02 査察でGO
エチゴヤール行商キャラバン。
コッパー王国近郊の町や村を定期的に回り、主に各地域の生活物資の不足品を補間していくタイプの中規模交易商の一つになる。
俺の感覚で言えば、全国展開ではなく、西日本や東日本の一部地域に数県跨ぎの小規模のチェーン展開をしているスーパー業界のようなものか。各支店に置く品は本店で調達管理し、定期的に現地へと配送し長期的な運用をしている感じだ。
エチゴヤールの場合も、そうした絶えない需要があるならば各地域に支店を置いた方が供給量の母数も増えて商会の規模の拡大が可能と思うのだが……どうやらその規模を維持するだけの資本力が足りないようで、現在のような形に収まっている……というのが、ウチの表の調査部が仕入れたエチゴヤール商会の概要になる。
――が、そこに裏の調査の内容を追加するとだ。
行商らよる定期的な交易品の補充という形で、基本閉鎖的な小社会を築きやすい地方の町や村へと〝余所者〟の出入りを許容しやすい環境の下地づくり。
その過程で、キャラバンの護衛役に多少粗野で荒くれ者が募っていたとしても、〝護衛役〟なのだから〝居ても当然〟という意識を植え付けれる。
それらはまぁ、この世界なら冒険者の仕事としてのそもそもの認知があるが……それがいつの間にかキャラバン専門の私兵と化していても錯覚するような状況を築いている、な実態になっている――となる。
各地に支店を置き、キャラバンが大規模化すれば一時的には移動人員が増えても違和感は無いが、逆に言えば常時それだけの交通量ともあれば街道自体の安全性が増し、〝護衛役の数は逆に減らしていくのが普通〟となる。
エチゴヤールとしては、その状態は好ましくない……と、現状の規模に抑えている感じの営業実態なのだろう。
「ぶっちゃけ、このキャラバンの活動範囲って、王都周辺の防衛警戒網に隙間作って敵兵が強硬偵察しやすいルートを作ってるだけだよな」
「はい、おそらくは。基本ルートも国境から数か所、下位貴族の監視の緩い領内僻地を縫うようにも設定されていますが、それでも衆人下では小規模の武装隊の移動がせいぜい。とても首都攻め可能な人員の移動に適したルートとは言えません」
今回の査察行は、名目的には〝同行〟と銘打っていても、その実態がウチから下請け会社への〝査察〟であることは暗黙の了解だ。
真実はもっと深淵を探る断罪の儀式でもあるのだが……首を落とされる側にソレを感づかせるようなヘマは無い。
ともかく、エチゴヤールにしても自らの腹を探られているくらいの自覚はあるのだが、今回はその意識の裏をかいてウチが多少露骨な調査行為をしてても、向こうは秘密は守れていると思わせている体で状況を進めていた。
なので現時点では、俺という存在は〝創業者の息子の立場にあぐらをかいた無能なガキ〟の印象を強く持たせたままこのキャラバンに同行している。
横柄で尊大で無能な成金貴族のガキなので、回りの空気を読まない態度も〝自然であり〟、豪華さ満載、派手派手しぃ成金仕様の専用馬車でキャラバンの最後尾を悠然と進むのも、〝至極自然〟というわけである。
まぁ、実態は。
この馬車も、正体は我が家自慢の戦時用装甲戦車化している代物なんだが。
少なくとも、街道付近に現れる賊や魔物が脅威にならん程度の性能は実証済みの物になる。
またこの戦車は通常の馬車に偽装する都合上、露出している〝馬の仕様〟にも拘った。
簡潔に言えば、馬車を引く馬四頭は生の馬ではなく馬型のゴーレムなのだ。
しかも華美華美しく馬用の甲冑に偽装した、総鋼鉄製のロボロボしくもしてある逸品だ。
機能においてもリアルタイプな〝トロイの木馬〟のようなもんで、ある意味、この戦車化した装甲馬車のメインウェポンと呼んでもいい立場になる。
馬という存在価値においては質実剛健な我が領の軍馬には負けるが、兵器といった視点でみれば、おそらくはこの世界に革命を起こす新商品であろうと自負する俺だ。
あ~、早くエチゴヤール謹製・盗賊ロールプレイの獲物共が来ないかなぁと、少し期待している俺であった。
「ウザイン様」
「おっと、つい趣味に意識が」
メイドから受け取った調査レポートがネットニュースが如くリアルタイム更新するのを幸いに、俺は馬車で移動中ながらも変化する周囲状況のデータを精査できる。
俺自身にしても、自前の探知能力があるので状況の変化への対応力は高いと思うのだが……さすがにこれから進む予定のルート全域に配備済みのメイドネットワークには敵わない。
ただそれを逐一口頭で説明されても絶対把握は無理なので、一手間はかけるが即興台本の書き換えな感じで、都度メイドにレポートの形で渡してもらっているのが……今ココの状況。
数秒前に書かれた内容を確認し、進行ルートの些細な変化を確認。
現時点でのキャラバンは、まだ王都より馬車で半日程度の位置なので特に襲撃の〝予定〟は入っていない。
想定外は魔物の登場だが、メイドの事前配備に合わせチャカの眷属らの散布もしたのか……時折キャラバン前方で〝パンパン〟と聞きなれた迎撃音が届いて来るから安全性は太鼓判を押す感じだろうと認知する。
「いや、つーか初見っぽいキャラバンの方は要らん警戒心にピリついてるか?」
「数日もすれば慣れると思われます」
「……だといいなぁ」
と言うか、少しは警戒網にも穴が欲しい……と思うのは贅沢だろうか。
だって、でないと俺の馬の活躍が何時まで経っても観れそうにないし。
「ああ、これがいわゆる、馬主の心境というやつなんかなぁ」
「はい?」
「……いや、なんでもない」
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