第68話 夢よ再び
ミハルに自警団の宿泊所兼、詰所を建築してもらおうと思ったら、既に出来上がっていて、確認してるんだけどさ、見た目は中世の建物なんだけど、中身は3LDK~1DKのマンションかよ!
上下水道は、当たり前のように完備され、電気、ガスは無いけど、それは、魔石で代用出来る。
地下に大規模な貯水池と地下水路を造って、大量のスライムを放してあるから、循環されて綺麗な水が使えるんだって、レバーを捻れば、水もお湯も使えて、大量の水を確保してあるから、魔石の消耗も少なくて済む家計に優しいお家だってさ。
住む家族構成に合わせて選べる広さと間取り、快適な住環境を貴方に、そんなキャッチフレーズが聞こえてきそうな宿泊所という名のマンションだよね、これは。
自警団に選抜された面々が、宿泊所を見学しながら、口をあんぐり開けている。
「ス、スゲー、本当にこんなとこに住めんのか?」
「家族もOKって、マジか? こっちに住んだら、ぜってー帰んねーぞ」
「風呂って、貴族が使うっていう、あれか?」
興味津々であちこち見て回るおっさん達にほっこりしていると、カシムさんが、空気も読まずに自己中発言。
「あー、俺はいいや、あっちの屋敷に住むから、美味い料理もあるし、いい女もいるからな」
俺に拒否権は……ないんですよね、別に嫌なわけじゃないからいいんだけどね、なんか嫌いになれないんだよね、この人、笑うとちょっと可愛いし。
一通り見て回った後で、皆の希望を聞いてみたら、カシムさんは屋敷に住むことになり、エルミオとカルーギナは二人で一部屋。
仲間と住んでもいいか聞かれたけど、それは断った、どこかでけじめをつけないと困るからね、その代わり、時々泊まりに来るのは大丈夫だよと伝えてあげた。
他の人達にも、誰かを泊めてもいいけど必ず許可を取ることにして、無許可で宿泊させた場合は出て行ってもらうと伝えた。
そうしないと不法滞在者が増えそうだからさ、だってシュバーツェンの街より絶対に住み心地いいからね。
そうすると誰か、宿泊所を監視するというか、寮母さんみたいな人? 誰か決めないとな、本当はカシムさんをリーダーにしてって考えてたけど、人をまとめるとか、規則を守らせるってむいてなさそうだしね。
残りの9名、そのうち家庭を持ってるのは3名だけで、子供がいるのは一人だけだった、冒険者とかって生活が安定しないから、彼女はいても結婚するのは少ないんだって。
三人に家族と住むかどうか確認したら、もちろん、一緒に住みます! だって。
ちなみに、魔石の消費が家計に占める割合が多いこの世界で、魔石の消耗を減らせるこの宿泊所は、主婦達から大絶賛されたんだ。
宿泊所の管理は、主婦三人にお小遣い程度だがお給料も出すからとお願いしたら、快く引き受けてくれた、建物全体の掃除と管理、住んでいる人達が気持ち良く暮らせるように自分達でルールを決めてもらう事にしたんだ。
住人以外の宿泊の申告とか、最低限のルールは伝えるけど、あとは自分達でお願いね。
住むところも決まったので、あとはお仕事の説明しないとな、まず、リーダーはカシムさん、サブリーダーはひとまず、タイガーヴァイスにやってもらう事にした、この街にも慣れてるしね。
やってもらう仕事は、街へ出入りする人の監視、街の治安維持が大きな柱になるかな、あとの細々とした仕事は、ナナミの指示に従ってもらう、街の安全に交番は欠かせない! と張り切っていたから、お任せしよう、細かく口出しするより丸投げで!
商人や冒険者、自警団の人達と少しづつ、人口も増え、活気に満ちてくる街を見てると、充実感もあるんだけど、なんていうか、こう、……ね、
領主なんかやるより、居酒屋やりてー!
うん、わがままかもしんないけど、やっぱ、やりたいものはやりたいんだよな。
試食会も楽しかったけど、そうじゃないんだよ、もっとさ、俺のつくった料理を目に前で食べてもらって、酒を飲んでさ、距離が近いっていうのがいいんだよな。
「主様、何やら悩んでおられるようですが、どうかされましたか?」
急に話しかけられると、びっくりしちゃうよ、シンさん。
「街が少しづつ、賑やかになってきてさ、やっぱ、居酒屋やりたいなーって思ってたんだよ」
「やればよろしいのでは? なにか出来ない理由があるのですか」
「んー、領主が居酒屋なんて、聞いたことないしな、安全だって考えないといけないし、」
「聞いたことが無い、ならば、ご自分が前例となられればよろしいのではないですか、安全という事なら、我が常にお側におれば大抵のことは問題ないかと思いますが、カシムとかいう男も腕は立ちそうですが、我が本気になれば相手になりませぬ」
護衛付きの居酒屋なんて、誰がくるんだよ、嫌だよ、そんなの。
「領主もお嫌ならば、やらなくともよろしいのではないですか?」
シンさんは、基本がフリーダム過ぎるんだよな、悪気はないんだ、きっと。
「そんなわけにはいかないよ、人間にはしたく無くてもやらなきゃいけないこともあるし、それにやっと街だって活気づいてきたのに、放り出すわけにはいかないよ、皆の生活だってあるんだからさ、シンさんだって、蛇人族の人達を守ってきたんだろう」
「ふうむ、我は始祖であるから、子の面倒を見るのは当たり前だが、彼らは主様と何の関りも無い故、お嫌であれば滅ぼしてしまえばよい」
当たり前のように、なんて怖い事を言うんですか! そんなこと出来る訳ないでしょう。
「良くわからないのだが、領主であるのが問題ならば、ハットリに頼んで化身の術でも掛けてもらえば良いのでは? その、居酒屋の間だけ、ばれなければ問題は無くなるのではないのか?」
「化身の術って何?」
俺は、勢いこんでシンさんを摑まえる、……嬉しそうにされたので、すぐに手を離したけどな。
「ハットリは忍術というスキルを持っていて、変身できる術式もあると聞いている。詳しくはわからぬので、お気になるのであれば直接聞かれるのが一番じゃろう」
めちゃめちゃ、気になります! シンさんとすぐに屋敷に戻って訊いてみたら、変身は出来ないが、見た目をごまかすことは出来るらしい。
ハットリくんてスゴイ! 猫又万歳!
居酒屋、やれる? 本当に?
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