29 収束からの放散へ (2)
……あれから10年、この世界の面倒事をコンダラ・ローラーで踏み潰すが如く片付けまくり、ようやっと…娘に全てを与え俺が消える日がやってきた。
……いろいろ、あったなぁ……
辛いことも悲しいことも、もちろん、楽しいこともあったべなぁ……
それもこれも、全て時の彼方へと置き去り…後は静かに…静かに……
「静かにぃ………」
「──と、ありもしない未来への妄想はそのくらいになさいまして、そろそろ具体的な方針を御決めいただきたく。ウザイン様」
「あー、うん。はい…」
さて、本当の時の流れで言うと、図書館より別邸に帰還して半日も経ってなかったりする。
勢いで“世界征服!”とか往こうとしたが現実面で頓挫。
理由は簡単。
今の俺には、この世界を力ずくで壊すことはできても、統治とその維持は無理だから。
適当な理由で誕生した異世界だけど、生命集う異世界として成立してる以上、それらは俺の管轄外。本当にゲーム仕様の異世界ならNPCみたいに調整が効くのかもだが、宇佐美博は“本物の人間”が居る世界を望んだらしい。
で、そうした人の喜怒哀楽で世の中が動く世界を、昴が安心して暮らすものにはどうするか? …と具体的な方針の模索のために、いろいろな案を出していたのである…………
……さっきまで。
そして出た現時点での状況への感想は。
…冒頭の妄想で御理解いただけると思う次第。
「元が乙女ゲームなんだし、その他のモブの設定なんぞ適当で良いだろうに……。
なんでこう、人と人との愛憎劇が日に四桁オンエアされるような感情豊かなもんを……」
「特異点・ウザイン・ナリキンバーグ。貴方を含む三人の特異点の内、二人は女性。しかも一人は主婦。もう一人は学生生活ロスタイム中の教育実習生です」
「……ああ、はい。なんか納得したわ」
基本、平穏な日常より他人事の修羅場付きでピンクと鮮血の情景が好まれそうだ。
彼女ら基準で、さぞ蜜の味に満ちた世界を望んだんだろう。
「因みに、この世界の俺の成分は何処で仕事をしてんだろう?」
「人類の歴史は千年の戦乱と半日の平和で天秤が釣り合うと言われます」
……俺の成分は半日分なのかぁ。
諸行無常である。
さて、平和のための第一歩として集めた事前情報は、この国、コッパー王国を取り巻く国勢の記録。
〈ローズマリーの聖女〉の物語として必須となる敵国が幾つかあるのは仕方がないとして、実のところ潜在的な敵国、近年の情勢から湧いた敵勢力など、案外驚異の多い事実に頭を抱えた。
ついでに言えば、前世の現実の世界情勢のように、敵対はしつつも経済的には協力必須なとこもあり…というのが始末に悪い。
「何処も隣国みたいに、ミナゴロシで良いじゃん…で済まないのが面倒臭い……」
「そちらは、ソシャゲ版の設定の影響も大きいかと」
「なるほどねぇ…」
戦乱の影にドラマあり。
ゲーム的な戦闘画面が連続するより、合間合間にその戦場で戦う者たちの葛藤やら覚悟やらの演出があった方がプレイヤーは喜ぶ……と思い込んでる作り手のエゴ演出。
イベントモードのスキップ機能があれば秒で飛ばされるやつな事実。
通信コストの無駄の権化だ。
一部の業界にはご褒美って一面も確かにあるが。
で、勧善懲悪な戦争じゃなく、どちらも正義な理由はあるよ…的な群雄割拠の要素。
戦場で死ぬのは、臭い見た目の殺陣大好きなクズ兵士ばっかり…なやつらでも、戦いにそんな要素を好む作り手はマジに多すぎる。
ローズマリーの聖女のソシャゲ版も、そんな原作には欠片も無い新イベントがぶっこまれていて、ただ戦争に勝てば勝ち…じゃなく和平や講和に繋がる前提の内容もあるんだそうで。
…だから、乙女ゲームに国取り大陸制覇とかの要素は要らんのよ。
……本当に、あの行間だけはゲームのゲーム性ををダメにする魔窟だわぁ。
「少なくとも、ウザイン様の一代でどうこう可能な案件とはいえないものと、進言致します」
「まぁ、反論の余地も無くそうだなぁ」
互いに国としての価値を下げずに、そして交易の関係を消さないまま、戦争し合う。
そりゃ、為政者一代で確立できる程に単純なもんじゃない。
……というか、俺がこの国の為政者になったとして、ウザインのまま後半世紀現役で頑張っても無理だな。
「故に現実手な手法としては、今の社会の一部として、勝ち組の勢力内に身を置くのが最良と具申致します」
「…つまり、大きく世界を変える方向は無し…か?」
「はい」
「んー…しかしなぁ……」
その今の世界が物騒なんだが……。
そこに後ろ楯無しで昴を放り出すのが、妥協し難い案件なんだか。
この際、味方の貴族勢力ってのは勘定に入れてない。
そんなもんは不確実だし、逆に敵になる可能性も高いから。
神殿勢力も実態は似たりよったりだ。トリシアが基礎を築いた時は信用もおけたろうが、今は多くの人の思惑が加わり。しかもそちらの方が重要視される…程度のものなのだし。
質素敬虔な活動を守ってるからといって、清廉潔白でもないからな。
「特異点・ウザイン・ナリキンバーグ。
貴方は、自らの死と引き換えに宇佐美昴の復活をと拘ってはいないか?」
「……ん、だって、そのために俺は存在してんだろう?」
……あれ、またもツララとメイドの謎のアイコンタクト。
「香取詩杏の遺した選択肢に彼は気付いていません」
「盲点でございました」
「こちらも失念してました。彼は“アレ”でも、香取詩杏にとっての“勇者”だったのです…」
「…ああ、勇者ですか。……そういえば、主様にも僅かなりそういった懸念がございました。既にお三方…いえ、五人程にそういった感情を抱かせかけておりますのに……」
……なんだろう?
物凄く呆れられた口調で嘆いてる。
話題は…俺か?
……え、俺が呆れられてる?
やがて、愚痴りあいになってた二人も落ち着いて、シンクロした動作でこちらを凝視。
言葉をつむいだのは、ツララだった。
「特異点・ウザイン・ナリキンバーグ。
貴方の中に宇佐美昴という聖女が眠る。
では、今集おうとしている聖女の候補たちは、なんなのでしょう?」
「え?」
フラウたちか。
そりゃ候補ってんなら将来的には聖女に……あ、そうか。六人の聖女ではなく、その内の誰か一人が認定されて聖女に……
あれ、でもそうすると昴が聖女に収まるには?
あ、でも聖女自体は歴史の中に既に何人も……
「……ふぅ…。この世界の聖女は、物語の中で誰かを選び、伴侶を得る役割を持つ者ですよ──」
んん?
「──原典の物語は、聖女の女に絡む一人の男の不様さを笑う…言わばラブコメでしょう。その二人は作中で結ばれずに終わりましたが……今度はちゃんと選べ、という彼女のメッセージなんですよ」
「そういうわけでして、ウザイン様には正式に選ぶことが最善なのだと具申致します」
「……えーと、何を…かなぁ……?」
「それは勿論、花嫁でございます」
「貴方の伴侶より、真の聖女として誕生するのですよ。貴方の愛娘、宇佐美昴が」
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