第2話 香織の想い

 最近、好きな人ができた。


 その人は、普段は明るくて活発でかっこいいのに、時折見せる笑顔が可愛い。そのギャップがすごく良い。


 少し前、わたしに好きな人がいることが親友の優夏にばれそうになった。別にばれても良いんだけど、自分だけばれるって何か嫌だ。優夏は自分のことはなかなか話さないくせに、こっちにはいろいろ聞いてくる。ちょっとずるい。


「……り、香織。何ぼーっとしてんのさ。考え事?」

「うん、ちょっとね。この前太ってきたって言ったでしょ。低カロリーで健康に良いお菓子ってどうしたら作れるかなーって」


 心の内を隠すようにとっさに嘘をついた。でも体重を気にしているのは本当。


「豆腐とか良いって聞くよね。でもさ、香織の場合、栄養が全部おっぱいに行っちゃうでしょ。少し分けてほしいくらい」


 優夏の視線が下へと移動する。まったくもう。


「もー。わたしからすれば優夏のほうが羨ましいよ。引き締まっててすらっとしてるから」

「ありがと。結局どっちもないものねだりってことだねー」

「そうだね。そういえば、この前のお菓子おいしかった?」

「うん、すっごくおいしかった! 香織のお菓子でお店開けるんじゃない? あ、でも私はもうちょっとココアパウダーが多いほうが良かったかな。って図々しいね。それとさ、なんで私に味の感想を聞くの? 私じゃなくて好きな人に直接聞けばいいんじゃない?」


 優夏がニヤニヤしながら言う。


「だからそんなのじゃないってば。ココアパウダーね。わかった」

「それにしても、香織の彼氏になる人は幸せだろうね。香織は可愛いし、お菓子もおいしいし、おっぱい大きいし」

「最後は余計でしょ」

「余計じゃないよ。むしろ最重要事項でしょ」


優夏は笑っているけど、その表情はどこか寂しそうだった。


「なにそれ。逆にさ、優夏はどうなの? 好きな人いないの?」

「えっ? い、いやいないよ。私ってそんなキャラじゃないでしょ」


 優夏の目がちょっと泳ぐ。おっと? これはもしかして?


「そうかなー。実は居たりするんじゃないの? 恋バナには興味津々みたいだし?」

「もしかして、さっきの話気にしてたの?」

「別にー」

「ごめんってば」

「なんてね。怒ってないよ」

「え? 怒ってないの? よかったぁ」


 優夏に笑顔が戻る。優夏は可愛い。笑うともっと可愛い。


「次のお菓子も楽しみにしててね」

「うん。期待してるよ」


 こうやって優夏と他愛のない話をするのが結構好きだ。親友と些細なことで笑い合えるのって素敵なことだと思う。もし彼氏ができたらこんな日々も少なくなってしまうのかな。

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