第70話 居酒屋プレミアム

 ハットリくんの化身の術は、時間の制限があるものの、なりたい相手の髪の毛を溶かした激苦茶を飲めば、10~12時間ぐらいは大丈夫なんだって、あと、その相手に見つかったら術が解けるらしい。


 ということはだ、いける、いけるぞ。


 営業時間を短めに設定すれば、大丈夫じゃね? 仕込みの間は店を閉めてるわけだし、5時から10時、11時頃までの営業時間にすれば問題ないよな。


 一応、皆の了解を取らないといけないけど、きっと賛成してくれる!


 善は急げというから、早速、皆に集まってもらい、話をしたら、だいたい賛成。


 だいたい、というのは、やっぱり、領主の仕事はしてもらわないと困るという事。


 だったら、領主を弟のジェフリードに譲るという案は、あっさり却下されてしまった、シンさんが俺にべったりだから、ジェドになった時に蛇人族の協力が得られるか分からないし、なにより、街の基盤となっているダンジョン・マスターのミハルと契約しているのが俺だからだ。


 だから、趣味の範囲でやる分には、いいんじゃないかという意見になったんだ。


 条件としては、

 1、領主の仕事を優先すること。

 2、必ず護衛をつけること。

 3、10人程度の小規模店舗にすること。 


 安全を考えたら、しょうがないけど、護衛のいる居酒屋っておかしいだろって言ったら、シンさんや蛇人族、タイガーヴァイスなどが、2~3人、客として混ざってれば違和感ないだろうと言われてしまった。


まあ、そうなると、実際のお客様は5~6人、グループだったら、1~2グループってとこか。


 まあ、寂しい人数だが、仕方ないかな、確かに安全は大事だし、我儘ばかり言ってもしょうがない、皆も屋敷のお披露目の時にやり過ぎたと反省して、歩み寄ってくれてるようだし、実際にはお店の営業も不定期になっちゃうだろうしな。


 空いてるかどうかわからない店に、来てくれる客なんかいるのかなって不安もあるけど、やってみるしかないよな、ダメだったら、その後でまた、考えよう。


 鼻歌でも歌いそうな勢いで、店をどの辺りに出そうかな、と街の下見に出かけるカイルを見送って、なにやらこそこそと集まり始めるメンバー、ナナミ、ミハル、シン、タイガーヴァイス、と猫又達。


 サファイルにも声はかけたが、決まったら後で教えてねと、あくびをしながらお昼寝モードに突入してしまった。


「なんでそんなに、居酒屋やりたいのか謎だけど、息抜きは必要だよね」

「うむ、そうじゃな、前世の想いが残っておるのやもしれんな、我も意識したわけではないが、社畜モンスターが生み出されてしまっておるしのう」


 と、ナナミとミハルが言葉を交わす。


 タイガーヴァイスのメンバー達は専属の雇われとなった時に、従属の契約で秘密保持をさせた上で、カイル達が前世持ちのことや、ミハルのことも説明済みだったので、気兼ねする必要も無く話が出来た。


「あとね、出来ればカシムもこの場に呼びたいんだけど、どうかな?」


「聖女でもあるナナミが信頼するのであれば、かまわぬ、と言いたいところだが、あ奴は陛下に聖女を守るように言われておるようじゃが、それだけで近衛騎士の位を放りだすのか? なんとも、裏がありそうじゃが、考えが読めぬ」


「そうね、人柄は心配ないと思うけど、前から何考えてるのか良くわかんない人でもあるのよね、陛下の命令にだけは忠実みたいだけど、それ以外は規則なんか、どうでもいって感じだしね」


「そうじゃ、ナナミにとっては安心な相手かもしれぬが、カイルにとっても安心かどうかはまだわからぬからな」


「それもそうね、じゃあ、カシムは保留で様子を見ながら決めましょう」


 皆も頷き、同意する。


「あとは、場所とお客の選別が必要よね」


「主様には内緒で、こちらで客を決めてしまえば良いのではないか? 誰でも出入りが出来、不在になることが多い場所など不用心すぎるし、我の唯一無二の御方になにかあってからでは遅いわ」


「そうだな、シン様の言う通り、誰でもってのは不用心だと思うぜ、この街に絶対必要なお人だしな」


 イリアンさんとアナさんは、シンには様付けで呼ぶようになっている、蛇人族の始祖様とか聞いたら、普通そうなるだろうってことらしいが、ドワーフと巨人族は自分達の種族の長以外に、敬語を使う習慣がないし、イルガーは昔からの知り合いだし、シン本人が、言葉遣いなど気にしてないからどう呼ばれようとあまり問題はないらしい。


「そうじゃな、この間の試食会のようなチケット制にしたらどうじゃ? 1枚のチケットで4人までで、一日2組までとすれば見張りもしやすかろう」


「そうね、ミハルちゃんの案はいいかも、でもさ、お店って不定期になるよね、いつ行けばいいか分からなくないかな、それにどうやって、どこで、販売すればいいの? それにお客を制限してるってカイルは嫌がるよね、きっと」


 なかなかいい方法が浮かばず、考え込む、安全性は確保したい、でも、カイルが望むのは誰もが気軽に立ち寄れて、ワイワイ騒げるお店なので、どうすればいいのか。


「お店を開ける日を決めてしまったらどうかにゃん」


 発言をしたのは、シノブちゃんだ。


「1のつく日とかに決めてしまって、カイル様が出来ない時は、この屋敷の料理人、カールやアリス、ニールにやってもらっても、月に数日だったら問題ないのにゃ、」


「それ、いいかも、さすがシノブちゃん! 頭いいね」


「良いかもしれぬな、月に数日しか開かない幻の料理店とすれば良いしのう、別に儲ける必要もないし、ダンジョンでの新しい食材を屋敷の者以外にも、試してもらえるしのう」


「そうじゃ、他のドワーフの者達にも美味い酒と、美味い酒が飲める機会があるのは、儂も嬉しいぞ」


「今、バルサは上手い酒と、酒って言わなかった? そこは上手い酒と料理じゃねえのか」


「そうとも、いうかのう?」


「いいじゃない、バルサらしくて」

「本当だな、はははっ」

「美味い酒と料理なら、蛇人族も喜ぶ、しな」

「カイル様のレシピなら、どんな種族だって喜ぶだろうよ、最近の飯が美味くてしょうがねーけど、料理人達もカイル様からいろいろ教わってんだろ」


「チケットはダンジョンからのドロップ品にしたらどうかな、そうしたら、お金が欲しい人は高く売れるだろうし、冒険者以外の人も手に入れられるでしょう、どうしても食べたい人はギルドに依頼を出せばいいんじゃないかな」


「そうじゃな、誰でもとはいかぬが、誰にでも行くチャンスはある、で良いのではないか」


「おお、いいかも」 

「それ、いいんじゃね」


 一度話に弾みがつくと、面白いように様々なアイデアが出てきて、盛り上がっているところにちょうど、カイルが帰ってきて、話に加わった。


 最初は、そんなプレミアム感満載な店なんか嫌だと渋っていたが、ダンジョンでとれる食材を使って、カイルのレシピで料理すれば、特別なのは当たり前、この世界で他では食べられないんだから! 


 と皆に力説されればしょうがないとあけらめ、受け入れることになり、本格的に準備が始まった。



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