第48話 シンさんにやられた

新しいダンジョンの発見から、およそ一か月が経ち、冒険者達もダンジョンへの立ち入りが自由となった。

ドワーフと蛇人も、無事に移住を終え、日替わりで冒険者達も訪れており、賑わいをみせている。


獣人達も狐人族、熊人族、兎人族は移住を希望しているときき、ギルマスのアダムは、発展していく喜びと共に、管理の大変さに頭を抱えていた。


アリサが、ポーションを差し入れながら、限界に挑戦をさせているので、大丈夫だと思いたい。


出来ることなら、街中に居住してくれれば、管理も楽なのに・・と考えるが、ダンジョンの周辺に住むことに関しては、領主が許可を与えているため、どうにもならない。


ダンジョンアタックに関しては、ギルドが権限を持っているが、その周辺の土地は領主の持ち物だから、アダムには何も出来ないのだが、騒ぎが起これば、ギルドの責任となる。


権限は無いのに、責任だけは押し付けられる。どこの世界も中間管理職は大変なのだ。



そんな、アダムの頭を悩ませるものの一つが、ダンジョンの近くに、いつの間にか出来ていたお屋敷だ。


何も無かった荒野に、突然現れ、不定期に形が変わっていくお屋敷は、当然、注目された。


一体、持ち主は誰なのか? 


あのように、形を変え、魔力で作りあげられている屋敷など、まるで、魔王城のようだとか、

国王の別荘を、宮廷魔術師団が作り上げているらしい、とか、

ウワサだけが、一人歩きしていた。


アダムは、ダイチの屋敷だときかされていたが、口止めをされていたので、皆の注目は高まるばかりだ。


そして、最初に小さいと言われた屋敷は、約3倍程の広さに広がっており、装飾も施され、これならばとようやくシンの許可がでて、ダイチへお披露目することになった。


この一か月の間は、ダイチは居酒屋の開店準備で忙しく動いていたが、ダンジョンのおかげで街が少しづつ、活気づいてくるのを感じられたし、


時々は、猫又達がお手伝いという名目で、それとなく、差し入れを要求する時などに、ミハルも猫又達も元気な様子がうかがえて嬉しく思っていた。


店の準備も一段落したので、今日はナナミ達と一緒に、久しぶりにダンジョンへ出かけようと声をかけて、南門に着くと、ダンジョンまでの乗り合い馬車がいくつか出ている。


片道三時間と考えると、往復で六時間、ダンジョンの周りでテントを張る冒険者達もいるようだが、ほとんどのものは日帰りなので、馬車はとても人気があるのだ。


どの馬車にしようかと、ダイチがキョロキョロしていると、ナナミにこっちだよ、と呼ばれるままについていくと、先程までとは明らかに違う、貴族が乗るような馬車が止まっていた。


ナナミ達に気が付くと、すぐに御者が降りてきて、扉を開け、その横で、シンさんが微笑みながら、


「主様のために、ご用意致しました、どうぞ、御乗りください。」


と、見事な一礼をしている。


俺のため、 なんで・・?

俺、今、冒険者だよね、なんでこんな馬車に乗るの?


戸惑っていると、半ば強引に乗せられ、馬車はダンジョンに向けて動きだした。


これは、シンさんの仕業だな、いつも俺のことを立ててくれるのは有難いけど、俺は居酒屋の店主になるんだし、不相応に贅沢なものや、豪華なものはいらないんだよな。


シンさんは、お金持ちなんだろうけど、俺まで贅沢する必要はないってことを、ちゃんとわかってもらおう。


「ダイチは、一か月振りになるんだよね、絶対びっくりするよ。」


何にもない荒野だったのが、そんなに変わったのか、ミハルや猫又達の喜んでいるいる顔が目に浮かぶ。


「そうじゃのう、ドワーフも蛇人族も住み始めたし、店や宿屋も建築中なのがあるしのう。」


「そうだね、シンさんは蛇人族の人達と一緒にいなくていいの? 」


俺は全然、かまわないから娘さんと一緒に住んでいいんだよ、ってか、そうして。

言葉では、言わないけどさ、シンさん、隙あれば色気振りまくの止めて欲しいんだよ。


最初の頃よりは、大分ましなんだけどね。


「我は、主様のお側におります。この身も心も捧げるべきお相手ですので。」


うっ、相変わらず圧がスゴイ。そんなキラキラした目でこっちを見てもどうにもならないからな。


それに、ビミョーに近づいてくるの止めて、さっきよりも距離ちかいよね、俺のほう、なんか狭いんだけど。


「ま、まあ、そんなに、気張らないでもいいんじゃないかな、仲良くやれば・・。」


「仲良く、主様と仲良く・・」


シンさん、シンさん、特別な意味なんか無いからね。  

 おーい、シンさん・・       あれっ、仲良くって、NGワードだった?


「シンさんもしっかりしてよね、もうすぐ着くわよ。」


「そうじゃな、今日は主様の初お目見えじゃからのう、仲良くするのは後で、じっくりと。」


しないから!



そうこうしているうちに、馬車がゆっくりと、お屋敷の中に入っていき、メイド服をきた女性が10人程と執事服を着た男性が並んでいるところで、馬車が止まった。

降りていくと、一斉に頭を下げ、


「お待ちしておりました、ご主人様。」 とお出迎えをしてくれたが、俺は、びっくりしすぎて、無言で頷いているだけだ。


「主様のために、ご用意致しました。どうぞ、中にお進み下さい。」


と、シンさんに言われるままに屋敷の中に入っていき、メイドに連れられるまま、歩いていくと、服を着替えさせられた。


なにがどうなってんの?  シンさんとナナミは、どこ行った?


ここは、シンさんのお屋敷なのか? 実家のシュバーツェン男家より、豪華なようだが・・?


置かれた家具や、調度品はさり気ないが、最高級品であろうことが、ダイチにもわかった、辺境の弱小貴族より、はるかに洗練された趣味だ。


周りの物に、無暗に触れないよう気をつけながら、案内されていくと、眺めの良い大きなバルコニーがあり、その前に広がる庭には、多くの人が詰めかけているのが見える。


気が付くと、メイドは既に下がっており、横にはシンさんとナナミが立っている。


二人に連れられ、バルコニーに立つと、シンさんがぬかしやがった。


「今日より、この地はここにおられる、シュバーツェン家、ご嫡男、カイル様の直轄地となる。我ら蛇人族は既に忠誠を誓っておるし、ドワーフもカイル様に従う。街中は弟君のジェフリード様がおられるゆえ、心配いらぬ。」


「そして、この屋敷と周辺の土地は、カイル様の魔力によって守られておる。」


おおおっ、 すげー、  やっぱ、魔力で出来てんのか 周りの土地もか?と抑えた声がもれる。


「恵みのダンジョンをもたらしてくれた、カイル様と共に発展していこうぞ!」


おおおおおっ、もちろんだ、  これからここも豊かになるんだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・  

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

俺は、一言もしゃべる事なく、ひらひらと手を振り、バルコニーから下がった。


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