30 収束からの放散へ (3)

「あらかじめ言っておきますが、“わーい! ハーレムルートだ!”などとは思わないように」

「おっ、おもってないっ…じょ」


 ヤバい、噛んだ。

 案の定、刺さるような視線が痛い。


 単純に、いきなり嫁なんて話になったから驚いただけだ。

 というか、聖女の誰かを娶れって発想にも驚いたがっ。


 ……だって、聖女だぞ(語彙力崩壊)。

 フラウシア、ライレーネ、リースベル。あとツララの他は……まぁ、概略程度に知るのも含めて……

 …あの聖女だぞ(意味不明)。


 …なんつーか、こう。

 いきなり恋愛対象に見ろって言われても無理…もとい、困惑しかない。


「特異点・ウザイン・ナリキンバーグ。

 私もまだ自尊心のような感情の機能を失ってはいませんが?」

「いや、そういう意味じゃないから!」


 俺の出会った聖女は誰もが個性派揃い。

 そして、その上で全員が個性的な美少女性を持っている。

 で、俺の中では前者の印象が強すぎて、後者に関する意識が薄いというか、何と言うか…まぁ……


「ふむ…良くて庇護欲を掻き立てられる対象…ですか」

「読心の後に朗読は勘弁してつかーさい」


 しかもその対象の一人と対面状態での内容である。

 マジで勘弁してほしい……というか、今まで居たメイドは何処に行った?

 え、ツララと圧迫面接状況でとかヤメテぇ!

 通常顔面が男を…いや他者を虫けら見る感じな視線なんだから。

 責められるっぽい内容でソレって、心に殺鼠剤直噴レベルの毒性だからぁ。


「特異点・ウザイン・ナリキンバーグ……自身にとっては当然の要素なので、説明不足だったと思い至りました。現状の聖女への補足情報を開示します──」

「んん?」


 昴の存在を収束させるための特異点作用。

 それは、彼女たち聖女も含むものだった。

 内容はかなり複雑というか…聞いた俺もちょっと理解が怪しい。


 ──香取詩杏でありトリシアだった彼女は、記憶の復活で自分が家族に会うのではなく、家族を導くのが役目と悟る。

 今回の顛末は、その最終段階でもあるわけだ。

 その時点で、どうも俺の消滅と昴の復活を引き換える手段には消極的だったらしい。

 理由は、メイドが言ったとおりのものだ。

 昴を天涯孤独で放り出せるほど、この世界が優しいものとは欠片も考えてなかったわけだ。

 だから、彼女の中にあった青春…の想い出なんかが採用された。

 書いた当時は未完に終わった内容を、擬似的にでも成立させようとした。

 正に、運命の出会い的な演出まで…加えて。


 この世界に昴が収束可能になった時点で、同時に俺も生じる。

 またそれと同じタイミングで、各神殿勢力の目の届く中に、香取詩杏の素養を濃くした個性の伴侶も生じる。

 それなりに広い世界で運命の二人がめぐり会う……というのはさすがに難易度が高いのか、トリシアの使い魔な六柱の神が六人を選出し保護する形だ、


 ツララが自分を指して“自分の中の香取詩杏”と何度も言ってたのは、そういうこと。

 ただし、保護の形が聖女となった時点で、俺やルミナエラの意識も作用し、俺やルミナエラが望んだ者たちの個性の摸倣も含むことになる。

 ルミナエラが生徒たちと呼ぶ少女ら。

 俺なら…昴がその対象だ。


 その状態が固定するのは、大きく二つの要素が重なった時。

 神殿勢力内の俺と年の近い少女が聖女認定を受けた状況で、俺か、ルミナエラと対面した時。


 フラウシアは…おそらく、俺に対面した時に詩杏さんの要素が固定した。

 今にして思えば、俺は彼女の第一印象に昴の何かを感じたようにも思える。

 ライレーネはルミナエラと同じ場所に暮らして居たので、何処かで会う機会は合ったのかもしれない。

 ツララやメイウィンドは、ルミナエラが積極的に探した成果というから、会うべくして会ったということだろう。

 唯一、解らないのはリースベルだが……

 そこは便利なツララ補足だ。


 なんでも、リースベルは俺が自領で最初の魔物退治をした時に会ってたらしい。

 魔物から救出した難民キャンプ。現地で炊き出しやった時の誰か。

 俺は向こうを認識してなかったが、リースベルは俺を見ていたってパターンだ。


 ……つまり、リースベルはフラウとお互い知らずの同郷だったってことだなぁ…。


 リースベルの属す難民グループはその後、戦神神殿の勢力地に移動し……後は再会までしばしの別れと。

 以上、ツララによるカルキノス検索の結果。


 俺的に最大の謎は、ルミナエラ本人に関してなんだが……


「彼女の中にも香取詩杏の要素は眠っていますよ。ただし、特異点・音無夕姫の性質が強すぎて表面化はしていません」


 いや、疑問は何故特異点っていう特殊性をもったまま、聖女なんだって意味なんだがな……

 が、どうも知ってて言わない言いたくないな気配なので聞かないことにする。


 …で、前置きが長くなったが、要するに今の聖女らには詩杏の面影よりも…場合によっちゃ強い別の印象があるのだ。

 極論、フラウやリースベルには昴の一面が。

 ほかの面子にゃソシャゲ好きの今時JKが。


 ……どっちも、下手に対応すりゃ通報案件だよ?

 実の娘と接触禁止世代。その面影強い少女たち。

 無理でしょ。絶対恋愛対象にできないってばよ。

 ……いや、フラウが可愛くないとは言わない。リースベルも愛らしい面は確かにある。

 ライレーネだって、今の彼女の背景話を知ったあとなら心情も変わったさ。

 ツララは……いまだによく解らんが…まぁ、情は湧いてる、確実に。


 だが、それらがラブに繋がる心かと問われたら…違うんだよな。


「聖女との恋愛は無理ですか?」

「無理…とも断言はできないかなぁ」


 実のところ、実際、フラウシアは俺の婚約者候補になってるらしい。

 もともと、彼女の聖女の資格はついでの要素が大きい。魔力に秀でた人材で、たまたま神殿内での立場も大きくなり、聖女認定もされたって…流れだからな。

 事象的な作用だとしても、社会的な認知度じゃその流れが主流だ。

 別にフラウを正妻にじゃなく、貴族特有の婚姻関係にはアリな内容の意味でだが。


「…ではさらに腹案の方も検討した方が万全でしょうか…」

「は? 腹案? ちょいと待て、さらにとか、まだ何か裏があるんかい!?」

「ええまぁ、無いとは言いません。

 しかし…あまり香取詩杏の望む内容ではありませんし、多少裏工作を固めてから──」

「待ってっ! それ当事者には教えとくもんな……っ」

「妨害工作の懸念があるので」


 というか、裏工作とか時間がかかりそうなもん、今のツララがやってる時間は……っ!


「…申告を忘れてました。

 イカロス・システムによるカルキノス・システムへの侵食度、現在92%。既に私はウザイン・ナリキンバーグの下位機能と変じています」

「……はい?」

「はい。機能運用上の表層人格に、特に大きな変質は生じませんでした」

「…………そりゃあ、良かったな?」

「これでもう、音無夕姫による白瀬雪緒の再生は叶いませんが、元より居ない者なのです。

 死者の冒涜ともとれる行いが絶たれるという意味では良かったというのは、正解です」

「……そりゃ、昴のことも含む皮肉だよなぁ……」

「彼女は、望みました。その違いは大きなものです」


 ……その言葉は、宇佐美博には嬉しい言葉だろうな。




 ……が、はぐらかされんぞ。


「で、腹案の内容ってのは?」

「黙秘します」

「ええっ、だっておまっ、俺の下位状態って!」

「ですので、運用上の人格に変化を求められなかった都合上、拒否権もそのままですから」

「………………」


 ツララに一つ、追記しとこう。

 こいつ、案外腹黒い。









※四章終了。

五章は例によって、少し書き貯め期間をいただきます。

今回は具体的にどれ程の期間を…的なものも勘弁してつかーさい。

理由はいろいろとぉ…(まぁ、近況でボヤイテルんですが)



※2

五章本編開始前に何本か、不定期投稿にて別視点の閑話を挟むかもしれません。








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