第1話 政略結婚

「お父様も無茶を言うものね、私に帝国に嫁げなんて」


 自室に戻ると謁見の間で着ていた豪奢なドレスを脱がせてもらいながら、ディシディア王国第二王女マリアンヌ・テスラ・ディシディアは不機嫌そうに呟く。


「戦災復興を考えての事では?」

「だからといって愛娘を敵国に差し出す……、愚の骨頂だわ」


 侍女長は慣れた手つきでドレスをクローゼットにしまうと新しくゆったりしたドレスを王女に着せ始めた。


「そもそも国民が許さないわ」

「……左様にございますね」


 戦争の口火を切ったのは王族と貴族院なのだからとは、侍女長は言わなかった。平民の出である自分の命に係わるからだ。


「なにか、良い手があるといいのですが……」

「そうねぇ……」


 マリアンヌはチラリと本棚を眺める。ほとんどが娯楽小説だったが、一冊だけ軍事、軍略に関する研究をまとめた古めかしいものだった。


「影だったかしら?」

「影にございますか?」


 歴史書を見るまでも無く権力者、特に王族は暗殺を恐れる。食事には必ず毒見役が付くのは常識。自分の身代わりを立ってるのは自然な発想だった。


「城に私と同年代の娘はどのくらいいたかしら?」

 侍女長は少し考えて答えた。

「下女を含めまして、40名ほどかと」


 マリアンヌは薄く笑う。


「全員呼びなさい。仕事は他の者にやらせるように」


 侍女長は粛々と頭を下げて部屋を出て行った。


「私の代わりですもの、じっくりと選らばないと」


 何も知らずに来るであろう者たちの未来を想像して、知らず王女の笑みは深くなっていた。

 



 

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