第6話

 遺産なんて金額の貯金も無かったし、死んだ後、遺留品が多ければ心身共に、家族に迷惑を掛けてしまうと思い家の物の殆どを売りに出した。

 私のこの時の荷物は、服十五着、靴二足、スーツ一着、コート一着、鞄ニ個。パスポートや通帳と印鑑、筆記用具やわずかなアルバム等。スーツケースに全て収まる量となった。


 これで片付けの負担は少く、微々たる額だが遺産金も出来た。


 でも葬式とかされたら逆に足りなくなっちゃうかな?


 どうやって死のう?


 この部屋で死ねば、ここは事故物件になってしまう。


 でももう限界だった。


 誰かのためなんて無理だよ。

 最後の最後まで迷惑ばかり掛けてしまうんだな。

 

 洗面所へ行き、蛇口を捻り、カミソリで手首を何回も傷付けたがためらい傷しか出来ず、いざ深くいけば身体が震え出して、蛇口に手首を当てる事が出来なかった。


 その時、私は声を出せないまま泣いた。


 生きてゆくのが本当に怖い。


 怖くて怖くて仕方ない。


 でも、それ以上に……


 死ぬのは……


 もっと怖い。


 悲しい。


 助けて。


 死にたい。


 消えたい。


 死んだ方が何も無くなれるかもしれないのに……


 でも、なんでまだ「生きたい」と思ってしまったのだろう。

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