第26話「夢覚めて、繋がる物語」
☆ ☆ ☆
「う、……くっ……」
気がつけば、見慣れた我が家の玄関だった。
ようやく、昔の夢が現在につながった気がする。
おそらく、あの光によって、俺たちは現代に転生させられたのだと思う。
そして、鬼たちはこの地の異空間にでも、封じこめられたんじゃないだろうか。
伊呂波と戦っている鬼の親玉が、こちらの世界には出てこれないと言っていたところから考えると、おそらくそんなところじゃないだろうか。
しかし、その封印が綻びてきているから、こうして伊呂波を狙って鬼が出てきているのかもしれない。
『正解だな。あの鬼の少女の力によって君たちは千数百年後に転生させられた。あの鬼の少女も含めてだ。あの場にいた鬼と兵士たちは異空間に封じ込められ、転生することも叶わず千数百年もの間、閉じ込められている。低級鬼の出現は、君の考えた通り結界の綻びだ。そして、桃太郎の魂は君と妹……実際はイトコだったか……に分裂して受け継がれてしまったのだ。なぜそれがわかるかというと、あの時君が持っていた剣である私が光の効果を分割してしまったのだ。霊刀の力が、意外な形で作用してしまったのだな。それで激しい桃太郎と穏やかな桃太郎が生まれてしまった』
そうだったのか。というか、わかっていたなら早く教えて欲しかったが。
『私が言うまでもなく君は夢を見ていたようだからな。いちいち言葉で説明するよりも実感できただろう。あの鬼の少女も千数百年後に転生させる気はなかったのだろうが暴走する力を抑えきれなかったのだろうな。結果として、君たちは平和な時代に甦ったのだから、よいのではないか』
だが、再び、鬼が現れてしまっているということは、平和が乱れてしまっているということだ。……それは、どういうことだ?
『封印が綻びるとともに鬼の瘴気がこの街に漂い始めた。それによって人間に転生したはずの鬼の少女や桃太郎たちの異能が目覚めてしまったのだろう。だからこそ私も長き眠りから覚めたと言える。名剣としてでなく、鬼を討つ霊刀として。……そして、この世に再び災厄を起こさせないために、君たちは惹かれあって、再び再会したのだ。雉乃という少女がアメリカらからやってきたのは、偶然ではない。これは運命であり、君たちの使命なのだ』
桃切から説明されて、ようやく全てが繋がった。
まさか、遠い昔話と、現代の俺たちの人生が繋がっているとは思いもしなかった。
あのとき、鬼の少女と一緒に暮らそうと言った約束は現代で果たせていたのかもしれない。だが、今、由芽は……理性を失った鬼になってしまっている。
「うう……」
そこで、伊呂波が頭を押さえながら、起き上がった。
「大丈夫か、伊呂波?」
「……うん。やっぱり、ここ現代……だよね……戦場じゃ、ないよね?」
ふだんは過去の夢を見ないという伊呂波も、今は同じ夢を見ていたのだろう。
俺たちが転生する前の、前世の記憶を。
「鬼の少女……ううん、由芽姉ちゃんは……?」
伊呂波は、頭を抑えながらも、辺りを見回した。俺達が壁に叩きつけてから数時間は経過したようで、あたりは明るくなってきている。六時は過ぎただろう。
と、そこへ――。
「おいっ、桃ノ瀬! いやがるかぁー!」
玄関の向こうから猿谷の声が聞こえてきた。
「ああ! いる! 今開ける!」
玄関を開けると、猿谷と犬子ちゃん、そして雉乃がいた。
「……全員集合ってわけか」
「ああ、犬子ちゃんと雉乃の胸を五十回揉まないといけないからな。あの時の約束を守ってもらわないと!」
「で、ですからっ、お断りですー!」
「まったく、他に考えることはないのかしら?」
どうやら、皆も共通の夢を見ていたらしい。
「……やっぱり、俺達は転生だったんだな。それが、由芽の力によるものとは思わなかったが……」
「ああ。どうやら、そういうことらしいな」
「犬子も、驚きました……まさか、あのような経緯があっただなんて……」
「私もですわ。これで、長年見ていた夢の謎が解けました」
みんな、驚きつつも、得心したといった表情だ。
「…………」
ただ、伊呂波だけは相変わらず表情が沈んでいた。
たぶんこいつは、頭の中に自分が桃太郎ということと鬼を倒すべきということだけが強く残ってしまっていたんだと思う。
それで、鬼と思われる由芽に対して敵愾心ばかり持っていた。
だが、由芽はその鬼を封じ込めた張本人だったわけだ。
そのおかげで、あの時代の地域の人々は救われたんじゃないだろうか。
それが後世の創作によって、桃太郎という御伽噺になったのかもしれない。
「まぁ……今はとにかく、由芽を探すことだな……」
鬼として覚醒をしてしまった由芽。
昨夜のあのバリアをまとった姿は、いつもとは別人だった。
なんとか由芽には元に戻ってもらわないといけない。
俺達をこうして助けてくれたのだから、今度は、俺たちが助ける番だ。
家の外に出てみて、俺たちは異変に気がついた。
さっきは外から陽が差していたというのに、急激に曇ってきたのだ。
いや、これは――。
「闇……ですわね」
雉乃が険しい瞳で辺りを見回す。まるでこの一帯を覆うかのように闇が拡がっていた。それは、瘴気を帯びた、鬼の気配――。
「む……さっきまでと雰囲気がまるで違うな。人の気配がなくなっている」
猿谷もキョロキョロと周囲に視線を巡らせる。
「はわっ⁉ お、鬼ですっ!」
そして、犬子ちゃんの声につられて、俺たちは道路のほうを見た。
鬼の群れがゾンビのようにゆらゆら揺れながら、こちらに近づいてくる。
「あら? これは……本格的に鬼の領域にこのエリアが包まれているということですわね。こんな町中に大量に現れるなんて。いよいよ、最終決戦が近いということでしょうか」
雉乃は胸元からクナイを取り出して、構える。
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