第46話 シンとサイゾーは熱かった
イルガーが、一通り話終え、やや不安そうにみんなの顔を見回していた。
一番初めに口を開いたのは、ナナミだった。
「イルガーの言いたいことは分かったけど、タイガーヴァイスのパーティはどうなるの、継続?、解散?みんなと話しはできてるのかな? 」
「それは、問題ない、実質的なリーダーは俺だからな。ギルドとのやり取りとか、面倒なことだけは一応リーダーのイリアンにお任せしてるんだよ。
それにな、イリアンとアナは昔、アンガス領に住んでいたんだ、あの悲劇の一夜で両親も家も失った、それからは俺が保護者代わりに育ててたんだ、だから、反対しねーよ。
あとは、ドワーフのバルサと巨人族のドローウィッシュも、奴らも少なからず人族から偏見や差別を受けたことがあるし、獣人達が安心して住める場所を俺が探してることも知って、協力してくれてるからな。」
「だからか、イリアンのほうがレベルも年も下なのに、なんでリーダーなんだろうって、ちょっと、不思議だったんだ。」
うんうん、と頷きながら、一人で納得するナナミ。一見、脳筋にも見られがちだが、ちゃんと周りを見ていたらしい。
「獣人がここに住むのはどうでも良いが、我は獣人の王などにはならぬぞ、主様がおられるのに、我が王などとは、おかしな話じゃからな、それに、ミハルはどうなのじゃ?」
「我もかまわぬよ、じゃが、争いごとは、ごめんじゃ。」
どうやら受け入れられたらしいと、ほっとしたところに、シノブがシンとイルガーにシャーベットを運んできた。
見慣れない食べ物に、首を傾げるものの、ほれほれ、一口食べてみよ、と勧めるミハルの言葉に後押しされ、スプーンですくって口に運び、
「冷たッ、なんだこれ、初めて食べる・・・・・これは、レモーネか、レモーネが凍ってる・・?」
「美味いであろう、それは、主様がおつくりになられたのじゃ、心して食すが良い。」
ふふん、とふんぞり返り、ドヤ顔で決めるイルガー。
「ああ、美味い、めっちゃ美味いぜ! これ、ダイチが作ったのか?、 あいつ、すげーな。」
自分の主をあいつ呼ばわりされて、少しむっとしていたがイルガーは全く気付かない。
「でしょう、それで、ダイチは居酒屋をやりたいって言ってるんだけどね、今までにもダイチのつくったお料理は、全部美味しかったでしょう。」
「ああ、そうだな、おにぎりに味噌汁だっけ、焼きおにってのも美味かったな。」
おにぎりの味を思い出して、猫又達も目をキラキラさせて話をきいている。
「でもね、ダイチのお料理って、このミハルちゃんのダンジョンで取れた食材が無いと出来ないのがほとんどなのよ。」
・・・・??、 ドロップ品で酒はあったが、食材なんて無かったけどな・・・
ダンジョンに潜ってた時を思い出すが、やはり、覚えがないイルガーと、そもそも、ドロップ品の話が全く分からないシンにナナミが隠しダンジョン”日本の食卓”のダンジョンカードを見せながら、説明する。
「なるほど、我も知らぬ酒や味はこのダンジョンで生み出されたものだったのか。
しかも、異世界の品だと、さすが、主様であるな。」
ドロップ品を生み出しているのは、ミハルなのだが・・・主様、第一主義のシンは揺るがない。
「それで、イザカヤとういう国をこのダンジョンをベースに創っていくのじゃな。」
「「「・・・・・・・クニ?・・・」」」
三人の目が点になる。無理もない、居酒屋って店じゃないの?
お酒を飲んで、美味しいもの食べて、ワイワイ、わちゃわちゃ、楽しく過ごすとこだよね。
・・・????。
店作りじゃなくて国創り、 ってどこから、 そんな話が・・・。
イルガーは大きく口を開けたままの状態で、固まってしまった。
ミハルも猫又達もポカンとしたまま、顔を見合わせているし、ナナミは盛大にお茶をひっくり返していた。
「・・・・・シンさん、」
「なんじゃ。」
「ダイチはさ、こじんまりとした居酒屋をやりたいって言ってたの、覚えてる?」
「ふむ、そのような事を申されてはいたが、主様ほどのお方が、野に埋もれるのは忍びないと思わぬか。
きけば、居酒屋には、大層思い入れがあるようなのじゃから、だったら、主様が治める場所をイザカヤとすれば主様の御心に沿っていると思ったのじゃ。」
・・・・どこから、そんな斜め上の発想になるのかわからない。
名前だけ取ってつけたところで、店作りと国創り、どうして結びつくのか・・・?
全員が訳がわからない・・と何も言えずにいると、
『さすがですのにゃ!!』 サイゾーくんだ。
ダイチと一緒にいるのだが、念話で聞き耳を立てていたら、我慢できずに割り込んできたのだ。
『男なら、天下統一をめざすのにゃ。
サイゾーくんが、また
『下天のうちを比ぶれば夢幻のごとくなり、人としてこの世に生を受けたにゃらば、
ダイチは、そんなものは望んでいない。望んでいるのは、ほのぼの、まったり居酒屋ライフだ。
「おお、わかるか、主様のお側におれば、その偉大さも自然に伝わるのじゃな。」
満足気なシンと、サイゾーくんを止めるものはいなかった。
『ダイチ様は時空魔法の使い手で、MP4300,聖女のナナミを上回るのにゃ、この国一番の魔力量なのにゃ。』
・・ばらしやがった。
いろいろと一気に、ばらしやがった。
言いたい事を言い切ったサイゾーくんは、念話を切って戻って行った。
可哀そうに、イルガーは、飽和状態でフリーズしている。
自分達の仲間がやらかした、と顔をそむける猫又達。
ばれてしまったものは仕方がないと、悠然とイルガーが正気に戻るのを待つミハルとナナミ。
いつだって、どの世界でも女性は強いのだ。
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