどんどん弱いものになっていっている気がする。

 一応、俺だって、桃太郎なのに。


 それでもこんなふうに皆と一緒にいられることを嬉しく思う俺がいるのも確かだ。


 なにはともあれ、こうして俺たち桃太郎パーティは千数百年以上の時を経て再会したのだった――。


「たろーちゃん、大好きっ♪」

「だから、妹の私が認めないからっ! 離れてよ、由芽姉ちゃんっ!」


 ……先が思いやられるけどなっ!


(第一部)完




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桃太郎の転生を自称して日本刀で鬼を斬りまくる妹に振り回されながら幼馴染とイチャコラする俺の明日はどっちだ!~鬼を討つ妹と時を超える物語~ 秋月一歩@埼玉大好き埼玉県民作家 @natsukiakiha

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