第47話 迷宮の邸宅

「し、師匠、聖女だったのか?、」


「そうだね。カイルの実家と似たようなものよ、姉を溺愛する母は私が邪魔だったみたい。」


もう、隠してもしょうがないとあっさり認める。


「聖女って、もっとこう、お淑やかな、深窓のご令嬢じゃないのか?」


「そんな、性格だったらとっくに死んでるわ!」


その通りです。


「で、ダイチは時空魔法の使い手で、聖女を上回る魔力量って本当なのか?」


あの、のほほんとしたダイチが・・・時空魔法、最低でもAランクの賢者でないと使えないと言われている最上級の魔法を? 


「本当じゃ、ダイチはSSSランクの時空魔法をつかえるのじゃ。」


SSSランク、人族では使える者はいないと言われている人外ランク。


「なんだよ、それ、本当に王様でもなれんじゃねーの。もう、いいよ、ダイチが獣人の王でさ。」


「よく言った! これで、主様は、獣人と蛇人の王となった。」


「あっ、私もダイチが王様でいいよ。」


まさかのナナミが参戦。


「我も、ダイチとナナミには恩があるからのう、ナナミがそういうのであれば、従おう。じゃが、近々移転してくるドワーフは、どうするのじゃ?」


「従わねば、この地に住む資格などないわ! 我が追い払ってくれる。」


鼻息も荒く、まだ来てもいないのに追い返すというシン。


「ドワーフは大丈夫だと思うよ、ダイチが酒神クヴァシルの加護を受けて、この地にドワーフを導いたことにすればいいんじゃないかな。


なんなら、主神オーディンの加護もつけておけばいいんじゃないんの、私、聖女だから、主神オーディンの加護持ちだしね。」


さくさくと、話が進んで行くが、王になる予定のダイチの意見は一つも無い。


そもそも、本人に王になる予定などこれっぽっちも無いのだから、仕方がない、・・・のかもしれない。


「では、イザカヤ国の建国に向けて。」


「ねえ、ちょっと待って、本当にイザカヤ国にするの?」


その名前はちょっとな、どうなんだろうか?


「そうじゃなあ、」

「そうだよな、」


なんか、もうちょっとセンスが欲しいところではある。

んー、なんか、いいネーミングはないのか・・・・・イ、ザ、カ、ヤ・・

淫 酒屋・・・もっとダメだ。 


イ・ザカヤ・・・・・イ・ザカヤル・・・・もう、何でもいいか。


「何をグダグダとしておるのじゃ、名前などどうでも良かろう、イザカヤでも、ザカヤルでも。

どのような名であれ、大事なのは名前ではなく、その名前が背負う中身であろう。」


シンが珍しく? まともな意見を述べ、皆もそうだな、と納得する。


それに国とは言え、誰もが、せいぜい地方都市ぐらいにしか思っていなかったのだ。


子供が作る秘密基地、その延長線上の感覚でいたナナミは、すぐに異世界、魔法の威力を甘く見ていた自分に気付くことになるのだが、今は目の前の問題を片付けるほうが先だった。



「そうよの、シンの言うと通りじゃ。」

「そうかもね。」

「だな。」


「では、最終決定は主様にしていただくとして、イザカヤ国(仮)で良いな。」


ああ、うん、まあ、  消極的賛成だ。


まずは、主様の屋敷を準備せねばならぬ、王都から職人を呼び寄せるか、蛇人族にやらせるか、いや、ドワーフは武器、防具の他に建築も得意だったな、とシンの頭の中は忙しい。


「主様の屋敷は、この世の王にふさわしく、豪奢で華麗なものにせねばならぬな。」


この世の王?  地方貴族の領主さえ逃げ出したのに?  

一人でヒートアップするシン、サイゾーくんがいないのは、せめてもの救い・・。


生暖かい目で見られているが、気にならない。


「シン、盛り上がっているところを悪いがな、ダイチの屋敷は我にまかせてはくれぬか? 」


更なる、妄想の世界に駆けだそうとしていたところだったが、引き留める声がかかった。


「ぬ、ミハルが、屋敷を造るのか? 」


「うむ、ダイチの勧めによって、このダンジョンの1階層は地表になっておるのじゃ。

シンなら分かるであろうが、ダンジョンの中ではマスターである我の力に制限はないからのう。

魔力量に準じた力をふるうことが可能じゃ。」


そこで、にやりと笑い、


「そこの二人には、言葉よりも見せるほうが早かろう、【迷宮の邸宅レジデンス・オブ・ラビリンス】」


ゴゴゴゴゴッ、洞窟が揺れ始める。ミハルの魔力により守られてはいるものの空気の振動は伝わってくる。


ゴッッ、ガッガッ、ガゴッ、最後に大きく揺れ、ゆっくりと治まっていった。


ミハルの魔力に守られたまま、地表部分に出てみると、洞窟の入り口しかなかった荒野に、一軒の屋敷があった。


小さいながらも門構えもしっかりしており、 何よりも草がぽつぽつとしか生えていない周りと比べると、手入れされた庭に噴水まであり、花壇に花が咲いている風景は人の温もりを感じさせるものであった。


「ふむ、小さ過ぎぬか、もっと広大な屋敷はつくれぬのか? しかも、何やら貧相な感じがするではないか・・」


屋敷の大きさや豪華さに不満があるのを、隠そうともしないシンには、苦笑するしかない。


「周りに人がおらぬのに、デカい屋敷など不要じゃろう、使用人さえおらぬのにどうするのじゃ?

ドワーフや蛇人族が移り住んでから、必要があれば広げれば良かろう。」


確かに、荒野の中に豪華で広大な無人の屋敷など、怖いかもしれない。


それでも、まだ、納得がいかない様子で腕組みをしたまま、屋敷を凝視していたが、やがてあきらめたように、これで完成というわけではないから・・・などと、ぶつぶつ言っていた。


イレギュラーな展開の連続に、もはや理解することをあきらめたイルガーは、ただ、黙ってあるがままの現実を受け入れた。


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