第3話 さだこ叔母の死

義母の叔母のさだこ叔母さんが 亡くなった。99歳だった。

直前まで編み物もする元気な方であった。

 

乳飲み子のうちに実母を失くした義母にとっては、一緒に住むさだこ叔母は、姉のような母親のような大きな存在だった。

叔母さんとはいえ8歳しか違わない、一番身近な身内であった。


急に食べられなくなり 危篤状態になったさだこ叔母さんの所に 義母を連れていった。

 さだこ叔母さんは 酸素吸入や点滴やカテーテルやら管に繋がれてはいたが

どうも、幼年期にさかのぼって義母と一緒に生家の庭にいるのであった。

そして声を振り絞って、他の兄弟の名を呼ぶのであった。

「なあ、よしこさん、」と 時々義母の名も呼んだ。


義母は、「さあちゃんはもうあかんねんなあ」と肩を落とした。


1週間後、とうとうさだこ叔母は亡くなり

義母に 「さだこ叔母さんがね…」と言いかけると 「さあちゃん死んだんか!」とすぐに悟られた。


あくる日 弔問に伺った時、

義母はさだこ叔母の顔を撫でながら何度も「さあちゃんいくつや? そうか もう100やしなあ、しゃあないなあ」と涙を流した。

「世話になったなあ ありがとなあ。」 と顔を覆った。


帰り際に

最後まで家で看取った叔母の息子夫婦たちとお葬式の段取りの話などしていたら、 

「え? もう葬式を決めてるのか! なんとまあ手回しのいいことや」 と義母はさらっと言い放った。

「まだ死んでへんのに。。。」


その場が凍りついた。


義母はそんな雰囲気とはかけ離れたところに漂っているようであった。

玄関にしゃがんで靴をはきながら 再度「まだ死んでへんのに。。。」とつぶやいて少し笑った。

誰もが 声を出せなかった。


車が走り出し 運転していた夫が 

「おかあちゃん さあちゃん死んだんや。それで来たのやろ 今日は。」と静かに言った。

義母は 「えっ?」と目をむいて 絶句し、

そしてまた涙を流した。



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