06 キャラバン・エンカウント

 エチゴヤール・キャラバンの移動再開。次なる目的地は移動に三日を費やし領も跨ぎ、カザンミュード男爵の領都となるオンドリンとなる。

 人口は約2万人。如何に男爵領とはいえ、さすがに領都ともなれば立派に大都市として機能しているらしい。


 ――反面、地理的には確実に僻地なので、都市より小規模の町が無く一気に開拓村に近い小規模集落の村々が領内に点在するのみという歪さらしいが。


 予定では普段とは違うルートでな話であるのに領都を経由するのも、此処を外したら行商そのものの意味が無いとの決断とのこと。

 そりゃまぁ、客商売のための行程なのに客の居ないルートを選ぶなんてのは愚行以外の何物でもないから納得しかない。


 そして、想定していたルート変更の話もここで来た。

 本当ならこの領都が往路の終点だったのだが、今回はそこを往復路の中継点としカザンミュード男爵領のさらに奥地の開拓村二か所が変則的に往復折り返しの起点にするのだとか。

 どうやらエチゴヤールの前回のキャラバンにタイミングの合わなかった場所のようで、確実に資材不足との予想がつくのでな選択だそう。


 またこの時期、その方面から取れる辺境素材は王都での転売で儲けやすい商材とのことで、産地まで近いなら格安で数を仕入れれるかもの皮算用も働いてるらしい――


 ――と、そんな事前説明を出立前に聞き、今は再び馬車に揺られての途上となる。


「さて、予定変更の裏付けはとれたか?」

「おおよそに付いては、特に欺瞞な内容はございませんでした」


 このキャラバンにおいてメイドの盗聴能力は絶対だ。

 分不相応な魔力的防衛措置は持っていたとしても逆に此方に気取られぬよう秘しているのか、エチゴヤールの商談内容はこちらの盗み聞きし放題だったと言っていい。

 エチゴヤールがヨンガムの町経由で仕入れた地元情勢はそのまま俺の知る事となり、その内容に然程誤差は無いのも確認ずみの内容なわけだ。


「カザンミュード男爵領はヒヨンミリス男爵領のような職人特区を作るような奇策はとらず、典型的な地方貴族のスタイルで自領を運用しています。ただ支配圏の一部に〝魔の森〟を組み込んでおりまして、ここ40年来は森の開拓に奮闘しつつもその成果はマイナス続き継続中でございます」


 ウチの領地でも接している魔の森。地理的にはカザンミュード男爵領の方がはるかに内地なのだが、過去のこの領地の担当貴族は余さず無能だったのか周囲の貴族が大同小異に森の開拓を進めるのに対し、逆に浸食されるような感じで管理する領域を狭めているのが実態だったりする。


 ……というか、極論、コイツの無能のせいでウチの拡大する管理領地の飛び地状況が生まれていると言ってもいい。


 そしてキャラバン往路の目的地は、そんな魔の森に食い込む開拓村の一つなのだから、これを機会に現地の実態をよーっく確認したい気分な俺である。


「って言うか、これもう、確実にそこが襲撃予定地ですって言ってるよな?」

「まだ先行中のアルミラージが現場に到着してませんから断言は憚れますが、おそらくは」


 さすがは魔の森と言うべきか、街道付近の魔物をパンパンと処理し続けているアルミラージにしても、森林域で遭遇する魔物の対応には苦慮中らしい。


 むしろ、そんな中で村を維持しているその集落の連中は、たぶん戦闘民族度にしてもウチの実家と遜色無いんじゃないだろうか?


 というか、そんな魔境にキャラバンを無事に移動できる算段はあるのか?


「露払いっていうか、エチゴヤールの暗部の転移先が其処なんかねぇ……」

「さて、アルミラージ経由での地上の難易度に関しては、ナリキンバーグ領のソレと大差ない難易度と伝わってきておりますね」

「そうかぁ…………ん? アルミラージ共ってもうウチの地元にまで活動範囲広げているのか?」

「はい、街道沿いに繁殖ルートと営巣コロニー群を確立し、つい先日からは我が領の魔の森の境界砦周辺に巣を構え拡大中です。しかし森林域は密集する木々のせいで射線が遮られる事から、街道近辺より活動戦果は捗らないとか」


 ああうん、なんか納得はしたくないが納得できてしまう状況報告をありがとう。


「現在は原生林の絡み合う根本をバリケードとし、その下を這うよう塹壕を敷設し、効率良く死角から敵を射殺可能とするための陣地構築に従事しております。大規模な戦果はそれ以降、おおよそ来年の春からを予定しているとか」


 なんだろう、とても角のあるウサギの魔物がやってる行為には聞こえない。

 まるで、どこぞの精鋭揃いの軍事部隊の進捗報告のようダ。


 ともあれ、そんな頼りがいのあるレンジャーなアルミラージ部隊が先行していることにより、現状のキャラバンの行程は順調すぎるくらいに順調に進んでいる。

 今回の移動は三日間を予定しているので野営時の危険は増している流れなのだが……さて、果たして待ち望む襲撃イベントはあるのやら?


「潜伏を予想していたエチゴヤールの戦闘部隊の痕跡が無いのが懸念事項です」

「そうだなぁ。これがアルミラージと衝突したってんならまだ解る話なんだが……」

「一応、徒歩一日ほど先の地点で転移魔方陣らしき痕跡は発見しましたので確認中ですが、そちらは何かの小競り合いで破壊されていたとの一報は届いております」

「小競り合いか。エチゴヤールとウチじゃない勢力との戦闘と観ていいのかな?」

「はい。アルミラージが発見したのは痕跡のみと。また残る血痕も少量でしたので致命傷の可能性は低く、そう深刻な被害は出ていないだろうとも」


 もしくは派手な戦闘も無く一方的な蹂躙で一掃されたか?

 まあ野生の環境じゃアルミラージの方が観察能力は高そうだし、俺の勝手な想像よりは信憑性はあるだろうと思っておく。


「想定内……とは言いにくいが状況的にはキナ臭くなってきたな……と。ここで反応も出たっぽいな」

「……こちらも確認しました。どうやらこの街道周辺にも偽装処置込みの転移魔方陣が設置してあったようです」


 今使っている街道は作りが古く整備も中途半端だが、馬車が三列横並びできる幅があり、なにより路肩も含め頑丈な石畳製だ。永年に渡り重い荷馬車が走っていたであろが轍の歪みも微々たるもので、直下から石畳を割っての襲撃性は皆無と言える。また路肩にはガードレールに似た柵もあり、街道横の物陰から不意打ちでの被害を受け難いので、防衛手段があるなら十分に用意するだけの余裕はとれる仕様となっている。


 もっとも、相手に弓や魔術の遠距離攻撃の手段があるなら、それらは向こうにも都合の良い地形とも呼べるわけだが。


 それ以前にまぁ、こちらの戦力は俺とメイドの二名態勢と舐めプ過ぎた構成なのだが。


 だがしかし、下手に味方が多いよりこちらの方が行動の自由度が高いのも確かなので、戦闘面に関しては世間体を気にしない方向で覚悟済みな俺なのである。


「MAPに出た敵性反応は8。魔力的な反応も同じく8……って、あれ、エチゴヤール側に敵性反応が出てない……だと?」

「キャラバンの戦闘要員は冒険者ギルドによる護衛とした外部要因でございます」


 なるほど。となるとキャラバン関係のスタッフは今回の襲撃茶番の事情は知らんNPC扱いと観ていいのか。

 ああでも、相変わらずエチゴヤール商会長自身の俺への敵意は真っ赤っ赤のままだけど。

 それはもう、どんな外面対応時でも変化が無いので今はもうカウントすらしてない対象な感じでだ。


 因みにこのNPC呼びしたスタッフたちのMAP反応は俺判断で〝普通の人〟のような感情の動きでしかない。喜怒哀楽、その場に応じて一般人としての変化の範疇で収まっている。

 今は周辺が不穏になってきた状況に警戒か怯えの色の反応に染まっているな。ただ危険な状況への対処は慣れているのだろう、各々身の安全を取る流れで馬車の中に集まっていく様子が確認できた。


「俺のこの観察機能まで察してての演技としたら一級品の欺瞞だろうけど、さすがにそれは無いだろうなあ」

「はい、これでキャラバン関係の危険人物の把握は済んだものかと」


 場違いな感想を言い合いつつも、俺とメイドも戦闘準備だ。

 俺は馬車の屋根に上がり高い位置から状況を確認、兼用で魔術による迎撃準備。

 敵の遠距離攻撃で狙われやすくもあるが、正直、今の俺を狙撃できるような奴なら逆に会ってみたいと自惚れれる程度には自衛可能だ。

 また前回の転移ゼロ距離襲撃対策でもあるのだな。なんせ馬車の屋根上は足場が広くない。俺が陣取れば襲撃側はほぼ宙に浮きつつ攻めるしかないのだから必然的に俺が有利という話である。さらには――


〝ぞろぞろぞろぞろぞろ……〟


 馬車籠の中から連なって登場した同じ容姿のメイド隊8名。

 何時ものようにアルミラージは随伴させていないが、やや懐かしいタワーシールドを手にした鉄壁仕様で馬車の周囲を囲む姿は、同じく防衛対応を始めていた冒険者たちを軽く引かせる圧がある。


 因みに今回の武装は片手持ちのメイスの先端に三鎖とトゲ付き鉄球をぶら下げた三ツ星モーニングスターである。


 メイド曰く、一動作で広範囲に短鞭効果付きの打撃が振れれて、矢を払い落したり殴打に連撃属性を追加したりと便利な逸品なのだとか。


 その細腕で総鉄製の塊を苦も無く振り回せ続けれるのは〝なぁぜなぁぜ?〟とか聞くのは野暮と言うものだ。

 ウチのメイドは特別製。

 何処と比較しての特別だって疑問は、もっと御法度の禁忌と知れ……だ。




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