22 余剰案件持ち帰り
怒号一喝。
乱入と同時に放った、図らずも怒りの魔力が良い感じに乗った俺の雄叫びは、まるで少年マンガ系の気功系砲撃の如く作用し、孤児院の薄い壁を貫通しメイウィンドに直撃。当人は不意打ち効果もあり、ちょっと美少女系のキャラが出しちゃ拙かろう悲鳴とギャグッ気満載の奇態で吹き飛び部屋の反対側の壁へと貼り付いた後に、ベチャリと床に転がった。
どうやらそのまま気絶もしたようで、とりあえずは制圧完了だ。
因みに、孤児院のシスターらしき大人三名、その他の子供らの内半数程は突然の状況にただ呆然。もう半数に子供らは単純にメイウィンドの奇態が笑いのツボに入ったのだろう、ケタケタと失神中の彼女を指差し笑っている。
――うん、純真無垢の子供ってば大人視線で時々とっても残酷な態度をとるよね――的なやつである。
俺も乳児時代の愛娘にやられた時は絶望で悶死しそうなくらいに絶望したから、よく解る。
そして茫然自失から立ち直ったシスター達が正気を取り戻し怒りの表情を浮かべ俺を凝視し……直ぐに顔面蒼白と化したので、その後の状況鎮圧への面倒事は無く無事に終わった。
――まぁ、なんだ。
例の紙芝居、話の内容はともかく絵的な出来で言えば精密と呼べるくらいによく出来ていた。今の今まで悪の権化として出演していた人物の〝現物〟が登場したとなりゃあ、察するくらいの頭はあるだろうな話である。
そうして……十数分後。
俺とシスター達、プラス簀巻きにまとめたメイウィンドは別室に場所を移し事の詳細を確認しようという状況だ。
「ええと、ナリキンバーグ様。私共は孤児院の修繕と子供達の世話に――」
「そちらはウチの手勢が対応しますので。今は海竜神殿の責任者として、当家への対応の説明を、詳細に、お話願いたいものです――ねっ」
「はっ、はいっ」
責任を失神中のメイウィンドに押付け露骨に逃げようとしたシスター勢であるが、逃がさん。
そして俺の言葉通りに、子供らは菓子と遊具を手に大量湧きしたメイド隊と愛玩動物の媚び媚び仕様なアルミラージ等によって既に懐柔済みである。
今もキヤッキャッと表の広間で歓声を上げ遊んでいる。
俺が蹴り破った窓の修繕は勿論、ガタの来てそうな箇所も虱潰しに改修の方向だ。成金貴族の成金らしい強引さはこういう時に良く栄える。常識枠の遠慮など絶対に言わせないスタイルである。
そうして、張本人以外の全員からの聞き取りの結果は……まぁ、予想通りというか想定内の範疇というか、根本的にはメイウィンド個人の恨みを悪質な形で展開していたったてものだった。
「まぁ確かに、ウチの方から全神殿に特産をって話はしていたが、反応の薄い海竜神殿は後回しな感じだったんだよな――」
美肌乳液やらマニキュアを元にした神殿の経営と権威上昇となるアイコンアイテム。それを六大神殿それぞれの売りとなるような新アイテムを開発中とは通達してある。
ただ俺の方もちょっとゴタついた状況が起きて、現在保留中となっているのが実情だった。
ただ、同時に各神殿には、俺からのネタの押付けにならないよう〝どういった商品があれば良いか〟のアンケートも求めているのだ。その回答を寄越しているのは残り四神殿のうち一つだけ。また他の二神殿は〝模索中〟と途中報告が来ているのだが……海竜神殿に到っては〝無回答〟な感じに反応が無い。
結果、こうして話を聞いた時点じゃ、俺からの海竜神殿へのサポートは始まってもいないな形になるのである。
「――けどその状況を悪意でねじ曲げ、特定の貴族家の悪評に繋げる行為ってのは、如何に聖女候補としても見過ごせないのと……違うかな?」
「……ええ、全く。その通りでございます」
俺も資産のある者が身銭を切って貧者を救うってのは別に否定しない。
ただ特定の神殿に特定の貴族が全面的な支援を施し、結果その組織を私兵化するのは感心しない。
俺が同じような事を既にしてるじゃんな部分もあるが……まぁ、現状は結果的に公平化しようとしてるので、そこは過ぎた話と割り切る。
そして己の失敗を知る先駆者として、後追いのバカは早急に始末……もとい矯正するのも責任の内として行動したい所存な感じで?
「それにしても、六大神殿がそれぞれ世俗の欲とは無縁で清廉気味な運営姿勢とは感じてたんだが、設備の老朽化や食事の面で、どう見ても貧困が常態化してるのは拙いんじゃないかな? 神殿の収入って基本は神官等の活動の報酬だよね」
「はい。ただ我等が本尊や活動はその名のとおり大陸の端にありまして、内陸地のコッパー王国ではそもそもの活動規模が少ないのです」
「ああ、なるほど」
海竜神殿の名のとおり、その本尊というか主神は海竜となる。
そして信仰の興りは遠い過去の話として消え、何故か現在は〝希少種族の守護神〟という属性で活動してるらしい。
で、エルフなどがその代表で、それ故に他の種族にはエルフの守護神な風聞となったが基本は、魔物以外のレッドデータアニマル系種族の守護者といった感じなのだとか。
そしてまあ、その流れを拡大解釈し〝弱者救済〟、つまり孤児などの保護にも頑張ってるのだが……
「人族は元々数的に多い種族なので、孤児といってもそう注目される対象とは……」
「うん、まぁ、竜やらエルフ視点からすりゃ人はネズミ算式に増えそうって印象だろうしな」
で、それでも現代日本人の前世の記憶付きなメイウィンドにしてみりゃ、地元の孤児院のこの有り様は思う所もあったのだろう。その存在を知ってからは案外と献身的に保護活動をしていたらしい。
――ただし、資金源となるパトロンは親友枠ルミナエラのニルフォクス公爵家だがな。
(ウザイン様、ニルフォクス家の人材登用には此方から〝ある程度〟介入工作を致しております)
(あー、はいはい)
シスターの説明途中にメイドから耳元でそう注釈がつけば、その内容は察せれる。
この世界なりの諜報機関の元締めであるならば、その人材は……さもありなん、であろう。
で、そちらに介入したってんなら、育成機関の一つとなりがちな〝ココ〟に余計な資金が流れないようにもしてんだろう……とか。
「んー……正直、知らなきゃ良かった案件だが知っちまったものなぁ」
と言うわけで、ウチからも寄進という名で多少の資金援助を約束しておく。
聞けば王都・海竜神殿の孤児院はここだけらしいし、ならそう大きな出費にもならないし。
ただ、単に孤児達に施して養うよりは何かしら育成って形にしたいのが本心だ。でないと、高い確率で将来〝自分達は可哀想で養われて当然な意識〟系のモンスターになっちまう。
神殿なのだし、一番の目標は神官への訓練を頑張るのが正道なんだろうが……
「ちなみに、こちらの神官の訓練内容を聞いても?」
「はい――」
ざっくりと聞いた。うん、無いわ。
と言うか豊穣神のとこと同様に、異世界式の意識改革をさせてからじゃないとヤバい七割挫折(人生)の展開な過酷なやつだった。
確かに、肉体的精神的に無理無茶やって存在の限界突破をすればスーパーな野菜っぽく覚醒する流れとは納得もできるんだが、結局は組織というか、その線引きが画一的なんだ。個人個人の限界を確認しないから無茶が祟ってポックリな組も出てしまう。
「……才能開花も弱肉強食といえば……そうなんだがなあ」
確か死亡防止のアイテムは前に神殿組織全体に回すって言っといた気もするんだが、そこら辺、もう一度念押しと確認はしといた方が無難かなと、意識の片隅に置いとくことにする俺だった。
「なんだろうなぁ、一歩歩く毎に面倒な案件が増えてく気がする」
今日の俺の予定は何だったっけ? と思い出すのにも苦労しそうだ。
しかも後湧きの案件のほうが、本題より遙かにヤバいやつばかりとか……
「つーか、一番面倒そうなのが、〝コレ〟だよな」
床の片隅で液体化動物並みのベッタリグッタリと簀巻きで転がる物体を見てため息一つ。
一応は、『コレ、ウチで預かりその後にニルフォクスに返却しますんで』と言付けといての回収になる。
もしルミナエラからの連絡があればそう答えとくよう――メイウィンドの行動も含めて――シスター達には言い含めておいた。
そして馬車を回し、ようやく帰宅の途に。
ただ、しかし――
「うーん、これ、親父様に報告できる案件なんかなー?」
――とまぁ、ならば内容の脚色がどの程度可能かと悩んでるうちに、オカワリのトラブルも無く帰り着いてしまう俺であった。
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