冒険者登録の際あまりのⅬⅤの高さに受付嬢が驚く
俺とサラはまず近くの国を目指す事にした。
俺が勤めていた王国リンカーンの隣にある国である。
その名はリノンである。
俺たちはリノンに到着した。
リノンには多くの冒険者が闊歩している。
冒険者が多く集まる事から通称で冒険者の国と呼ばれているのだ。
「ここが冒険者の国リノンなのですか?」
「ああ。来た事ないのか?」
「はい。家からあまり出ない生活をしていましたので。世間の物事をあまり知らないのです」
寂しげにサラは言う。
あまり触れない方が良さそうだった。
センシティブな話題に感じられた。
だが察するにサラは家出か何かで出てきたのだと思われる。
女がその身ひとつで手早く稼げる仕事など二つしかない。
冒険者か、売春婦か。どちらもある意味嫌な仕事であった。
それでも冒険者の方がまだ夢があるか。それと同時に大きな危険もあった。
最悪死ぬ可能性もあるのだ。
売春婦も確かに嫌な仕事ではあるが、それでも生命の危険はない。
安定したそれなりの収入にはなり得た。無論若いうちだけの事ではあったが。
そしてサラは冒険者になる事を選んだのであろう。
「そうか。だけど俺も似たようなものだ。ずっと学院に入っていて、宮廷に勤めていたからな。だから俺もあまり世情には聡くはないんだ」
「そうなんですか。ランス先生も」
「っと。ここだ。ここが冒険者ギルドだ。中に入ろう」
冒険者ギルドの看板を見かけた俺達は中に入っていった。
「いらっしゃいませ! 冒険者の国ーーリノンの冒険者ギルドへようこそ」
受付嬢がそう快活な挨拶をする。やはり見た目が重要な仕事だからか、かなりの美人さんだ。
「……なぁ。受付嬢さん。仕事終わったらどこかで食事でも取らない?」
「あー。結構です。予定が入っていますので。ちなみに今年いっぱいは予定が入っております」
「そうなんだ。がっくり」
冒険者と思しき男のアプローチは明確に失敗したようだった。
「あのー」
「はい? なんでしょう?」
「冒険者になりたいんですけど」
「冒険者登録は初めてですか?」
「はい。初めてです」
「でしたらまずは冒険者測定を受けてもらいます」
「冒険者測定?」
「はい。魔晶石でレベルと職業、それから所持しているスキルや魔法などを調べるんです。モンスターにかける解析(アナライズ)の魔法があるでしょう。それを人間相手にかける感じです。やはり冒険者ギルドですから。身の丈にあってない仕事を割り振ったりすると危険でうすし、やたらに失敗されたりするとギルド側といても手間が多いですから」
「はぁ……そうですか。魔晶石でどのように測定するんですか? 俺はどうすればいいのです?」
「何もしなくていいです。この魔晶石で測定できますので」
「そうですか。じゃあ俺は何もせずぼーっと立っていればいいんですね?」
「はい。その通りです。では測定しますね。測定スタートです」
受付嬢の持っている魔晶石が測定を始める。
紫色の怪しい光を放ち始めた。
しばらく光は俺を照らした後修まる。
「測定結果が出ました。……うそっ! ありませんっ! こんなステータス見た事がありません! 魔晶石が壊れたに決まってます!」
受付嬢は慌て始めた。
「……何かあったんですか?」
俺は聞く。
「……い、いえ。ちょっとかなりあり得ないステータス画面だったので。魔晶石の故障じゃないかと。隣の女性をはからせて貰ってもいいですか?」
「はい。構いませんが」
俺と同じようにサラも測定を受ける。
「サラ・ユグドレシア。性別♀。年齢15歳。職業召喚士LV1。保有魔法、召喚魔法初級……あなたは見習いの冒険者で合っていますか?」
「は、はい。合っています」
「そんなっ! だったらやっぱり魔晶石の故障じゃないんだ!」
「受付嬢さん、さっきから何をそんなに慌てているんですか?」
「ランスさん……今からあなたのステータスをこの魔晶石で投影させます」
「はい」
俺の目の前にステータス画面が映る。
ランス・テスタロッサ。性別♂。年齢20歳。職業召喚士LV100。保有魔法、マスター召喚。
「それがどうかしたんですか?」
「それがどうかしたかじゃありません! 私が見てきた冒険者の中で最も高いLVの方でも職業LVは50がせいぜいだったんですよ! 職業LV100なんて聞いた事ありません! 今生きている人間の中ではいないかもしれません! 2000年前に魔王と戦ったとされる勇者がもしかしたらLV100だったかもしれないと言われていますけど、そんなの伝説中の伝説で本当にいたのかもわかりません!」
「すごいですっ! ランス先生ってやっぱりすごい方なんですねっ!」
サラは目を輝かせていた。無邪気な子供のように。
「それでこのマスター召喚って保有魔法は何なんですか?」
「全ての召喚獣を使役する事ができます! 強力な召喚獣ほど手なづける事が大変で手を焼くんですが、ランスさんの場合、無条件で手なづける事ができるんです!」
「へぇー。そうだったんですか。確かに今まで俺が使役してきた召喚獣で反抗的な態度をしてきたやつはいませんね」
「それはあなたがLV100の召喚士だからです! 普通はある程度強力な召喚獣を呼び出せば使役するのに苦労するんです」
「すごいですっ! ランス先生っ!」
「あまり持ち上げるなよ。照れるから」
「これだけのLVの持ち主だったら冒険者ランクは最上位のSランクでスタートで問題ないと思います。すぐに冒険者プレートを発行しますのでしばらくお待ちください」
「冒険者プレート?」
「冒険者としての身分証みたいなものです。ランクによって受注できるクエストが変わったり、扱いが変わったりするんです」
「サラも持ってるのか?」
「はい。私も持っています」
そう言ってサラは銅(ブロンズ)で出来たプレートを差し出す。冒険者ランクはFランクになっている。
「出来ました!」
「はやっ。早いですね!」
俺は仕事の早さに驚いた。一瞬で出てきた。
「Sランクの冒険者を待たせるわけにはいきません! これをどうぞっ!」
受付嬢さんは俺に冒険者プレートを渡した。光り輝いている。
「Aランク冒険者のカラーはゴールド。Sランク冒険者のカラーはプラチナなんです!」
「なんだって! Sランク冒険者が誕生したのか!」
「マジか!」
「この冒険者の国リノンでも五人もいないっていうのに」
「ものすげぇ奴が出たもんだ。職業は召喚士らしいぜ」
随分と騒がしくなった。あまり目立ちたくなかったが。
「冒険クエストを受注したい場合は私にお声かけください。私は受付嬢をこのギルドでやっているメアリーと申します」
「はあ。メアリーさん。よろしくお願いします」
「それでランスさん……お隣の女性は恋人ですか?」
「えっええっ! ふぁあっ!」
サラは顔を真っ赤にして慌てた。
「ち、違いますっ! 私と先生はまだそんな関係じゃっ!」
『まだ』とはいったいどういう事か。まあ今はそのことに言及している場合ではない。
「俺とサラは一応は師弟関係です。俺はサラに召喚士として手ほどきをしてく約束になっています」
「なんだ。よかった。恋人ではなかったんですか。恋人だったら一夫一妻制にこだわりがないかお聞きするところでした」
受付嬢メアリーは胸をなで下ろす。
「ランスさん、よろしかったら今晩一緒にお食事どうですか? あなたの事を私、もっと知りたいんです?」
「でもさっきの男の人に今年中はスケジュールが埋まっているって」
「ついさっき、今年のスケジュールが全空きになっちゃったんですよ」
メアリーさんは身体をくねらせた。
「ひ、ひでぇっ! 俺があんなに誘っても靡かなかったメアリーちゃんが一瞬で落ちやがった」
先ほど誘っていた冒険者が嘆く。
「ははっ。お言葉はありがたいですが、今日はサラと一緒に食事を取る予定ですので。失礼します」
「ま、待って! 明日でも明後日でも良いの! どうか私と一緒に食事を」
俺達は冒険者ギルドを後にした。
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