第53話 しつけするなら小さいうちに
ダイチから、
それはもう、可哀そうなほどげっそりとした顔にあらわれている、
このバカ蛇達を24時間で、標準ラインまでもっていくなど、無謀極まりない、だいたいが、思考回路そのものが違うのだ、人間を下に見て、性欲優先のこの親子にどうやって、人間の常識を教えろと言うのか?
ナナミが頭を抱えてる中で、蛇の親子は不毛な言い争いを続けていた。
「私のほうが、ご主人様を満足させてあげられるから、高齢者は大人しくしてなさい、どうせ、腰もろくにに動かないんでしょう? 」
「何をいうか、高速回転で動くわ!」
「動けばいいってものじゃないでしょう、動くだけならおもちゃで十分だわ。」
聞くに堪えない、言葉の応酬は、いつ果てるともなく続いていく、その様子を眺めていたナナミがついに動いた。
ギフト:
シンとサファイルが、一瞬、動きを止めた。上位種族である二人には、ほんのわずかな時間しか効き目は無かったが、十分だった、何をするのかと、振り返り、凍りついたのだ。
ナナミの顔がマジで、ヤバイ、これは、あれだ、逆らってはいけない奴だ、本能的に危険を察知した二人は、おとなしくなった。
ナナミから、怒りの波動がひたひたと押し寄せてきて、威圧される。
ギフトスキル:怒髪天は解除されているが、ギフト:
シンは、思い出していた、その昔ヴァルハラで大暴れをした
ヴァルハラとは、真の戦士が亡くなった後に、辿り着く場所だ、神々に認められた戦士が来るべき
なぜ、今まで、自分は忘れていたのだろうと、額に汗が浮かぶ。
隣を見ると、さすがのサファイルも表情が強張っている。
ダイチの忠告と、ナナミの言葉を真剣に聞いていればこんなことには、ならなかったのかもしれないが、もう遅い、寝ている竜を叩き起こし、その逆鱗に触れたのだ、ギフト:
なぜ、自分は今までこんなことを忘れてしまったのだろう、ナナミは怒らせてはいけない相手だったのだ。
だが、それこそが、ロキの呪いだったのかもしれない、性欲が最優先となってしまう、蛇人族のイリーガル種こそが、蛇淫族とも呼ばれているのだから。
「あんた達、反省する気はあるのかな? 」
ナナミの冷たい声は、雷を纏う槍、ガングニルのように突き刺さる。
「我らは主様のために、主様に喜んでいただくために・・」
シンの言葉に、こくこく、と頷くサファイル。
「あんた達の言い争いを、ダイチが喜ぶとでも? 」
「そ、それは、しかし、主様にご満足いただかねば・・・」
「ダイチの満足じゃなくて、あんた達の性欲を満たすためでしょう? そんな欲望まみれの愛情押し付けられたって、迷惑なだけだから。」
「だ、だが、一度、我ら蛇淫族と交わっていただけば、主様もその良さをわかって・・」
「まだ、ごちゃごちゃ言うのね、だったら、私を満足させてみなさいよ! ほら、二人のうちどっちでも構わないから、かかってきなさいよ!」
そう言って、一歩前に出るナナミ、思わず後ろに一歩下がるシンとサファイル。
元来、闇に属する魔力に近い蛇人族は、強力な光の魔力は、苦手なことが多いのに、聖女であるナナミが聖魔力を練り上げ高めたものを、ギフトによってブーストをかけられているような状態になっているのだ。
一歩、一歩、ナナミが前に出ると、シンとサファイルは下がっていく。
「ねえ、サファイル、私のことを胸だけ女とか言ってくれてたけど、あれ、もう一度言ってみる? 」
無言で首を横に振る、
「そうよね、私はダイチからあなたたちの教育を任されてるの、私に逆らったら、もう二度とダイチに合わせないから、分かったわね。」
「「・・・・・・・」」
「返事が聞こえないわね、もう一度聞くわ、分かったわね!」
「「わかりました」」
ナナミは、ミハルにお願いして仮想空間を使用させてもらった。
【鑑定】を持ってないので、
そこで、朝起きてランニング、午前中は人間の感情や考え方を座学で学び、午後は座禅を組む、集中が途切れればナナミの聖魔力を叩き込まれると言う日々が、現実世界でおよそ、半年になろうかという頃、三人はダイチの下に戻ってきた。
それぞれの思惑を胸に秘めたまま。
「主様、ただいま戻りました。」
もう、こんなに長い時間離れるなんて耐えられない、だが、私は急ぎすぎたのだな、あれほどの魔力があるのだから、つい、私と同じレベルで考えていたが、じっくりと、せめていけばよい。ナナミには逆らわないがな。
「ご主人様、ただいま戻りました。」
しょせん、男はいい女が欲しくなるもの、だけど、ご主人様はそれをストレートに表現するのが苦手だと、皆の前であまりに露骨な誘いは人間に好まれないのだと、大丈夫です、どうせ、愛し合うときは二人きりなのですから。 ナナミには逆らいませんけどね。
人前では、最低限の振舞を身につけることが出来たのか?
ナナミの努力は、果たして報われたのか?
それは、神のみぞ知る。
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