第54話 試食会の準備

仮想空間から戻ってきた三人が加わり、試食会の準備は順調に進んでいた。


 屋敷の前の広場に、オープンキッチンと開放的なスペースに、いくつかテーブルが並べられていくのを見ていると、俺のテンションも高くなる、仲間内以外で料理を振舞い、お金を取ってもてなすのは初めてになるから、緊張や不安もあるが、わくわくとした楽しい気持ちのほうが強いんだ。


 料理を食べた時のみんなの反応は? ちゃんと楽しんでくれるのか? 気持ちのいい楽しい時間を過ごして欲しい、今回は採算度外視だしね、もっとも、ダンジョンから直接取ってくれば実質、0円なんだけどさ。


 ミハルのダンジョン・スキルのおかげで、ほんの数時間で場所の準備が出来てしまった、もちろん、きちんと通達して指定の時間は誰もいないようにしてたよ、ケガすることはないけど、びっくりさせちゃうからね。


 周りの冒険者達は、屋敷が何度も改築・改造を繰り返していたので、突如地面が盛り上がり、地形が変わっても、今度は何を造ってるんだ? ぐらいだったけど、ダンジョンから取れた素材を使って、お館様が試食会をやるらしい、純銀貨2枚(2,000円程度)で飲み放題、食べ放題、と聞くと一気に盛り上がった。


 ウワサはあっという間に広がり、いつやるんだ? まだ決まってないのか? 本当に純銀貨2枚なのか? あとで吹っ掛けられるとかないのか・・大丈夫なのか? ドワーフと蛇人も含めていろいろな話が飛び交っているようだ。


 タイガーヴァイスに宣伝を依頼したのは成功だったな。高ランクのいるパーティーは、信用されやすいからね。


 そして、いつの間にか俺は、お館様と呼ばれるようになっていた。


 街に領主代行がいて領主の屋敷もあるし、ダンジョンの発展とともに形を変え強大な魔力によって維持されてる屋敷の主! という印象が強いらしく、誰からともなくそう呼ぶようになったとか・・・。


 それに伴って、ナナミやミハルも俺のことをカイルと呼ぶようになった・・・しょうがないけど、ちょっと寂しい・・・ いっそ、シュバーツェンの街に買った居酒屋の名前をダイチにしようかな・・・・・手放してないし、あきらめてないんだからな、俺は! 


 実際、屋敷を維持してるのはミハルの魔力で、ダンジョンを創造するのはマスターとしては当たり前のことなので、苦労しているわけではないらしい、俺はミハルと契約しているけど、俺の魔力じゃないんだけどな・・・・でも、マスターと契約してるなんて言える訳ないから、黙ってるけどさ・・・。


 それに、最近は人が多くなって、魔力が余って困ってるらしいから、フードコートを造るぐらい何の問題も無いって言ってたよ、逆にダンジョンを広げたり、罠や獲物、ドロップ品を増やさないと魔力暴走が起きるかもしれないっていってたから、試食会が終わったら、それもいろいろ話をしないといけないし。


 当初よりは、階層も増やしたらしいけど、効果的に人を集めるのなら皆で話し合うのもいいんじゃないかな?



 いろんな人の間で評判になっているようなので、料理人が俺一人では、どう考えても厳しいだろうと言うことで、臨時でお手伝いの人を雇うことにして、募集をかけたら、けっこうな人数が集まってくれた。


 と思ったら、俺と繋がりを持ちたいお嬢様やら、同じく繋がりを持ちたいと思う目敏い商人達の推薦料理人の方々は丁重に、お断りさせていただいた。


 そんなもん、めんどくさいし、プロの料理人に手伝ってもらう料理なんか作る気無いからと、やんわりとお断りを入れてもわかっていただけない方には、シンさんとサファイルさんが追い返してくれた。


「そんな、貧弱な体で取り入ろうなどとは、図々しい。」  とか、

「そなたらの料理は要らぬと、主様がおっしゃっておられる、自分が料理の素材とならぬうちに帰るが良かろう。」  とか、


 断り方がちょっと、アレだけど・・・助かったよ。

 ナナミのしつけだか、特訓だか、 教育的指導って身についてるんだよね?・・・大丈夫・だよね? 


 そんな、選考?を通過したのは、20人で、その中から5人を採用とさせてもらった、


 ドワーフのドロテアさん、ミルジーさん、この二人はここで暮らしていくので、この地で採れる食材での料理を覚えたいと言っていた、いいじゃん、地産地消。


 半ば、俺達の都合で移転してもらったようなものなので、ここで、暮らしていこうとする前向きな気持ちは心から応援させていただきます。


 あと、二人はシュバーツェンの街で居酒屋を営んでいる親子、カールさんとアリス。このダンジョンの周りはこれから発展していくだろうから、前乗りでこちらにお店を出したい、その勉強を兼ねて今回応募させてもらったといっていたので、こちらも同じく応援させていただきますよ。


 そして、最後の一人は、冒険者。


 冒険者には向いていないように思うので、違う仕事を探しているというニールさん、シンさんやナナミ達と一緒に居ると、こういう素朴そうな雰囲気の人って、なんかほっとするんだよな。


 ちなみに蛇人族からの応募は無し、・・・なんかそんな気がしてたけどな。


 料理をするメンバーは揃った、あとホールと言っても店で買ったものをその場で食べてもらうフードコート方式なので、数人は待機してもらうけどそっちはナナミに任せた。


 さて、肝心のメニューを決めないとな。


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