08 キャラバン・てらりらり…
俺は今、少しばかり反省の時間に心を割いている。
具体的には足が痺れるタイプの正座にて。
何時、己の命を狙う刺客が転移で現れるかもな危険な状況で何を暢気な……と窘められる状況とも言うが、そこは場所が馬車内の安全地帯なので大丈夫。
なんの茶番だって話である。
まぁ気分だけでも反省のつもりなのは、半日前のちょっとしたヤンチャで旅の行程に洒落にならん遅延を招いてしまったための自戒の意識でだ。
まぁこの場で傍若無人をやれるだけの地力があるんで、下手な自重は無意味どころか害悪ってパターンもあるのだが、俺の場合は少し気を緩ますと、それが巡り巡って数倍の面倒になって帰ってくる実例が多いので……必要以上に外面と体面を気にする癖をつけているのだ。
具体例筆頭――この世界の主要キャラが避けても狙い撃ちしてきての強制エンカウントとかなっ!
とは言え、今回などその遭遇性が欠片も無さげな状況なので、無意識にかその自戒の精神が緩んでいたらしい。
ついつい、状況にノッて魔法の創造とかやっちまった悪ノリの一幕だった。
ただ幸いなのは、今回周囲を恐慌させた原因が自然災害か魔物だと誤認させれる状況だったこと。なので緊急避難先に用意された野営地にて、俺も粛々と、馬車に籠ってあの局地的過ぎる天変地異に怯えている風を装えば……まぁ、キャラバンの連中に俺が原因だという真実を勘ぐらせる意識を持たせないくらいの心理工作は可能かなと思ってるわけだ。
「――ということで、そろそろ現場の転移魔方陣の調査報告を致しましてもよろしいですか?」
「ああうん、頼む」
「それでは……」
襲撃現場から全力で退避したキャラバンが避難場所に落ち着いてから、メイド隊の一部が惨状と化した現場の調査にと引き返し、今さっきそのデータをもって帰ってきていた。
で、現場を〝惨状〟と評したように、どうやら意外にも俺の魔法の影響はあの周辺部に広く大きく被害を与えていたらしい。
「現場は小規模の森林地帯でしたが、大地と木の根の繋がりが密だったため隆起した場所の影響が地表面へと連鎖し、魔方陣の原型も判別不能なレベルで破壊されていたのを確認しました」
8つの転移魔方陣は、どれも描かれた大地ごと崩れたせいで判別不能とのこと。
これで転移先の魔方陣との接続は切れたはずだが、それ故に逆探知も不能という結論となる。
「また死亡した魔物、アザービーストらの死体が部分的に魔素崩壊し半壊しているのを確認。これは地上の魔物とは違う変化でして、類似する例としては――」
「そりゃあ、なんとまぁ」
この世界において死亡後魔素崩壊する魔物の特徴は有名だ。
なんせダンジョン産の魔物ぐらいしか、そんな生態はしてないのだから。
「場所は未確定でも、転移先はダンジョン内の可能性が高いってわけか。」
しかしダンジョンの魔物は基本的に地上には出てこない。
空間的な性質の違いから、通常の魔物は地上に出たとたん肉体の維持を保てず魔素の塵と化して崩壊死する――とのこと。
このあたりの知識は俺も聞きかじりのもので、前にダンジョンに入った時には実例を見れなかったので真実は知らん。
「魔物は崩壊しましたが、その速度からすると純粋なダンジョン産とも言い難く、おそらくは交配種ではないかと」
ここからはメイドの補間知識。
ダンジョン産の魔物に関しては俺が学んだことが正解なのだが、受肉し地上で生きている魔物と同種に属す魔物との交配混血による交雑種が条件次第では誕生するのだとか。
その条件が、両種が自然に巡り会う環境である〝フィールド型・ダンジョン〟であり、転移魔方陣のある場所かもしれない推測地となる。
「なぁ……俺、ずっごく嫌な想像したんだが」
「わたしもです」
ここから一番近い野生種の魔物が多くいる場所となれば、それはこれから向かう先の魔の森しかない。
フィールド型ダンジョンの特徴として最悪なのは、ダンジョンゲートのような分かりやすい境界が存在せず、また両方の空間が混じり合ったような領域すらもあることだ。
正に今回のようなアザービーストの繁殖地として最良の環境といえるわけだ。
「つまり〝ヌエ型〟みたいなのはこっちの野生動物か四足型の天然魔物と交雑した可能性もあるのか」
「もしあの転移魔方陣に、先方から意図的に移動させたと仮定するならば……」
「そりゃもう、魔物の養殖すらやってるな話だな」
前世知識においても家畜意外の、猛獣の養殖は実は結構盛んだった。
レッドデータアニマルの保護をうたい組織的に活動する団体しかり、ブルジョア層向けにブリーダーとしてやってる個人業者しかり。
そして善意の元の活動があれば悪意の元のものあるわけで、生体兵器の一環で増やされるものも結構な数があったりしたなぁ。
「だが事情を知らなげなキャラバンごと襲わせたと思うと、少し引っかかるな」
今回の一行にはエチゴヤールの商会長もいる。
王都での調査では指揮系統が複数あるっぽい節もあるが、表の看板を俺諸共潰すなんて潔過ぎる決断をしてるかは、正直疑問だ。
しかも商会長、マジで襲撃の流れを知らなそうだし。
ちなみに、彼は今、本気で怯えて自分の馬車に籠っていたり。
「あの怯えはウザイン様の魔法が原因とも……」
「だまらっしゃい」
過酷な大自然の驚異を覚悟し未踏の大地へ歩む金の亡者達――行商人がちょっと竜巻に巻かれて偏西風高度に舞ったり、砂漠で突然洪水に流されたり、何気ない原野の一歩先が間欠泉の噴射口で煮揚げられたりなんかは日常茶飯事。
このくらいの天変地異モドキな災難で覚悟が挫けるなど、
「ウザイン様……もう、それくらいに」
「ああうん、ちょい理論武装に熱くなった」
因みに、例にあげた三つのうち、後ろ二つは稀によくある実例なんで皆も気をつけるように、だよ。
誰に対する警告だよな話だが、一応は告げないと嘘と思われ訴訟の流れなどの危険があるため、念のため。理論武装~理論武装。
――で、さてと。
現状、一行の精神的な問題でキャラバンが膠着状態なのは致し方なしとして。
それがどのくらいの時間で復帰するかも、現時点では見込めもしない。
「このまま付き合って暇を潰すのも無意味だし、とりあえずは予定ルート上の隠されて敷設してある転移魔方陣の発見を再度チェックさせるしかないか」
誰がチェックといえばアルミラージ共しかいないわけだが。
「街道付近ではなく、その奥もとなると探知精度は下がりますね」
「しかたないな。俺が動くとまた余計な問題が増えそうだし」
「私共も、ここまで隠蔽処置されたモノとなると容易に見つけれる確証はありません、ね」
ホントにまぁ、我ながら結構チートに属すバケモノと化した自覚はあるが、世間にはそれでも対抗しきれん強者もいるのだな、と改めて感じる。
というか、組織力をもつ敵対者ってのは本当に面倒くさい相手だよなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます