14 ま…眩しい
周りを落ち着かせつつ待機して10分近く。予想に反してお代わりが来る気配もなく、ややぎこちなく業務も再開し、予定より遅れる事とはなったがその日の配送部隊の荷積みの段取りも無事に済んだ。後は翌朝、日の出前に王都を発つまでの待機となる。
また襲撃の騒動を知らない搬入組の商隊も二便ほど到着したが、下手に情報共有してパニックを再発させるのも面倒なので責任者のみ裏に呼んで概要を伝えるに収める。
この責任者たちはうちの領に長年仕える身内だからな、質の悪い荒事にも順応してるので問題は無いんだ。
で、倉庫内の状況が落ち着いたので次の対応に……と思ったんだが、今回到着した商隊の護衛の冒険者たちが少し気になった。
本来ならば王都の外門を潜った時点で護衛依頼は達成となり解散のはずだが、二組とも倉庫前までは護衛を続けたという予定に無い不審な行動をとっていたのだ。
最初これは“覗き屋”かと心配し、俺は影から観察してみるが……どうやらどちらも善人枠の好意としての行動だったらしい。マップからでは敵対心や邪心を窺う反応も無く……というか俺とそう年の変わらない少年少女のパーティだったので、色々と理由は付けても、たぶん好奇心がメインの行動かなと自戒した。
というか、14か15歳で商隊の護衛任務とか、若すぎね? という疑問の念も大きいな。
「……あれ、冒険者の下限年齢って幾つだっけ?」
「最下限となれば五歳程度からでも許可されます。ただ12歳を過ぎるまでは都市内の雑用依頼限定の最下級ランクに固定されますが」
「ああなるほど。孤児対策か」
「はい。神殿系の運営する孤児院もございますが、基本的にただ面倒をみて養うではスラム要員を増やすだけとのことですので」
「神殿はなぁ、基本、神官の養成以外には無頓着みたいだしな」
神官は聖属性の資質が無ければなれない才能職になる。才能無しの孤児がそれでも神殿に属して働きたいとなれば、神殿の雑用係を一生続ける事になる。
才能は無くとも信仰心はあるのだろうから、まぁ、当人としては良い選択なのかもしれない。
で、だ。似たような施設は冒険者ギルドも運営している。
ファンタジーな世界は現代よりも人の命が安い世界。そんな設定はこの世界でも有効で、特に命の危険がある業種では、まるでノルマでもあるのかと言いたいくらいに孤児の発生率が高かった。
で、その業種の筆頭となるのが、いわゆる冒険者というやつだ。冒険者ギルドも長く続けばそういった層を一定数抱えるわけで、身につまされる現実に独自の託児所を運営しているのだ。また流れから孤児が自立するまでの場所にもなり、先程聞いた子供冒険者たちの母体にもなってるわけだ。
「彼等は……俺と同世代っていっても冒険者としてはベテランな感じになるのかな」
「肉体面ではともかく、意識的には冒険者のプロといっても良いでしょう」
「ある意味、その道の英才教育を受けた連中だしな」
あの世代でも商隊の護衛をこなすほどの信用があるなら当然か。
これも一応は徒弟制度というのかな、とも思う。
ただし特定の師匠はおらず、暮らす環境そのものが人生の教育機関ということだ。
俺の意識では偏った教育しか得られない気持ちも強いが、言い方を変えれば凡人でも最低限の専門知識を仕込んだプロに鍛え上げれる場所ともとれる。
「この世界の人材育成は未熟だなって印象だったが……プロの域の人材を常時用意するにはこっちの方が適正なのかも……か」
というか、それ以前に年相応のピュアな反応をマップの証明付きで視せられて大変眩しい。同じ旅を経て商隊とも気心も深まってるのだろう。頼んでもいないのに少年組は荷下ろしまで手伝ってるし。
「なんか心が洗われるのを通り越して直視するのが辛い絵面だ。でも十代中頃って、あんなキラキラした表情が自然に出るのが普通なんだよなぁ……たぶん」
「ウザイン様の場合、背格好だけで言えば既に二十代でも通じる上に、胡乱な表情に到っては初老と言っても過言ではない空気を纏っていますからね……」
「罵詈雑言と断じれないのが非情に悔しい」
しかも
……そういや、前世の時も中一くらいから成長期が始まってモヤシみたいに背が伸びたんだよな……。中学の卒業式と高校の入学式では連チャンで父兄と勘違いされ心に傷を負ったのも良い……とは絶対言えないトラウマだ。
「――――ただウザイン様。彼等の行為も年相応の純真無垢から、とも断じれない内情のようですよ」
「うむ?」
うちの謎メイドが時折テレパスみたいに誰彼の心情を読むのもすっかりと慣れた。
今回の対象は冒険者達と商隊の責任者で、その概要は次の通り。
今回、あの商隊が運んだ荷は近隣の村々を回って集めた革や織布素材のようで、それはやや品質の高い防具類の素材として王都の市場に卸される予定だった。
で、彼等は報酬の一部をその素材の物納にあて、市場にまわるより格安の形で入手できるよう商隊責任者と交渉したらしい。
ああやって依頼外の仕事を手伝っているのも、その差額分を有り難がっての事らしい。
「……あー……、懐事情は年相応の赤貧家計というわけか」
改めて観察してみれば、彼等の防具類はどれも中古の仕立て直しのようで、防具としての機能は損なっていないものの部分的な劣化が露骨に解るものだった。
防具を新調する場合、素材の持ち込みで価格を抑えるのは冒険者としても一般的な生活の知恵の範疇。それを自分で倒せる魔物の素材でコツコツ強化していくか、どうにかして格上の魔物素材で一気に強化するかは当人の将来設計次第になる。
メイドの評価によれば、今回得られる素材で強化すれば、彼等の総合的な実力を数割は引き上げれるボーナスタイムに等しいものらしい。
それが本当なら中々に強かな連中でもある。
ま、気難しいうちの商隊からそれだけの信用を得られた結果ならば、それも正当なる成果なんだろうが。
「俺みたいに貴族の横暴振りかざして荒稼ぎってスタイルに比べると、マジで眩し過ぎで綺麗な連中だなぁ」
「まったくご尤もでございますね」
「……………………」
俺の謙虚な姿勢が尽く無視される件について。
まあ、それはともかく。
世の中これ鏡合わせの万華鏡の如く……とかどっかの格言で聞いた気もするし、善意の周りには善意が集うし悪意の周りには悪意が集うってもんだ。
ならあの細やかな努力をする子等に相応の実りが集うくらいは自然の摂理の内だろう。
「どうせうちから素材を得ても良い職人への伝手も無いだろうし、さり気なくその紹介とかもしといてやればいい。ついでに連中の懐具合に合わせて価格に無理なく色がつくよう口裏合わせておくのが良いかな」
「承りました。手配いたします」
単純に成金攻撃でタダ同然とか経験させたら逆に邪心に染まりそうだしな。
今回はあくまで、偶然の幸運が重なったと思わせといた方が連中には良いだろう。
俺が完全に連中の視界から隠れるのと反対に、メイドが責任者の背後に立って堂々と耳打ちしてるのを“さり気なく”と呼べるかどうかはさておき、俺は今日の本題の方に意識を向ける。
先程からマップ内の反応の変化が止まったのだ。
暗殺組の逃亡者三名。各自分散して追跡を撒こうといった移動であったがマップで丸分かり。それがようやく集合し、とある一点で固まったというわけだ。
そこが暗殺者達のアジトかどうかは、追跡に出たメイドからの報告待ちだが……どんな報告が来ようと直近の危険度の高い対象は早期に無力化が望ましいしな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます