02 夏の強制イベント (2)

 西洋貴族社会風の社交パーリィーぃ。

 俺の前世にそんな記憶は欠片も無いので、現実のソレと今の光景が同じか……との判断もつかない。

 学内で行う社交バーティは貴族も平民も基本は同じ。

 教室でも中庭でも、学内の一角をホスト役の学生が借りて立食式の会場を設定。基本はそのホストが招待状を出した者同士が集まって、パーティ内で交流を持ちましょうって形になる。


「ただし、平民は制服着用でドレスコードが成立するのに対し、貴族は立場に準じた“正装”が必須という理不尽」

「……?」

「いや、女子は良いんだ。ちゃんとナイトドレスっていう基本仕様が設定されてるし」


 生まれが貴族のライレーネはこの手の知識を知ってるだろう。

 しかし難民出のフラウは、後付の教育は済んでるだろうが実際は初体験。俺と同じなんで、小さなとこから疑問は潰していく。


 フラウのドレスは随分前から用意してたもの。薄紫のシルク地の生地を彼女の体型に合わせ立体縫製までした完全なオーダーメイド。

 ホルターネックで首と骨盤のみで衣装を保持するから可能な限り軽く作るのは必須事項。シルクってのは意外に重い布地なんだが、彼女を着飾る程度のものならそう負担となるものでもない。

 まして正面からは肩から先の両腕、膝下5センチから先しか肌の露出は無いものの、背面から見れば腰上までは何の布地も無い高露出。「まるで何も身に着けて無いみたい」とはちょっとアブナイ独白過ぎた。


 ……もちろん、“フラウ語”での表現なんで解るやつにしか解らないものだが。


 装飾となるのは胸元と右の腰に配した生地と同色の薔薇のコサージュ。

 社交の場で目立つというには控えつつ、しかし淑女らしくは演出したものにした……つもりである。


 で。



「……?」


 再びのフラウの質問。

 意味は“どうしてそんな服なの?”ってとこだ。


「まぁ、なんだ。実に簡潔に言うとだな、貴族社会の男の服ってのは……控えめに言ってカオスなんだ」


 そう、混純としか言いようがない。

 解りやすい例を挙げよう。

 可愛いの代表的物体、“フリル”。袖やらスカートの縁とかを飾ったり、女性モノの下着なんかには必須のパーツだったり。

 他には某セイバーな御嬢王様の基本霊装の巨大肩パッドなパフスリーブとか。

 あれら、元は男の服ですから。

 南米やらアフリカにごまんと居る見た目のド派手な鳥と似たもんだ。どういった進化があんな大自然の大道芸と化したかは知らんけど、同じ理屈でとにかく目立つ事だけを第一に、冷静に観たら奇人変人にしか見えない衣装が……正史に準じてんだか何だかでこの世界の貴族男子の正装枠に入ってたりすんだよね。


 ……俺としては、どうせ正装ってんなら軍服を基本にした比較的大人しめなのが有り難いんだが……あれ、近代仕様なせいか学生時代じゃ不人気な扱いで使い辛いんだ。


「制服と同等に動きやすさを大きく主張したらの……妥協の着地点がこれだったんだ」

「?」


 メイド隊が勧める正装が例えようもなく酷くてなぁー。

 大軍艦鳥アルバトロスの真っ赤な喉袋みたいな飾り付きで羽毛満載の上着とか……どうよ? ちなみに下はタイツな。異常にピッチリした感じで。

 そういったもんをトコトン駄目出しした挙げ句、こりゃ着る気が無いとバレたようでメイド隊も一計を企んだ。親父様ご推薦と称して貴族正装のカタログを持ち出し、“ここから選べ”な最終手段をとってきたんだ。


 擁護のつもりは無いが一応、実家での親父様の姿はそう変態ってわけじゃない。

 元が商人なせいかね、地味な色合いの中世っぽくタキシードとスーツの中間みたいなデザインのものを常に着ていた。

 もろにお貴族ってのは母のドレスの方が印象深い。

 あれはあれで、商談の裏工作でひらくママ友お茶会で必須な仕事着だったらしいけどな。


 ……だが……あのカタログにはそんな親父様の片鱗すら無いもんばっかだった……


 何処の塚俳優一覧集かって内容の中、さてドレを選んだら正解やら……いや正解は無いのかもだが。


 というわけで、泣く泣く選び、それでも悪足掻きしてアレンジかました貴族の正装は“大海を往く豪華帆船”だ。


 ……表現の間違いとかじゃないぞ。

 そうとしか言えないデザインなのだから。


 海賊帽子の上の部分にリアルに木造製の帆船模型がドーン。

 上着は“基本的”に軍服とも言えなくない感じの黒の詰め襟なやつ。

 ただし、肩や胸元に鮮やかな青の色飾り布が文字通り波打つ感じに飾られている。


 ……仮装のようだし実際仮装にしか見えないが、これでも正装。

 妥協の部分は、波以外のとこの真っ青まっつぁおだったのをナントカ黒に変えれたところ。

 あと絶対要らなかったろうなカイゼルの付け髭の削除。


 ……ホントにマッタク、こんなイカレデザインの元となった本物の貴族社会ってのは始末に負えない。

 革命起きて滅ぶのも当然だわ。

 もっとも、そうして滅んだからこそ、これらのデザインを原形にしてゴスロリやら歌劇やら竜退治のRPGやらと、やがては“可愛い”を世界に輸出するオタク文化の地球汚染に繋がるんだけどなぁー……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る