第16話 発現
そんなわけでぶっつけ本番という作戦の元、私たちの戦いが始まった。
開幕と同時に炎の渦をぶつけられたが、私はそれをバリアで防いだ。衝撃と熱気はしっかりと感じるものの、ダメージらしいものは感じない。
とはいえあれと同じようなものを何度もぶつけられたらたまらない。せめて炎だけでもやめさせたいな。
私はバリアの一部を鞭のように伸ばしてしならせた。それを真っ直ぐ伸ばして炎を出した張本人を吹き飛ばす。
軽く小突く程度のつもりだったが、エネルギーが強すぎたのか彼は絶叫と共に体育館の外に吹っ飛ばされた。
あぁ、目立つつもりなかったのに………
さっきまで私を馬鹿にして笑っていた対戦相手、興味ないとばかりに周りの人とおしゃべりしていた生徒達、出場した私を呆れたように見ていた先生。全員が口をあんぐりと開けて固まっている。その視線は私に集まっていた。
「海金砂、ちょーっとやり過ぎじゃない?」
顔を引き攣らせて大刀石花が私の脇腹を肘で突く。
「いや、あの、コントロールが上手く出来なくて………」
金曜日にキーを使えるようになったが、その後にロクに練習もしてなかったのでエネルギーを上手くコントロールが出来ない。
イメージはちゃんと伝わるのだが、いかんせん出力が大きすぎる。
「ったく、だから練習しようって言ったのに。後は私達が片付けるよ?大刀石花」
「あいよー」
そう言って歩射が残り三人に二つの銃口を向けた。容赦なく引き金を引くと、彼らに向けて大きな音と共に光弾が撒き散らされた。
それと同時に大刀石花が彼らの背後に裂け目を生み出す。
「ぎゃあッ!」「ぐはぁッ!」「ひゃあッ!」
呆然としていたからか、無防備だった彼らは歩射の光弾にあっさりと弾き飛ばされた。背後の裂け目へと吸い込まれていく。
そのままフィールドの際まで転移されて、勢いの乗った彼らはフィールド外に押し出される。
こうして私達の初戦が終わった。試合時間およそ十分弱。
試合を見ていた人達は全員まだ固まったままだ。状況に頭が追いついていないのだろう。
「おーい、先生〜。試合終わりましたよ。合図鳴らさないんですか?」
「ハッ!あ、あぁ………そ、そうだな!」
揶揄うように笑った歩射に言われて、ようやく先生が我に返った。慌ててブザーを鳴らして試合を終わらせる。
「だ、第三回戦。勝者、第六チーム!」
「よっしゃ!これで初戦は突破だな!」
歩射は拳を握って喜んだ。何ともあっさりとした試合だろう。黙って固まっていた生徒達もようやく我に返った。
予想外の結果に誰もが唖然としている。周りの人達とヒソヒソと話して私達を見ている。
奇異の目を向けられるのはすっかり慣れてしまったことだ。今からどうということはない。
手で光るエネルギーをキーに戻すと、私は大きく息を吐いた。身体を支配していた緊張が解けて力が抜ける。
「海金砂、大丈夫?」
「あ、うん。安心したら、力抜けちゃって」
「お疲れ様。ちゃんと見るのは初めてだけど、すごいじゃん」
私の肩を叩いて大刀石花が笑った。薄紅色の唇が美しく曲がる。
出来た………ちゃんと、大刀石花と一緒に戦えた………
その嬉しさが心の底から込み上げて私の身体を埋め尽くす。周りの人の視線や声なんてまったく気にならないほど、私の中に熱い何かが沸き立った。
「大刀石花………ありがとう」
「え?私ただ転移させただけだよ?」
「うん。でも………ありがとう」
「ん………どういたしまして」
私達は笑い合って喜びを分かち合った。
「いやぁ!予想以上の反応だったな!みんなの顔見たか?馬鹿にされ続けてでも能力を発現させなかった甲斐があったってモンだ!チャラどころかお釣りが来るレベルの呆然っぷりだったぜ!」
「こらー、性格悪いぞー。何事も謙虚でないと」
「梢殺、謙虚の意味知ってる?」
「いや、今初めて使った」
体育が終わり、私達は教室に戻るところだ。珍しく大刀石花や歩射、梢殺の中に私も加わっている。
試合でのみんなの反応がよっぽど気に入ったのか、歩射はさっきからずっと上機嫌に笑っている。
まぁたしかに歩射の一番の目的である『みんなの度肝を抜く』というのは間違いなく達成されただろう。私達も含めてみんな彼女の手のひらで踊らされていたわけだ。
「海金砂。さっきから静かだけど、どうかした?」
「いや………面倒なことになったなぁ、って」
「あぁ………まぁ、そうだろうね」
気にかけてくれた大刀石花が目を細めて呟いた。
私としてはそんなつもりはなかったが、結果として私はみんなから注目されることとなってしまった。
初見であんなものを見せてしまったからか、全員がドン引きしていて私はさらに異端児扱いされるようになった。
見下されて馬鹿にされるのは気持ちいいものではないが、驚かれてジロジロ見られるのも気持ちのいいものじゃない。
「それにしても海金砂の能力大したモンだよなぁ。私達いなくても一人で試合何とかなるんじゃないの?」
「これこれ、あんまり頼りきらないの。まだ使えるようになって一週間もしてないんだから」
「そーそー、みんなが力を合わせて頑張ろー!」
「お前だけには言われたくないわ。今日の試合何もしてなかったろ」
「適材適所ってヤツだね。私は休むもしくは食べる係」
「デカい胸張ってんな。働かざる物食うべからずだぞ」
たしかに、いくら能力が使えたからと言って頼られても困る。
私はあくまでみんなと同じようにキーを使えるようになっただけなのだから。言わばスタートラインに立ったばかりだ。
「まぁ、言われなくても、ここからは私も思う存分に暴れるっての。今日はエンタメとして海金砂に任せただけだ」
歩射はニヤッと歯を見せて笑った。
「これでエンタメとしての私達の試合は終わったからな。後は優勝掻っ攫うために全員ぶっ飛ばしてやろうぜ!」
「あーお腹空いた〜。学食行こうかなぁ」
「私も行こうっと。今日って生姜焼き定食だっけ?」
「そうだった気がするよー。海金砂はどうするの?」
「私も、今日は学食にする」
「こんな時くらいは空気読んで盛り上がってくれよ!私も学食行く!」
その日は結局一日みんなに奇異の目を向けられることになった。まぁ気にするだけ時間の無駄だろう。
放課後になって荷物をまとめると、私はいつものように大刀石花と一緒に教室を出た。下駄箱で靴を履き替えると校門を通る。
「あぁ、試合に出たからか今日は疲れたなぁ。何か甘いもの食べに行かない?」
私の隣で自転車を引く大刀石花が空を見上げた。
ちなみに数週間前にようやく新しい自転車を手に入れた大刀石花だが、これまでと変わらずに私と一緒に帰っている。
「いいね。何か食べたいものある?」
「うーん、海金砂決めてよ。今日のMVPって事で」
「それ関係無くない?」
自分達と同じ学生達の中に混ざりながら大刀石花との他愛ない話を楽しむ。
すると後ろからドタドタと大きな足音が聞こえた。その音は瞬く間に私たちに迫ってくる。
「海金砂ー!大刀石花ー!」
何となく予想してたけど走ってきたのは歩射だった。私たちの名前を叫びながら全速力で走ってくる。その後をマイペースに走ってくるのは梢殺だ。
「おぉ歩射。どうかした?」
「どうかした、じゃねぇよ!何で帰るんだよ!初戦突破したんだから特訓しないとだろ!」
腕をブンブンと振り回して歩射が声を上げる。
正直そろそろこの熱気にもウンザリしてきた。
同じチームだし悪い人じゃないんだけど、こういう時くらいは入ってこないでほしい。
「えぇ〜、今日はいいでしょ?試合で疲れたし」
「第二試合今週中なんだぞ、やるに決まってんだろ。というか海金砂は特訓しないとまた今日みたいになるぞ」
今日みたい、というのは試合でのエネルギーコントロールの事だろう。たしかに私はまだ能力を完璧にコントロール出来ていない。おかげで灰酒さんを吹き飛ばしてしまったわけだし。
必要以上にキーを使うつもりはないけど、やっぱりある程度コントロールできるようになった方がいいか。
「そうだね。それじゃあ、行く?」
「おっ、海金砂にしちゃ前向きじゃん」
「そんじゃあ決まりだな。学校戻んぞ」
「えぇ、今から学校戻るの?ダルいんだけど」
「おーい、みんなー」
そこでようやく後ろから歩いてきた梢殺が私達と合流した。
「おぉ梢殺、そのまま体育館までUターンだ」
「あぁ、その前にお客さん連れて来たよ」
「は?お客さん?」
訳の分からないことに首を傾げたが、梢殺の指差す方を見て私達はげんなりとした表情になった。
こっち向かってくるのはこの前私達をいじめてくれた人達、もっと言えばさっき試合で戦った灰酒さん達もいる。
いつもはニヤニヤと笑って見下しているのに、今日は恨みがましそうな視線を向けて歯軋りしてる。灰酒さんの顔には吹き飛ばされた時の痕が残っている。
正直言って、この後何されるかは大方予想がつく。
「おい、梢殺。何でお前コイツら連れて来た?」
「だって下校の時間だよ?用があるなら早めに済ませたいでしょ?」
当たり前だと言わんばかりに胸を張る梢殺にため息が出た。大刀石花が前に出て彼らに尋ねる。
「何でしょうか?」
「ちょっとこっち来いよ」
イラついているのが丸わかりの高圧的な態度だ。こんな人達について行く人はいないだろう。
「すみませんけど、今はちょっと忙しいので………」
「おい、テメェ舐めた態度取ってんじゃねぇぞ」
やんわりと断ろうとしたが、繁吹さんがドスの効いた声で遮った。恨みで顔が歪んでいる。
「あんな卑怯なやり方で一回勝ったくらいで調子に乗りやがって………!」
「はぁ?卑怯なやり方って何だよ?私達ズルなんて何もしてないんだけど」
繁吹さんの言いがかりに真っ先に言い返したのは歩射だった。
たしかに私達はちゃんとルールに則っていた。というか調子乗ってるつもりも無いし。
「黙れよ!キーを使えないフリして、能力を隠してたんだろ!」
頭を掻きむしって灰酒さんがヒステリックに叫んだ。
あぁ、そういうことか。まぁあんな試合じゃ、やられた方からしたらたまったものじゃないんだろう。
でも本当に金曜日まで私はキーが使えなかった。とはいえ隠してるように見えられても仕方ないか。
それじゃあ何で隠してるように捉えられるようなことになったかといえば、その元凶は………
「おい、三人揃って私を見んな。計画段階で梢殺も共犯だっての」
私達三人の視線を集めた歩射がめんどくさそうに首を振る。
いや、どう考えても主犯格は歩射だろう。みんなに私の能力を隠すために、わざわざ週末に人目につかない場所で能力を発現させたんだから。
エンタメという名の彼らを見返すという目的の元やってたわけだし、間違いなく確信犯だ。梢殺はただぼんやりと従ってただけだろう。
「それに、たとえ隠してたとしてそれが何だよ。いわゆる作戦ってヤツだろ?別に能力隠しちゃダメなんてルールも無かったし。あ、言っとくけど私らにスポーツマンシップとか求められても困るからね?」
「うるさい‼︎俺達が、俺達がお前らを痛めつけて、圧勝するはずだったんだ‼︎それなのに、初戦で負けるなんて………認めない!俺達はあんな試合認めないぞ‼︎」
そう喚くと彼らは一斉にタレンテッドキーを取り出した。街中だというのにも関わらずキーを起動させる。
「お前らを痛めつけて、屈服させてやる!そうすれば棄権せざるを得なって、俺達は試合に戻れる‼︎」
武器を握った彼らが充血した目で睨みつける。どう見ても話してどうこうなる問題では無いだろう。
これが訓練用のキーだったらまだ無視して何とかなるが、死ぬ可能性のある実戦用のキーを前にして無視は出来ない。
「ちょ、これは逃げた方がいいんじゃない?」
すぐに危険を察知した大刀石花がキーを取り出した。たしかにここは大刀石花の能力で逃げるのが一番だろう。
逃がしてくれるかどうかは分からないけど、面倒なことになる前に何とかしないと。
「いや、その必要は無いな」
しかし歩射は大刀石花の手を抑えると、スクールバッグからキーを取り出す。
「学校に戻って訓練すんのダルいんだろ?だったら予定変更だ、ここで訓練しようぜ」
「え?えっと………それって………」
もう嫌な予感しかしない。大刀石花と顔を見合わせると、彼女も同じ事を考えているようだ。呆れたように目を細めている。
「ん〜?どういう事?」
ただ一人意図が分かっていない梢殺が首を傾げた。
「ちょうど目の前に八人の練習台がいるんだ。使わない手はないって事だよ」
そう言って歩射は起動させた。彼女の手に二丁のサブマシンガンが出現する。
「か、歩射!さすがにそれはマズいって。万が一人に見られたら………」
「向こうからバトル仕掛けてきてんだ、受けたって何の問題もないっしょ?それに、四人だけでの訓練だとチームの連携を高められないからな。練習相手が欲しかったからちょうど良かったよ。梢殺、お前もキー出せ」
「よく分かんないけど、りょーかい」
梢殺もただならぬ空気は感じ取ったのか、キーを起動させて大鎌を握った。
歩射達はもう戦う気満々だ。しかし向こうは八人、こっちは四人で二倍の差がある。
「人数差がありすぎるよ。一旦逃げて警察に通報した方が………」
「そうやって逃げた結果、全治二週間の怪我負ったんじゃなかったか?」
「「ッ!」」
痛いところを指摘されて私達は唸った。
たしかに、何度も何度も逃げた結果、私のせいで大刀石花は死にかけることになったのだ。
ここで逃げればまた同じことになる。いやもしかしたら今度はもっと酷いことになることだって………それは嫌だ。
「はぁ………仕方ない。海金砂、やろっか」
ため息をついた大刀石花が腰に手を当てて項垂れる。
「大刀石花、いいの?」
「うん、まぁ、極力バトルはやりたくないけどさ。また面倒事になるよりはいいでしょ?。それに………」
大刀石花はタレンテッドキーを取り出して微笑んだ。
「今は海金砂もいるし。ちゃっちゃと済ませようよ」
たったその言葉だけで、引き気味だった私の心が沸き立つ。
大刀石花に頼られて、共にいれることが私の戦意に火をつけた。
「………うん、頑張る」
「やり過ぎないように程々にね」
私もキーを取り出すと大刀石花と並んだ。
「遅いぞ。ようやく二人ともやる気になったか」
「嫌々だけどね。それで、作戦は?」
「ん〜、はい!今日の作戦をそのまま採用でどうでしょう?」
ピッと手を挙げて梢殺が提案した。
つまりぶっつけ本番ってことか。それで連携は多少無理がある気がするけど、気にしたら負けだろう。
「別にいいけど、今度はお前もちゃんと働けよ」
「
「おーい、逃げんな」
歩射の肩に手を置いて梢殺がグッと親指を上げた。サボる気満々みたいだ。
「それなら、人目につかないように私達の存在感消してくれないかな?やっぱりあんまり人に見られたくないし」
「おっ、海金砂ナイス提案!これで心置きなく暴れられるな。いいか、梢殺?」
「まぁ、それくらいなら」
方針が固まったところで、私と大刀石花はキーを起動させた。大刀石花の手に刀が生成され、キーのエネルギーが私の手に灯る。
「さぁて、延長戦開始だ!」
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