第5話
離婚後、私は実家に帰らず、一人暮らしを始め、転職活動をしていた。
昔からの貯金があって本当に良かったと思う。もし専業主婦だったり、貯金がなければ、収入や生活費の不安から離婚を決意できなかったと思う。
ある日、大学の時の先輩達と集まり飲み会をする事となった。
皆、結婚していて子作りに励んだりしてる、なんて他愛もない話をしていた。そんな中、皆で昔の様に飲み疲れ床で雑魚寝をしていた時だった。一人の先輩が、寝ている私にキスをしながら下着の中に手を入れてきていたのだ。私は、拒もうとした。
すると先輩は、「皆が起きちゃうだろ?俺さ、ずっとお前の事、好きだったんだよね。だけど常に彼氏いたし。でも今やっとお前フリーじゃん。俺が悪者になるだけだから。だからヤラせて。」と、言ってそのまま皆が眠る中で挿入してきた。
私は、恐怖と思考回路が追いつかないまま声を殺して堪え続ける事しか出来なかった。
ただでさえ夫から受けてきた恐怖と羞恥の日々。先輩からの行為。
なぜ「好き」なのに、恐怖や羞恥を与えてくるの?
「好き」なら大切にしてくれないの?
私はそれ以降、男性恐怖症となった。声変わりをしていない中学生の男の子と駅で服が触れただけで身体が震えだしてしまう。
不眠症で常にフラフラしてしているのと、男性と距離を取ってる態度等から就職活動は上手く行かなかった。採用され働き出しても、そんな態度だ。いつも上司に呼ばれその都度、離婚している事を話す。そして毎回「精神科とかに行った方がいいよ」「まだ社会復帰は厳しいんじゃない?」と、言われ何社も解雇され続けた。
上手く行かない就職活動。
減ってゆく貯金。
社会復帰もできす、社会に馴染む事すら出来ない自分。
焦りを通り越して、恐怖と絶望と、夫への憎しみや憎悪の感情に日々苦しんだ。
私の身体や人生を壊し、狂わせ、追い詰め、ここまで落された。
全ての思い出が、憎しみでしかなくなった。
失業手当の給付期間も終わり、三桁あった貯金残高もいよいよ一桁になりそうになっていた。家賃が払えなくなる。生活保護を受けられたとして、こんな状態で生きていけるのだろうか?
生きていく……?
生きていて、しあわせ?
『落ちても落ちても、まだ落ちてゆくよ?』
ここが落ちて底辺だとしても、今さらに擦り潰されているようなものじゃない。
『社会不適合者!!!!』
誰にもそんな事言われていないのに、そう言われて、そう思われていて、そう見られたりしている気がして……。
私は、女性として生きていく事を辞めたい、と思い、風呂場へ行き、髪を切った。
涙は出なかった。痩せ細って華奢な体に男性の様なベリーショート。いっそ、男性になればいいの?私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
その後も就職活動をしていたが、今度は女性からも痴漢をされる様になった。男性と間違えてなのか、それとも同性愛者なのかはわからないが、私はこの時に性別なんて関係なく、抵抗出来なさそうな弱者は誰かの欲望の吐出し口にされるだけなのだな、と悟った。
これからも生きて行けるかわからない。
誰かの吐出し口にされる?
私は、自ら命を絶つことを決意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます