13 次は迎撃
「さてと……第二陣、いや第三陣? とにかく次の連中が動き出したか」
「同様に処置しますか?」
「んー、ちょっと様子を見てからだな。動きを確認したいし」
「了解です」
追跡組の冒険者らを追い払ったのは、うちの倉庫を起点にしての大体100メートル程度離れた位置でだ。行動範囲にバラケがあるのだが、大まかに扇状の範囲で収まっている。
予想では、次の連中はそれを確認の上での行動を取るので、また違う対応が必要かもと思っている。
「因みに追加分は9名。また三組に分かれて動いてるんで、恐らくは三人で一チームって感じだろう」
「では先ず、潜伏しての身元確認を優先いたします」
魔術的な妨害が無ければ、俺のマップ機能は1キロ先の物でも探知内に置けれる。しかし追加組の反応が出たのは300メートル範囲の中だったので、たぶん、普段はこの値域で普通の作業員でもしてる偽装組なんだろう。
また反応が出てもその位置が動くのは一部のみ。その様子から何かしら遠隔の探知能力を持っていて、ずっと此方を監視しての反応だったと見てもいい。
「推定だけど、たぶん最初に捕らえた連中の関係者って線が濃いかな。監視の親玉か中継かは解らんけど。方角と位置を教える。その場所にある倉庫か建物の確認も取りたいな」
「承りました」
「ん、では俺たちは建前の仕事で時間を潰そう」
「はい」
倉庫内にも事務仕事の空間は置いてある。物品の流れを記した帳簿くらい無いと管理できないしな。
それにうちの場合、今さっきみたいな捕り物案件も通常業務のうちらしい。今回はメイド隊が対応したが、普段は倉庫詰めの荒事担当がやる仕事だ。
そして一つ一つの対応を報告されても此方の仕事が嵩張るばかり。結果が無難に終わって面倒が起きてないかぎり、日報や週報の形で報告を受けるのが常だった。
未だ記録途中の内容を見るかぎり、ここ数日の案件は“覗き屋”の体の連中を追い払う形に終始していた。
覗き屋というのは、うちとは部外者な連中が立ち入り禁止の場所に潜り込もうって行動する事全般を指す。俺の意識で言うと“企業スパイ”の初歩の初歩っていったものになる。
偶然通った通行人。配達人。飛び込み営業。従業人と知人になり職場に会いに来た誰某。場合によっちゃ会いに来たのが親戚筋の一人ってこともある。ただし、生まれて初めて会うかもな相手かもだが。
スパイ行為は“視る”だけでも有効なこともある。そこで視た情報を元に、次の有効な手段を取りやすくなるからだ。
ましてや魔術のあるこの世界。その程度のアプローチでも、たぶん現代の盗聴器を仕掛けるが如くの、とっても便利な監視手段もとれるんじゃないのかなー……と、素人考えで想像しておく。
「どれも荷積みの現場を視られてはいないようだし……さすがにキャラバンの出発日の情報までは秘匿できんし。まぁ深刻度は低い内容かな」
「隊商の行動は護衛依頼の発注もありますし、半場公開されてる状況でございます」
「まぁ、仕方無いな」
コッパー王国に登録してる商会は、交易の護衛に冒険者を使う事を推奨している。別に国が勧める話でもないのだが、現在の王国の成り立ちを思えば冒険者出身なガーネシアン公爵家の思惑つきって線が濃厚すぎる。
で、冒険者はギルドが綱紀粛正に頑張っているが元が根無し草出身なのが大半。どうしても腐った性根の人材を内包する怪しげな組織の域を出ない。殺人狂とか性的倒錯者ってのはさすがに少数派だと思うが……まぁ、目先の稼ぎにギルドのモラルを無視する程度の意志の弱さは多数派だなぁと思うわけだ。
そんなわけで、うちの護衛で冒険者を使う場合は重要度の低いものに限っている。またはうちの領兵出身で、冒険者資格を取らせた連中での指定依頼だな。
そんな状況でも護衛の半分はスパイ兼業で来てるんで、世間様はうちの商売にどんだけ興味津々かと頭が痛い事実がある。
「冒険者ギルドからは度々“特定のパーティ”を斡旋したいという話も届きます」
「背後関係は?」
「一応は健全です。将来性有望なパーティに割の良い仕事を回したいようです」
「どこまで信用できる話かは解んないよなぁ……」
身内だから信用は完璧とは言えない。その逆もまた然り。
今の商会のルールは兄貴が……もしかすると親父様も関与して作ったもんだし、いくら決定権が俺にあっても変える必要性も特に無し。
つまりは現時点での変更は無しだな――――っと。
「――お、追加組が動き出したかな?」
マップに反応あり。
先行偵察のつもりなのか、各組から一名づつの計三名が仲間から別れ近づいて来ている。
普通に歩き物陰に身を隠しつつの移動らしい。ただ通りを進むにもルートがジグザグと細かく折れている。どうやら魔術は使わず、スキルか体術系の技能のみでの隠形っぽいな。
「……ん、反応が二つ消えた?」
接近途中の三人のうちの二人が消えた。
敵対反応のみならず存在……いや生命反応自体が消えた感じの変化だな。
「何かしたか?」
「いえ、まだ監視に留め行動は……どうやら転移系の魔術を使ったようで――っ!」
俺はメイド隊の対応かと質問し、その応えを返して来たメイド当人といったその瞬間だ。
俺たちの直ぐ傍に異質の反応が二つ。どちらも絶妙に意識の死角な方向で、どうしても即応の難しい位置にで――!
“キン!”
「……焦ったなっ」
「まったくでございます!」
現状、俺は事務仕事の途中で机を前に着席もしている。帯剣はしたままだが、姿勢的に邪魔にならん感じに位置をずらしてもいて、咄嗟の対応とは言い難いくらいに行動が遅れた。
……それでもまぁ、ペンから剣へと持ち替えてって早さにしては及第点と自負したいもんだったけど。
俺の背後の反応には後方に椅子を蹴り上げつつ立ち上がり、腰の剣の鞘を跳ね上げ剣閃を反らして防いだ。
それで遅れた右後方への反応には、メイドの(何処から出したか?)な銀のトレイが盾代わりとして差し出されて防ぎ、しかも襲撃者自身には反撃のナイフが投げられ、二名とも首から上が妙な向きへと曲がっていたり。
……どうやら、喉元掻っ斬るに留まらず、切っ先が骨まで食い込み頸椎断裂で即死させたらしい。
見た感じ普通の銀食器による行為にゃ見えないが、これ以上無い反撃っぷりである。
「申しわけございません。咄嗟の事で捕獲不可能でございました」
「いや、この場合は仕方が無い」
あまりに突然の事で、まだ周囲の従業員らには襲撃の認識すらないらしい。事務の空間は倉庫内でも視覚的に隔離された場所だしな
ただ、騒動自体は解りやすい変化だったし、続く状況に気づいてからはちょっとしたパニックだ。
「今回はっ、丸々暗殺者だったみたいだなっ!」
「久方ぶりの荒事でございますね」
最初の撃退から間髪無きといった感じに転移による襲撃が続いた。
今度は俺も準備が取れた。抜いた剣で向こうの剣を弾くだけじゃなく斬り返せる。
二人ばかり対処してようやっとマップを確認してみて、後続は待機していた者達が直に転移してきたらしいと辺りをつけれた。向こうの反応が一つ消えると同時に此方に襲撃者が湧いて出たからなっ。
一騒動が済んだ後には俺たちの周りに死体が六体、転がっている。まだ潜伏場所に一名ずつ残っている計算だが反応は……逃走中か。どうやら情報を持ち帰る要員だったらしい。
「逃げた連中の行き先を――」
「――追跡に留め動いております」
俺としてはこれで襲撃が一段落と思っちゃいない。
というか、こうも連続した騒動だ。もう一つか二つ連戦する状況になるだろうと考えるが普通だろう。
「探知できるできないって事も関係無いくらいにヤバいなぁ」
チート能力があっても余裕綽々とは言い難し。
ま、少し心の余裕が取れる分、マシな感じなくらいかな。
「転移の魔術はよく知らんけど、動きからして最初の奴等がスポッターって事だったんかなぁ」
「スポッター……ですか?」
「あー……、観測員……視認等で仲間に正確な転移先の指示を送れる奴ってとこかな」
「なるほど」
正確なとこは解らん。
ただ連中の動きからしてそんな推測を宛ててみただけになる。
「とりあえず死体の回収を……、あ、いや、俺がやるか」
ふと気づいた事もあって全部アイテムボックスへと詰め込んだ。
後は――
「――衛兵に届けると面倒なんで隠蔽の方向で。倉庫内だし証拠はまるっと確保済みだし、難しくもなかろう」
「了解しました」
「そんで、パニックの方も速やかに収めるように。じゃないと偽装の意味が無くなる」
「……承りました」
ガテン系の集まる仕事場とはいえ、都市内でケンカの域を越えた刃傷沙汰は大事らしい。
従業員らはもう露骨に興奮し大騒ぎだ。
なんだかんだ言っても庶民の日常は平和らしい。
俺の中の感性だと……この程度の騒動はちょっとしたイベントくらいにしか感じないんだが。
「やっぱり貴族ってのは業の深い業界なんだなー」
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